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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第107話 敬意ある闘い

挿絵(By みてみん)





 停電開始より45分経過。覚醒都市バイカルヴェイ北部。変電所付近。


 そこでは、電力を『壊す側』と『直す側』の戦いが繰り広げられていた。


「「――――!!!」」


 空中で閃光を迸らせるのは、広島と魔獣化したジーノ。


 約40分。戦闘を続けているが、それでも決着がつかずにいた。


「……お主の実力に敬意を表する。よければ、名を聞かせてもらえぬか」


 地面に着地した麒麟は、最大級の評価を下す。


 行われていたのは、体術を主とした純粋な肉弾戦。


 互いの得意とする土俵であり、特殊能力の要素は薄い。


 意思の力は身体能力の向上に限定し、ひたすらに殴り合う。


 ――結果、勝負はつかず。


 両者が向き合っていたのは、己の肉体の限界。


 それを言葉に出さずとも理解し、高め合っていた。


 その志。その性格。その在り方。その立ち居振る舞い。


 それらを総合して、ジーノの内に宿る魔獣の琴線に触れる。


 最終的に一人の人間として興味を持たれ、名を尋ねるに至った。


「はぁ、はぁ……ふぅ……。うちは、毛利広島。大日本帝国の隠密部隊『滅葬志士』における棟梁。帝国の四十七ある都道府県の内の一つ、『広島県』を守護し、裏社会の頭を張らせてもらっとるもんじゃ。あんたの名は?」


 切らした息を整え、広島は快く会話に応じる。


 彼女もまた、敵に対して興味を抱き、心を開いた。


 似通った感情ではあったが、麒麟とはベクトルが違う。


 ――成長への感謝。

 

 頭打ち状態だった実力に、更に磨きがかかった。


 想定よりも高いハードルが負荷を与え、変化を促した。


 それは前提として、麒麟が強者だったからこそ得られた成果。


 運と時機の要素が強く、出会いが早すぎても遅すぎても駄目だった。


 ――ただ広島は、感謝を表に出さない。


 敵同士であることは変わらず、立場を弁える。


 感謝を伝え合うことで、牙が抜けるのを恐れていた。


 今までの戦闘の冒涜であり、これからの成長も阻害される。


 黙るのが正しく、決着をつけるには不要なものだと判断していた。


「儂が宿る肉体の名はジーノ・ロマノフ。儂個人の名はボルド・ガンボルド。覚醒都市における初等教育課程のエリート組、『白金の道プラチノヴィー・プーチ』に属し、元々は魔獣『麒麟』に適合したモンゴル出身の拳闘士。その実力を認め、本気で相手してやろう」


 麒麟は名乗りを上げると、白いセンスが膨大に溢れ出す。


 それらを頭部と両脚に纏い、凝縮させ、返事を待たずに言った。


戦闘武踊トゥラニー・ウルラグ――山羊の戯れ(ヤマーニー・トグルム)


 ボルドにおける必殺。生前における彼固有の技。


 突進と共に、側頭部からは新たに二本の角が生える。


 額の角も合わせれば、計三本の突起物を用い、猛進する。


 いかな肉体系の広島であろうとも、防御を貫くレベルの一撃。


 魔獣化の並外れた脚力から繰り出されており、回避するのは困難。


 『変圧器』での攻防が入れ替わり、今度は広島の方が防御に回っていた。


超原子拳アトミックインパクト!!!!」


 相対する彼女は、得意の必殺。渾身の右拳で応じる。


 単純な破壊力だけを追い求めた、なんの捻りもない能力。


 しかし、シンプルであるがゆえに強力。系統との相性もいい。

 

 振るうほどに精度が増す『熟練度』とも噛み合って、威力は増大。


 ただの右ストレートでは片づけられないほどの、爆発力を秘めていた。


「正面突破とは、安直な――」


 恐れることなく、麒麟は前へと進み続けていた。


 周囲には守るべき変電用の施設はなく、道路が広がる。


 機材運搬用に広げられた土地であり、居住区からは遠く離れる。


 ――その条件が、広島の心理的制限を外す。


「……………らぁぁぁああああッッ!!!!!」


 三本の角が目前に迫る中、広島は右拳を地面に叩きつける。


 数十メートルクラスの大穴が瞬時に形成され、足場が消え失せる。


「っっ!!!?」


 地面がある前提で攻撃を試みた麒麟は、失速。


 軌道修正は間に合わず、意図せぬ空中戦へと移行。


 この展開を予想していた広島が、一足早く動き出した。


 簡易結界で足場を作り、麒麟の懐に潜り込む形で言い放つ。


「……超原子二連拳アトミックダブルインパクト!!!!!」


 突き出すように放たれたのは、両の拳だった。


 空手における両拳を前に打つ『双手もろて突き』に近い。


 だが、厳密には異なり、般若無道流は殺意が高かった。


 胸と胴。それを抉るように打ち出し、拳には回転が加わる。


 人体構造上の弱点が揃う正中線。それに沿うよう縦に拳が揃う。


 合理的な殺意の拳であり、もたらされる効果は他にも存在していた。


 ――言霊のバフ。

 

 超原子拳からの正当な派生形。二連撃目の必殺。


 言葉と技の結びつきが更に強固となり、威力は増大。


 『拳』『流派』『弱点』『連想』『肉体系』『熟練度』。


 毛利広島を構成する要素と全てが噛み合い、連なりを見せる。


 それは、点ではなく線。培われた経験とセンスが真価を発揮する。


「――――か、はっ!!!!」


 超徹甲拳シェルインパクトを阻んだ鱗の防御力、それを遥かに凌駕する一撃。


 土壇場で編み出した連続技だったが、広島は奥義と確信していた。


「そのまま二度とこんでくれたら嬉しいんじゃけどのぉ」


 そして、上空に吹き飛んだ強者に向け、彼女は誇らしげに告げていた。

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