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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第110話 連鎖する魂

挿絵(By みてみん)





 独創世界『街路王ストリートキング』。それにより、形成されるのは武舞台。


 夜の熱帯雨林が広がり、マングローブの上に小屋と木橋が形成。


 観戦者は誰もおらず、相対する形で木の橋に立っているのは、二名。


ベクター

体力『□□□□□□□□□□』

必殺『■』


アルファ

体力『□□□□□□□□□□』

必殺『■』


 二つのゲージと名前が両者の頭上に表示される。


 仕様は、相手の体力を0にしなければ出られない空間。


 ダメージを与えるごとに、必殺ゲージは上昇し、MAXは10。


 最大の状態で意思能力を使用すると、威力と精度にバフがかかる。


 設定を開示する縛りは存在せず、相手は強制的なタイマンを強いられる。

 

(アルファか。まるで聞き覚えのない名前だな)


 独創結界の主、ベクターに宿るダンテが着目したのは、名前。


 黒い人型の蜥蜴。飛び抜けて強い気配を放っている魔獣の名称だった。


『――チンケな技だ。それで私を閉じ込めたつもりか?』


 アルファは喉を震わせ、人の言語を流暢に扱っている。


 確かな理性があり、状況を一目で理解できる知能もあった。


 偏った口調もなく、素養のある一般男性のような印象を受ける。


 ――魔獣が話せることに違和感はない。


 覚醒都市と、煉獄界の環境設定は理解している。


 相手が『魔獣化した人間』と仮定すれば、筋は通る。


 罪人を煉獄界に送る仕組みを考慮すれば、十分あり得る。


 ――ただ、脳が理解を拒む。


 口調、波長、態度。その全てに既視感があった。


 顔や形、歩んだ人生は違えど、大元となるものは同じ。


 真っ先に脅威を察した理由でもあり、自ずと答えを口にした。


「お前は…………私か?」


 闘うよりも優先したのは、生じた違和感の解消だった。

 

 答えが返ってくる保証はないが、内容次第で前提が変わる。


 単純な勝ち負けではなく、それ以外の問題を抱えることになる。


『そこにいたのか、ダンテ・アリギエーリ。……いや、私の紛い物』

 

 アルファが口走ったのは、最悪の回答。


 恐らく、この世で最も面倒な敵が立ち塞がった。


 ◇◇◇


 魂は循環し、忘却し、離別し、やがて巡り合う。


 過去現在未来では推し量れない多次元的で抽象的概念。


 現実世界の理の外側にあり、時間は一方通行ではありません。


「始まった……ようですね」


 二次送電用の鉄塔の上。そこで復旧作業を進めつつ、察します。


 同じ魂を持つ者同士の邂逅。魔獣と煉獄界の神秘が明かされる瞬間。


 絶縁手袋を巧みに操り、電線同士の構成繊維を繋ぎ、思いを巡らせました。


(魂の邂逅は連鎖する。わたしくもいずれ……)


 『狂犬』。七聖獣。ロザリア・アッカルド。それは、今生の肩書き。


 世界の常識に照らし合わせた記号でしかなく、本質的ではありません。


 少なくとも、三名。同じ魂を持った人物が、世界に同時に存在しています。


 顔も名前も知る由はありませんが、遠い場所で動き始めたのを感じ取れました。


「…………」


 縁と縁を繋ぐように修復を進め、手に取ったのは最後の電線でした。


 これを終えれば電力は復旧し、覚醒都市のインフラは再び元に戻るでしょう。


 ――そこで生じるのは、迷い。


 復旧させなかった未来に、思いを馳せること。


 もしそうなれば、ソーニャは暴走し、都市は滅びる。


 被害を考えれば、直す一択のように思えますが、諸説あり。


 既存の舞台や思想を破壊することで、生まれる世界も存在します。


(飴と鞭。厳しい現実を突きつけるのも一興、でしょうか……)


 死人が出ることを考慮した上で、思考は悪い方へ傾きます。


 破滅した先にある復興、それをもう一度見たい欲に駆られました。


「――大人しく直してもらえますか。言う事を聞くなら、手は出しません」


 そこで聞こえてきたのは、冷ややかな言葉でした。


 後ろを振り返ると、日本刀の切っ先を向ける白髪の女性。


 簡易結界を足場にし、高さ数十メートル上空に留まっています。


 ――反撃は可能。


 実力は未知数ですが、後れを取ることはないでしょう。


 電力の復旧作業に失敗した理由付け。大義名分も得られる。


 己が破滅願望を叶えるのであれば、都合のいい展開と言えます。


 ――ただ。


「痛いのは嫌いですので、答えは『はい』ですね」


 これもまた何かの縁であり、運命。


 起きた流れに身を任せ、最後の電線を接続。


 バチリと音を立てて繋がり、修復作業は完了します。


 後は変電所のブレーカーを上げれば、停電は復旧されるはず。


「ご協力感謝します。……このままブレーカーまで案内してもらえますか?」


 白髪の女性は、日本刀の切っ先を下げつつ、次なる指示を下します。


 服装は白の軍服に、憲兵の腕章をつけていますが、見覚えがありません。


 ――恐らく、余所者。


 停電を企てた勢力か、授業参観に来た人たちのお仲間でしょう。


 どちらにしても、電力を『直す』側なのは間違いありませんでした。


「承知しました。……こちらへ」


 ひとまず指示に従い、鉄塔の上部から跳躍。


 颯爽と地面に着地し、変電所へと向かおうとします。


 ついてきていることを確認し、足を進めるとそれは起きました。


「「――――っっっ」」


 わたくしたちは同時に足を止め、変電所前で立ち往生します。


 結界が行く手を阻むことも去ることながら、問題はそれにとどまりません。


『――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!』


 生じるのは、魔獣の咆哮。規格外の大きさを誇る敵性存在。


 三つの頭に、三つの尻尾を持つ黒い犬。ソーニャの完全分身体。


 停電開始より1時間経過。タイムリミットは過ぎ、混沌は訪れました。

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