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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第118話 対軍人

挿絵(By みてみん)





 覚醒都市バイカルヴェイ北部。変電所付近。


 大穴の底で対峙するのは、女と男。余所者と軍人。


 実力もセンスも格上の相手に、うちは嬉々として挑んだ。


 ――『世界最強の男に勝つ』。


 それを目的に据えた以上、避けられない闘い。


 ここで逃げ出せば、ここまで生きてきた意味がない。


「――」


 繰り出すのは、右手の正拳突き。基本の型。


 軍人の鳩尾部分を狙い、七割のセンスを乗せる。


 最もバランスの取れた割合。残り三割で身体を守る。


 あくまで体術にこだわり、消耗の多い意思能力は避けた。


 連戦が続いとるせいで、センスの底が近く、ばかすか打てん。


 ――『超原子拳アトミックインパクト』換算だと残り四発分。


 体術での消耗もあるから、上手く節約せにゃあいけん。


 現実的に考えりゃあ、『ここぞ』の場面で使えるのは、三発。


 それ以上はパンクする。気絶してもええんなら、四発使える計算。


 ――体術で崩し、一発で決めるのが理想じゃ。


 そのためにも、一度でええから読み勝たんといけん。


 この戦闘で勝つか負けるかは全て、『体術』にかかとった。


「……」


 相手は表情をピクリとも動かさず、不動。


 拳を鳩尾付近で受けながら、ダメージはない。


 ――原因は、体表面を纏うセンス。


 分厚い壁を用意したように、正拳を止めとる。


 しかも、腹に集中させた様子もなく、割合は均等。


 攻防力移動に意識を割く必要がないことを意味しとる。


「ちっ……。このセンス馬鹿が……っ!!」


 最大級の褒め言葉と共に、うちは左右交互に正拳を繰り出す。


 拳に割いたセンスを徐々に高め、敵の攻防力を貫ける割合を探る。


 ――七割、八割……そして、九割。


 身を守るセンスが薄くなる代わりに、拳の威力が増す。


 敵の黒い光壁を徐々に侵食し、ようやく腹に届こうとしていた。


「―――――」

 

 軍人は目を細め、うちを静かに見つめとった。


 正拳は意に介さず、反撃も防御もする気配はない。


 心を読み取れるほど繊細じゃないが、異常なのは確か。


 拳を進めるごとに違和感は増していき、漂うのは死の気配。


 これ以上進んだら、死ぬ。そんな根拠のない直感が体を動かす。


「……っっ」


 うちは拳を途中で止めて、自然と回避を選択した。


 拳の威力と引き換えに、身の守りが薄かったのは明白。


 過剰反応だったとしても損はせん。選択に後悔はなかった。


「見事……。敵ながらあっぱれだ」


 不動の体勢のまま、軍人は両手を叩き、賞賛していた。


 舐めプのように思えるが、馬鹿にしとるような感じとも違う。


 ――大真面目。


 敬意をもって敵に接しているのが、伝わってくる。


 心の機微に疎い肉体系じゃが、それぐらいは分かった。

 

「は? 戦況は五分じゃろ。なんも褒めるところは……」


 ただ、どの部分を指しているのかが分からん。


 突きか、攻防力移動か、センスを突破したからか。


 ――それとも、退避したことか。


 パッと思いつく限りの可能性を並べ、候補を絞る。


 ぐるぐると思考を巡らせるが、答えは明らかになった。


「……っっっ」


 視界が揺れ、膝が崩れ、身体の力が抜ける。


 後れて腹部に鈍い痛みが走り、片膝をついてしまう。


 自ずと退避を賞賛されたことになり、一つの事実に繋がった。


(攻撃を受けた……じゃと? いつ……どこで……?) 


 致命傷ではなかったものの、違和感は膨れ上がる。


 体術にせよ能力にせよ、予備動作がなく、見えんかった。


 先の攻防のどこかに違いないが、速度重視の技なら相当まずい。


 接近戦では勝てないことを意味し、近距離型のうちとは相性最悪じゃ。


「どうした? 気分でも優れんか? ……であれば、こちらから行くぞ」


 無意味な質問を重ね、軍人は地面を蹴りつける。


 接近戦の速度勝負に持ち込まれれば、こちらが不利。


「――超破砕拳スラグインパクト!!!」


 貴重な一回分を消費し、うちは右拳を振り上げる。


 純粋な破壊は求めておらず、繊細な破壊を求めた一撃。


 拳圧により地面は砕かれ、無数に飛来する礫と化していた。


 ショットガンさながらの疑似的な散弾が、軍人の肉体へと迫る。


「………………」


 しかし、分厚いセンスの壁に遮られ、効果はない。


 見る見ると距離は縮まって、拳が届く間合いに入ってくる。


(効かんか。じゃったら……アレに賭けるしかない)


 不利は承知の上で、うちは覚悟を決める。


 センスの消耗は激しいものの、背に腹は代えられん。


超原子二連拳アトミックダブルインパクト!!!!」


 二回分を消費し、放つのは縦に並んだ両の拳。


 先の魔獣を退けた一撃じゃが、センスは限界が近い。


 これで決まらんと死が見える。そもそも当たるか分からん。


 一か八かの危うい博打じゃったが、勝ち筋は他に考えつかんかった。


「…………」


 黙したまま、軍人は拳を待ち受ける。


 あえて食らうように無防備な体勢を保つ。


 ――さすがに気付く。


 あまりにも露骨過ぎて、嫌でも理解できてしまう。


 先の負傷は、見えないレベルの速度に特化した技じゃない。


(反射装甲……。カウンター型の意思能力……っ!!)


 接触する寸前、うちはセンスを極限まで弱める。


 相手に触れることなく拳は止まり、大きく距離を取った。


「本質を察したか。……だが、どうする。センスを維持するのも限界に見えるが」


 途中で止めたとはいえ、意思は消費される。


 うちの弱まる光を見つめて、敵も事情を察する。


 予想が的中したのは確実じゃが、追い込まれた状況。


 普通なら諦めてもおかしくないが、引くわけにはいかん。


「ここからが本番じゃ。奥の手見せたるから、心して待っとれ」


 うちは静かに言い放ち、なけなしのセンスを絞り出した。

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