第108話 進展
変電所の外れ。運搬用道路に出来た大穴付近。
覚醒都市上空に打ち上がるのは、魔獣化した強者。
少年の方はジーノで、魔獣の方はボルドというらしい。
詳しいことは分からんが、人格が二つあるのは、ほぼ確実。
どうにか撃退したが、考えにゃあならんことがいくつかあった。
(さっきの技、間違いなくボルドのもんじゃ……。どうなっとる……)
うちは大穴から移動して、道路上で考える。
頭に焼き付くのは、側頭部から角を生やす必殺。
最初は同姓同名かと思うたが、どうやら違うらしい。
巨大生物に襲われた際に放った技と、全く同じじゃった。
「…………」
その思考の狭間に目に入ったのは、ほのかな発光。
位置から考えりゃあ、二次送電用の鉄塔付近じゃった。
数百メートルの距離にあり、崩れた土台がすでに直っとる。
千切れた電線を繋ぐ作業に入り、八割ぐらいは修復されとった。
どんな手品を使うとるのかは知らんが、直りかけなのは間違いない。
(いや、深く考えとる場合じゃなかろうね。早う止めんと、電力が復旧する)
抱いた疑問を思考の隅に追いやり、今に意識を向ける。
現状の目的は二つ。『ベズドナの帰還』『覚醒都市の再構築』。
今のところ、成功の兆しが見えとらん以上、停電は必須じゃった。
「――――」
向かう先は、鉄塔ではなく、変電所。
狙いは、施設内にある『変圧器』じゃった。
鉄塔でも悪うなかったが、戦闘になる確率が高い。
労力を割かんで済むなら、それに越したことはなかった。
「……」
しかし、足は止まる。止まらざるを得なくなる。
変電所を囲うように張られたのは、黒い結界じゃった。
恐らく物理的に侵入することは難しく、元を潰さんといけん。
(……少々、時間をかけすぎたみたいじゃのぅ)
『煉獄の門』の防衛網を考えれば、当然の結果じゃった。
むしろ、防衛目線で見れば、対応が遅かったぐらいじゃろう。
都市機能の中枢を放置するのは、あまりにリスクが高すぎるからの。
「さて……どうしたもんか……」
うちは独り言をこぼし、立ち尽くす。
打つ手はあったが、重い腰が上がらない状態。
思考を巡らせていると、答えは向こうからやってきた。
「――問おう。そちらは、停電を引き起こしたテロリストに違いないか?」
目の前に現れたのは、黒いセンスを纏う屈強な髭面の漢。
色と気配からして結界を作った大元。次の対戦相手じゃった。
◇◇◇
停電開始から50分経過。司令部内、元帥執務室。
行われたのは、『テロ首謀者』と『都市責任者』の対談。
政治的交渉でもあり、お互いの懐を明かし、折り合いを探った。
――焦点は『白龍ジークの処遇』。
現状、都市機能の根幹である『水』と『電気』を生み出す存在。
欠ければ人命にかかわり、一定の被害が出ることは聞き及んでいる。
それでも意見は変わらず、白龍依存を脱却させる代替案を提示していた。
「……まるで絵空事だ。現実的とは到底思えん」
交渉相手であるドミトリー元帥は、難色を示している。
現状維持を望む都市側の代表としては、当然の反応だった。
『はい、分かりました』って、軽い二つ返事で終わるわけがない。
「お、お言葉ですが、白龍の恩恵がずっと続くと思うのも現実的じゃありませんよね。最悪の事態を招いてからじゃ、遅い。い、今の内に手を打っておくことが、覚醒都市の未来を考えても、良い方向に転がるはずです!」
革命を望むわたしは、代替案を推す側に回る。
不安を煽り、さらに議論を過熱させようとしていた。
「……では仮に、我々が代替案に乗ったとしよう。ただそれには、『白龍のジーク』の解放条件である『全住民の同意』が必須となる。前提とするには重すぎる条件だ。それに対して、具体的な案はあるのかね?」
するとドミトリーは、厳しい角度で疑問をぶつけた。
議題は未来。この場の交渉が上手くいった後の話だった。
前向きな意見だからこそ、こちらの裁量と計画性が試される。
上手い返しが出来なければ、交渉は決裂するのが目に見えていた。
革命側全員の命とも直結し、期待と不安と責任が肩に重くのしかかる。
――それでも。
「わ、わたしたちには『偶像』がいる。都市民にも刺さる、とっておきです」
わたしが最初に告げたのは、計画のほんの一端。
それでも、元帥の表情が揺らいだのは見逃さなかった。




