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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第109話 希望と絶望

挿絵(By みてみん)





 停電開始より51分経過。司令部内にある、尋問室。


 バタバタと慌ただしい足音が、廊下から聞こえてくる。

 

 恐らく元帥の命令だ。どうやら交渉に進展があったらしい。


 もし失敗に終わったなら、伝令がやってきてアレクセイに通達。


 俺、というか、一般兵『ジーナ・ロマノフ』の処刑を命じたはずだ。


 ――ただ、そうはなってない。


 俺の存在なんて眼中になく、別の目的に動き始めたんだろう。


 つまり、折り合いがついたんだ。具体的な内容は知る由もないがな。


「……余所者に命を救われたな。お咎めなしとはいかないだろうが」


 変化に気付いたアレクセイは語りかけた。


 尋問室の壁に背中をつけて、両腕を組んでいる。


 偉そうな物言いだったが鼻につかない。事実だからな。


 そんなことより、他に考えないといけない問題が山ほどある。


「まぁ……それはさておき、気になるのは地上の反応ね。心当たりはある?」


 隣に立つ赤髪アフロのバグジーは、上を見つめながら言った。


 視線の先には、三日月状の穴が開いた天井があり、地上を覗ける。


 とは言っても、視野角は狭く、停電のせいで視認できるものは少ない。


 五感頼りの方法だと、得られる情報は少ない。別の手段なら話は別だがな。


(巨大な反応が複数。一人は間違いなくジーノだが……)


 第六感……というよりも、第七感的なセンスを頼りに正体を悟る。


 心当たりだし、有益な情報だが、そのまま口にするのは抵抗があった。


「都市上空に謎の強者一名。変電所ではセルゲイ大尉と敵対者。煉獄の門ではターニャ中尉、オレグ少尉、余所者三名対魔獣の軍勢で間違いない。強い気配は北部に集中し、南部にある居住区に被害が及んでないのは不幸中の幸いだな」


 言い淀んでいると、アレクセイは解像度の高い状況報告を行う。


 感覚系というわけじゃなく、こいつの場合は分析力と論理的思考だ。


 見聞きした情報から頭の中で登場人物を並べ、空白は状況証拠で埋める。


 ――感覚に頼る俺とは真逆の手法だった。


 大まかな反応しか分からないはずだが、この精度。


 普段は隠しているが、軍の中でも上澄みの諜報力だろう。


「へぇ……見かけによらず、やるじゃない。アタシ好きよ、優秀な子は特に」


 バグジーは色目を使い、アレクセイに語りかけている。


 性欲由来なのか、公平な基準においての評価なのかは不明。

 

 まぁ……今はどっちでもいいが、味方(仮)の観察は続けたい。


 人物像を把握しておくのは、後々のことを考えれば、必須だからな。


「世辞はやめろ。センスと客観的な事実を基にした推測だ。やろうと思えば、誰でもできる。……それよりも、立場を明確にしておきたい。ジーナを動かす予定があり、軍部がそれを許可しなかった場合、お前は敵か味方かどっちだ」


 軽く受け流し、アレクセイは鋭い質問をぶつける。


 恐らく今後の展開に関わってくるであろう、いい探りだった。

 

「それはもちろん――」


 するとバグジーは、答えを口にしようとしている。


 聞き耳を立てていると、騒がしい足音が聞こえてきた。


 その勢いのまま、尋問室の扉は開かれ、兵士が入ってくる。


 白の軍服に、白のベレー帽を深く被った男性で、左腕には腕章。


 ――憲兵と似てるが、腕章のデザインが異なる。


 交差した銃じゃなく、翼の生えたラッパが刺繍される。

 

 伝令特有の特徴であり、男は尋問室に訪れた目的を語り出した。


「兵士ジーナを所定の位置に配置せよとの命令だ。ただちに連行する」


 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ北部。『煉獄の門』入口付近。


 そこでは、無数の魔獣と防衛側との戦闘が行われていた。

 

 闘いは熾烈を極め、青い血が飛び散り、獣の死体が散乱する。


 停電開始とほぼ同時期に門が開き、絶えず魔獣が流れ込んでいた。


 時間にすれば約50分以上は闘い続けているが、防衛側の被害者はない。


 個々の戦闘力と生存力の高さを示す結果だが、疲労の色が見え始めていた。


「もう、キリがない……っ!!」


 巨大化した黒熊のぬいぐるみのアッパーが、馬型の魔獣に炸裂。


 その背中に乗り、意思で操っているターニャは、心情を吐露していた。


「愚痴る暇があったら一匹でも多く倒したら?」


 死角から猛追する猪型の魔獣に、リーチェは右拳を振るう。


 『回転』による螺旋の衝撃波が生じ、迫る敵を押し潰していった。


「……リーチェ様。お言葉ですが、このままではジリ貧でございます」


「誰かが門を閉じないと、僕たちは……いや、覚醒都市は終わりを迎えるね」


 エミリアは牛型の魔獣に足刀を振るい、オレグは銀の大盾でカバー。


 怪我の功名として、見ず知らずだった仲での連携が取れようとしていた。


 ただそれでも魔獣の軍勢を押し切り、門を閉じる余裕がないのが現状だった。


「…………」


 そんな中、ベクターを操るダンテは孤高に闘う。


 誰かを頼ることなく、避けるようにして魔獣に挑む。


 タイマン至上主義の思想に則り、ロールプレイに励んだ。


 ――だからこそ、最初に気付く。


 門の奥から迫る強敵の存在。即席パーティ全滅の危機。


 誰よりも危機を察し、最悪の事態が訪れる前に先手を取る。


 意思疎通を取る手間すら惜しく、単独で一直線に敵へと迫った。


『………………』


 煉獄の門の前で立ち尽くすのは、人型の魔獣だった。


 黒い蜥蜴のようなフォルムで、毛は生えず、尻尾を生やす。


 出生も原典も不明。比較できる存在がなく、不気味な空気を纏う。


「一か、八かだ……っ!!」


 ダンテは技巧を凝らすことなく、右腕を大きく振りかぶる。

 

 顕在センス量を全て込めた拳が、敵の頬を捉えようとしていた。


『………………』


 見事に命中するも、人型の魔獣はピクリともしない。


 ノーダメージ。渾身の通常攻撃では、有効打にならない。

 

 しかし、奇しくもそれは、ベクターが有する能力の発動条件。


「独創世界『街路王ストリートキング』」

 

 本気で殴っても、倒すことができない相手。


 それが、土俵タイマンに入るために課された条件だった。

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