5-73 ティエスちゃんは強襲中①
「見えたッ! 攻撃目標を目視で確認!」
『高度11,840メートル。目標までの距離38,140メートル。地表到達まで約120秒』
青空を直滑降してるティエスちゃんだ。うひょー! 高度計がグルグル変わりすぎて数値が読めねー! 音速一歩手前で降りてりゃそうもなるか!
眼下に広がる鬱蒼とした密林。それが一部だけきれいに丸く切り取られている。レイフィールの荘だ。その中央に高くそびえているのが、攻撃目標であるレイフィール城である。姫やらの普段の装いから想像していた和風の天守でもなく、さりとて洋風の尖塔でもない独特な形状の建物だ。なんていうのかな、宮崎アニメみてーな造形というかなんというか。
「オティカ、目標に動きはあるか?」
『確認できない。この解像度では――ッ!』
「うおっ眩し!?」
俺はまばゆい光の尾を曳く手荒な歓迎を、機体をロールさせて回避する。そのままきりもみ回転しそうになる機体を、すかさずオティカが制御した。ナイスな仕事だ。完璧な仕事してくれたところ悪いが、せっかく立て直した機体の安定を、俺は再び崩す。今までアマツカゼがあった場所を、半ばプラズマ化した弾頭が擦過していく。
「リニア対空砲ってわけね! そりゃそうなるか!」
『敵対空砲は高度10,000メートルを有効射程圏内に収めているらしいな。次弾、来るぞ』
さすが電磁誘導。強化鎧骨格をあの高度まで打ち出せるんだから、そりゃ砲弾の有効射程も伸ばせるよな。救いなのは弾幕って呼べるほどの密度ではないことか。リニアの強みを速射ではなく長射程高貫徹に振ったって感じだな。地上に撃つ大砲をそのまま空に向けて撃ってるって感じだ。対空線のノウハウなんてないだろうしな。設置されてる台数こそ多いが、この程度なら回避は容易だ。
オティカのアラートを受けるまでもなく俺はアマツカゼを縦横無尽に振り回す。姿勢制御はオティカ任せだ。適材適所だな。とっさの判断力・殺気を読む直感に関しては俺のほうが優れている。まだまだ機械風情には負けてらんねぇなぁ! ウオオ! エースパイロットの本気って奴を見せてやんよ!
コクピット内はまるでシェイカーの生身のようにぐるんぐるんだ。天地も左右もない。後席の姫のことは考えない。姫の体調を慮ってヌルいマニューバをとって、対空砲にやられましたでは本末転倒だからだ。とりあえずアマツカゼの慣性緩衝器は優秀だから、振り回されてもひどい乗り物酔いになる程度だ。死にゃあしない。多分。
「オティカぁ! あと何キロ!」
『約22キロメートル。高度9,000』
オティカが機械的に告げる。もう2,000メートルも高度が落ちてるのか! だいたい1秒間に100メートル程度高度を落としてる計算になる。ヘルメット内がきっちり気密されてなかったら耳キーンってなるどころの話じゃないな!
そしてここまで高度が落ちてくると、見えるものも増えてくる。対空砲の位置とかね!
「誘導弾、1番から18番までスタンバイ!」
火器管制コンソールに指を走らせる。ブースター部に内蔵された計18発の有線誘導弾をすべてアクティブに。光画盤に星のようにレティクルが散らばる。
『スタンバイ。標的は?』
「敵の対空砲陣地! 捕捉できる範囲すべて!」
『了解。ロック』
オティカの返答とともに、モニタ中に散らばっていたレティクルが一斉にロックオンを知らせる赤表示に代わる。よぉし、行ってこい!
「全弾持ってけ! ファイア!」
『発射』
ミサイルコンテナの蓋が開き、空中に計18本の細い杭状のオブジェクトをまき散らす。それらはしばし慣性の法則に従って母機と並走した後、尾部から紅蓮の炎と真っ白な噴煙を吹き出しながら三三五五に飛び立っていった。強化鎧骨格が付いていない分、それらは容易く音速の壁を超える。
ミサイルたちはあっという間にアマツカゼを追い越すと、密度を増した対空砲火の只中へ突き進んでいく。運悪く、一発のミサイルと対空砲火の進路が重なった。
『誘導開始』
その軌道が交錯する一歩手前。オティカのアナウンスとともに、ただまっすぐ飛ぶだけだったミサイルたちの動きが変わる。ロケットブースターの偏向やバーニアの噴射を駆使した、複雑なマニューバが空に描き出された。まるで急に自我に芽生えたかのようなミサイルたちは、対空砲火の網をすり抜けるように、それぞれの目標に向かって飛翔していく。
ミサイル尾部から母機までを繋ぐ誘導ワイヤーの恩恵で、無線よりも格段に高精度の誘導ができるのがこの兵器の利点だ。人間が扱えば確実にワイヤーを絡める同時発射も、オティカの処理能力をもってすれば朝飯前だ。
『誘導終了。ワイヤーパージ』
役目を終えたワイヤーがパージされる衝撃は、そのほかの雑多な振動に紛れてわからなかった。ミサイルの着弾まで5秒と少し。この人間ミキサーのような機動も、それまでの辛抱だ。
『――ミサイル全弾の弾着を確認。目標の破壊に成功』
「よっしゃあ! 愛してるぜオティカ!」
『やめろ、気色の悪い』
つれないこと言うなよな。しっかし、対空砲火の圧力が目に見えて薄まった空は快適だなぁ!
高度は既に4,000を切った。俺は口の端を吊り上げて、光画盤を睨む。
攻撃目標であるレイフィール城は、もはや目と鼻の先だ。




