表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
120/269

第120話 復旧へ

挿絵(By みてみん)





 覚醒都市バイカルヴェイ北部。変電所付近。


 三つ頭の犬型の獣。その分身体が崩れ去っていく。


 淡い光へと変わり、地面に燃え盛る紫炎の勢いは衰える。


 他の頭が有する異能力は披露されることなく、沈黙していった。


「…………」


 勝った。成長した。新たな技を覚えた。


 刀を握り込み、勝利を実感したフリをする。


 でも、嬉しさが込み上げてくることはなかった。


 むしろ、その逆。妙な気持ち悪さだけが手元に残る。


 主観的で感覚的。客観的じゃなく大した根拠はなかった。


 ただ、今までの経験と照合すると、おおよその察しがついた。


(人を斬った気がする……。それも、身内の……)


 脳内で蘇るのは、港神社の前で起きた惨殺事件。


 『滅葬志士』に属する隊員数百名を、この手で殺した。


 当時と似た感覚で、分身体とは言っても、嫌な気分だった。


「お見事でした。やればできるじゃありませんか」


 そこにやってきた女教師は、月並みな褒め言葉を並べる。


 すでに鞭の拘束は解かれ、手には何も持っていない状態だった。


「…………ど、どうも」


 刀を鞘に納めて、自然な対応で何でもないフリをする。


 根拠のない妄想に付き合わせる気はなく、平常運転が一番。


 あの魔獣について聞いてみたかったけど、今じゃない気がした。


「驕りも高ぶりもしない。殊勝な心がけですね。……さて、停電の件ですが」


 話を切り上げ、女教師は話を進めている。

 

 自ずと視線は、変電所を覆う黒い結界に向く。


 停電を直すには、所内のブレーカーの操作が必須。


 位置は女教師が知っているけど、中には入れない状態。


 結界を張る人物と接触する必要があり、課題は残っていた。


 ――だけど、たぶん大丈夫。


「し、心配いりません。広島さんなら、やってくれるはずです」


 大穴の方面に視線を向け、密かに期待する。


 その思いに応えるように、赤い光柱が立ち昇った。


 都市の天井に迫る勢いで迸り、花火のように消えていく。


 ほどなくして黒い結界が解除され、変電所が露わになっていた。


「この反応……。まさか、セルゲイ大尉を単身で……」


 状況から察しがついたのか、女教師は妄想を膨らませる。


 こちら視点だと答えが分かってるから、時間がもったいない。


 細かく説明しても生産性はなく、意識を向けるものは別にあった。


「そ、それより、案内してもらえませんか。停電を直したいので」


 ◇◇◇


「セルゲイ大尉か。しかと名は刻んだ。今は眠るとええ」


 倒れた好敵手に目を向けて、うちは言い放つ。


 般若を模した仮面は解かれ、光と変わっていった。


 自ずとやるべきことは一つに絞られ、身体は動き出す。


「さて、邪魔モンはいなくなった。これでようやく……」


 大穴の底から跳躍し、次に目指すべき場所は変電所じゃった。


 ◇◇◇


 変電所内を案内され、制御盤前にたどり着いた。


 ボックス状のケースに覆われているけど、剥き出し。


 外から丸見えの状態で、襲われることは視野になかった。


 恐らく、余所者に侵入される想定はなく、気管支で弾く前提。


 セキュリティが甘いように感じてしまうけど、事情は理解できた。


 たぶん物資や建材には限りがあって、『白龍ジーク』の設備を強化した。


 発電所>変電所。優先順位から考えれば当然の対応で、なんら違和感はない。


「事情は存じかねますが、直してもよろしいですね?」


 女教師はブレーカーらしきものを手で掴み、最終確認を取る。


 説明は後回しにして、ここまで来た。全ては時短。この時のため。


 本来なら点検と確認作業が必須らしいけど、それも省略してもらった。


 変電が上手くいかなかった場合、供給された電気が家電を破壊するからだ。


「や、やってください。責任は……わたしが持ちます」


 諸々の事情と危険性を分かった上で、判断を下した。


 失敗するリスクはあるけど、作戦を考えれば、電力は必須。


 厳密に言えば、通信手段の確保は、意思疎通に必要不可欠だった。


「では、お言葉通り…………」


 指示に従い、女教師はブレーカーに力を込める。


 ほんの数十秒後には、電力が戻り、都市機能は回復する。


 全て元通りというわけにはいかないだろうけど、着実に一歩進む。


「悪いが停電は直させん。なんとしてもな……」


 次の瞬間、物陰から現れた人物が拳を振るう。


 制御盤を貫き、完膚なきまでに復旧は阻止される。


 順調に進みかけていた計画を妨害してきたのは、仲間。


 細かく情報共有せず、自由に行動させていた遊撃兵の一人。


(あぁ……。わたしがしっかりしていれば、こんなことには……)


 広島への伝達ミス。意思疎通を図らなかった弊害。


 事前に相談していれば避けられた、人為的事故だった。


 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ西部。病棟の地下四階。研究室。


 そこでは、暗闇で医療ポッドを見つめている二人の姿があった。


「5分経過。時間切れのようですね」


 手元にある懐中時計を確認し、赤髪メイドは言い放つ。


 『停電の復旧』をかけた延長。その刻限は無情にも過ぎていた。


「……約束は約束。やむを得んな」


 諦めるしかなく、医療ポッドの基盤を手動で操作を進めていく。


 中には半魔獣化で眠っている娘がおり、意識不明の状態が続いとる。


 最善の治療を施すには『電力』がどうしても必要じゃったが、仕方ない。


 液体を除去する弁。それを制御するハンドルを回していた時、それは起きた。


「――――」


 バリンと医療ポッドの表面が割れ、液体が溢れ出す。


 一瞬、温度上昇の弊害かと思ったが、そうではなかった。


 ピトリと音を立て、白い患者衣姿で歩き始め、瞳には光が宿る。


「目が覚めたのか……。ソーニャ……っっ」


 それ以上の言葉はなく、目頭が熱くなるのを感じた。


 安心できる状態ではないものの、完全に気を許していた。


「家族ごっこっすか。……クソ、食らえ」

 

 そこで発せられた言葉は、おおよそソーニャのものではなかった。


 右手を突き出し、明確な殺意をもって、ワシを攻撃しようとしている。


 戦闘という選択が頭の片隅にもなく、致命的に反応が遅れてしまっていた。


「――――」


 覚悟を決めた時、フワリと身体は抱えられ、宙に跳んでいた。


 直後、元いた地面は八つ裂きになっており、束の間の生を実感する。


「……すまん、助かった。礼を言う」


 冴えた頭で状況を理解し、顔を上げて、伝える。


 そこには、怒りの表情を浮かべる赤髪メイドの姿があった。


「いえ、あなた様は客人。当然のことをしたまで。それよりも……」


 安全圏と思われる距離で着地し、彼女は優しく地面に下ろす。


 すでにワシは眼中になく、鋭い目線で見つめるのは、ソーニャ(仮)。


「その言葉、その態度、その仕草。全てが癇に障る。少しは見直したと思ったら、性根は変わってない。この腐れ外道の十三下! ナガオカ・メリッサ!!!」


「ははっ、相変わらずっすね。……変わってないようで何よりっす」


 二人を結びつけているのは、因縁であり、腐れ縁。


 詳細は知る由もないが、避けられん闘いが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ