5-72 ティエスちゃんは降下開始
「ったく、鳥人間ってのは命知らずのチャレンジャーばっかりなのか?」
「無理もありません。鳥人は翼なき翼であることに、強いコンプレックスを抱いていましたから……」
「だからって、蝋で固めた翼じゃいつかは落ちちまうんだよなぁ」
あの後、2度ばかし鳥人による人間砲弾攻撃を受けてげんなりなティエスちゃんだ。おかげで誘導爆弾3発は使いきり。まんまと消耗させられちまったな。それが狙いだとしたらたいしたもんだ。
……いや、どうだろうな。最後のやつとか「飛んでる! 飛んでるぞおおおお!」とか言いながら墜ちていってたしな。戦争にかこつけて空中遊泳したかっただけ説もある。
そもそもわざわざリニアカタパルトで強化鎧骨格を打ち上げる必要がないんだよな。同質量の爆弾でも打ち込めば、こっちにもっと損害を出したり、動揺を誘ったりできたはずだ。いや、人間砲弾には動揺したけどそういうことじゃなくてね。
……ますます飛びたかっただけ説が補強されてきたなどうすんだこれ。鳥人間コンテスト会場爆撃しちゃったの俺? まさかの心理ダメージ狙いとかやってくれるじゃねぇか鳥頭共がよ。
『――目標まで、200キロを切った』
「おっと。じゃあ、そろそろか」
オティカのアナウンスで思考を切り替える。光画盤に表示される予測航路と実際の航路はほとんどズレなく一致している。フライトプランでは、目標であるレイフィール城の手前150キロ地点から降下する手はずだ。
マッハ0.8という猛スピードで飛行しているアマツカゼにとって、50キロ程度は3分あれば食いつぶしてしまう。俺はさっそく降下の準備を始めた。
「ポーン。本日は「アマツカゼ」をご利用いただきありがとうございました。当機は間もなく降下体勢に移行します。乱気流や再加速による揺れ、敵軍からの対空砲火が予想されますので、シートベルトはしっかりお締めください」
『真面目にやれ』
「やってるやってる。チェックリストA01~C25までクリア」
『チッ……。チェックリスト確認完了。いつでも降下できる』
舌打ちすんなって~~。俺は降下にGOを出す前に、首だけ何とか振り向いて姫――ガンズゼロを見た。顔色はサブモニタでもうかがえるが、今ばかりは実際に目を合わせたほうが良いと感じたからだ。
「ガンズゼロ、高度が下がると敵の防空網に引っかかる可能性が増します。そんなものがあるかはわかりませんが、ご注意を。ここから先、快適な空の旅はお約束できません」
「――心得ています」
「レイフィールの荘を焼くことになります。――構いませんね」
「…………」
降下する、ということは、つまり敵本拠地になっているレイフィール城――ひいては賢狼人の荘に対する攻撃を行うということだ。ほかならぬ賢狼の姫の手で。
市街地を積極的に爆撃するつもりはないが、敵の展開次第ではそれも約束はできない。住民の安全も保障はできない。
再三確認し、再三覚悟を問うてきた。これが最後だ。これ以降はもう引き返せない。
姫は瞑目し、じっと沈黙する。コクピットには電子音ばかりが響く。その間にもアマツカゼはマッハ0.8で空を翔けていて、刻一刻と降下ポイントまでの距離が0に近づいていく。
たっぷり30秒かけて、ようやく姫は目を開いた。力強い目だった。
「頼みます。ガンズリーダー」
「了解、承りました」
俺はシリアスな顔つきで頷いて、正面に向き直って光画盤を睨んだ。どこまでも青い青空にオーバーレイした降下ポイントまでのカウントが、目まぐるしくその数値を減じさせていく。
操縦桿を握りなおす。カウントがゼロになる。
『降下ポイント到達』
「降下目標設定。アマツカゼ、降下開始!」
『降下開始』
推力ベクトルがぐんと変化して、侵入角をとる。青空ばかりを映していた光画盤に、森域の鬱蒼とした緑が飛び込んでくる。ロケットブースターが火を噴いて、機体を加速させる。マイナスのGが強烈な浮遊感を生む。
腹の底がひっくり返りそうになるのを堪えて、俺は声に出して気合を入れた。
「うおおおおおお!! いくぜぇっ!!!」




