第110話 連鎖する魂
独創世界『街路王』。それにより、形成されるのは武舞台。
夜の熱帯雨林が広がり、マングローブの上に小屋と木橋が形成。
観戦者は誰もおらず、相対する形で木の橋に立っているのは、二名。
ベクター
体力『□□□□□□□□□□』
必殺『■』
アルファ
体力『□□□□□□□□□□』
必殺『■』
二つのゲージと名前が両者の頭上に表示される。
仕様は、相手の体力を0にしなければ出られない空間。
ダメージを与えるごとに、必殺ゲージは上昇し、MAXは10。
最大の状態で意思能力を使用すると、威力と精度にバフがかかる。
設定を開示する縛りは存在せず、相手は強制的なタイマンを強いられる。
(アルファか。まるで聞き覚えのない名前だな)
独創結界の主、ベクターに宿るダンテが着目したのは、名前。
黒い人型の蜥蜴。飛び抜けて強い気配を放っている魔獣の名称だった。
『――チンケな技だ。それで私を閉じ込めたつもりか?』
アルファは喉を震わせ、人の言語を流暢に扱っている。
確かな理性があり、状況を一目で理解できる知能もあった。
偏った口調もなく、素養のある一般男性のような印象を受ける。
――魔獣が話せることに違和感はない。
覚醒都市と、煉獄界の環境設定は理解している。
相手が『魔獣化した人間』と仮定すれば、筋は通る。
罪人を煉獄界に送る仕組みを考慮すれば、十分あり得る。
――ただ、脳が理解を拒む。
口調、波長、態度。その全てに既視感があった。
顔や形、歩んだ人生は違えど、大元となるものは同じ。
真っ先に脅威を察した理由でもあり、自ずと答えを口にした。
「お前は…………私か?」
闘うよりも優先したのは、生じた違和感の解消だった。
答えが返ってくる保証はないが、内容次第で前提が変わる。
単純な勝ち負けではなく、それ以外の問題を抱えることになる。
『そこにいたのか、ダンテ・アリギエーリ。……いや、私の紛い物』
アルファが口走ったのは、最悪の回答。
恐らく、この世で最も面倒な敵が立ち塞がった。
◇◇◇
魂は循環し、忘却し、離別し、やがて巡り合う。
過去現在未来では推し量れない多次元的で抽象的概念。
現実世界の理の外側にあり、時間は一方通行ではありません。
「始まった……ようですね」
二次送電用の鉄塔の上。そこで復旧作業を進めつつ、察します。
同じ魂を持つ者同士の邂逅。魔獣と煉獄界の神秘が明かされる瞬間。
絶縁手袋を巧みに操り、電線同士の構成繊維を繋ぎ、思いを巡らせました。
(魂の邂逅は連鎖する。わたしくもいずれ……)
『狂犬』。七聖獣。ロザリア・アッカルド。それは、今生の肩書き。
世界の常識に照らし合わせた記号でしかなく、本質的ではありません。
少なくとも、三名。同じ魂を持った人物が、世界に同時に存在しています。
顔も名前も知る由はありませんが、遠い場所で動き始めたのを感じ取れました。
「…………」
縁と縁を繋ぐように修復を進め、手に取ったのは最後の電線でした。
これを終えれば電力は復旧し、覚醒都市のインフラは再び元に戻るでしょう。
――そこで生じるのは、迷い。
復旧させなかった未来に、思いを馳せること。
もしそうなれば、ソーニャは暴走し、都市は滅びる。
被害を考えれば、直す一択のように思えますが、諸説あり。
既存の舞台や思想を破壊することで、生まれる世界も存在します。
(飴と鞭。厳しい現実を突きつけるのも一興、でしょうか……)
死人が出ることを考慮した上で、思考は悪い方へ傾きます。
破滅した先にある復興、それをもう一度見たい欲に駆られました。
「――大人しく直してもらえますか。言う事を聞くなら、手は出しません」
そこで聞こえてきたのは、冷ややかな言葉でした。
後ろを振り返ると、日本刀の切っ先を向ける白髪の女性。
簡易結界を足場にし、高さ数十メートル上空に留まっています。
――反撃は可能。
実力は未知数ですが、後れを取ることはないでしょう。
電力の復旧作業に失敗した理由付け。大義名分も得られる。
己が破滅願望を叶えるのであれば、都合のいい展開と言えます。
――ただ。
「痛いのは嫌いですので、答えは『はい』ですね」
これもまた何かの縁であり、運命。
起きた流れに身を任せ、最後の電線を接続。
バチリと音を立てて繋がり、修復作業は完了します。
後は変電所のブレーカーを上げれば、停電は復旧されるはず。
「ご協力感謝します。……このままブレーカーまで案内してもらえますか?」
白髪の女性は、日本刀の切っ先を下げつつ、次なる指示を下します。
服装は白の軍服に、憲兵の腕章をつけていますが、見覚えがありません。
――恐らく、余所者。
停電を企てた勢力か、授業参観に来た人たちのお仲間でしょう。
どちらにしても、電力を『直す』側なのは間違いありませんでした。
「承知しました。……こちらへ」
ひとまず指示に従い、鉄塔の上部から跳躍。
颯爽と地面に着地し、変電所へと向かおうとします。
ついてきていることを確認し、足を進めるとそれは起きました。
「「――――っっっ」」
わたくしたちは同時に足を止め、変電所前で立ち往生します。
結界が行く手を阻むことも去ることながら、問題はそれにとどまりません。
『――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!』
生じるのは、魔獣の咆哮。規格外の大きさを誇る敵性存在。
三つの頭に、三つの尻尾を持つ黒い犬。ソーニャの完全分身体。
停電開始より1時間経過。タイムリミットは過ぎ、混沌は訪れました。




