5-69 水先案内人
『所属不明機発見、全車停止!』
「うおっと!」
キャリア・ビークル1号車のドライバーを務めるエリックが、車外から飛び込んできたガンズ4――エーリカ・テッペ小隊長の鋭い指示に、慌ててブレーキを踏んだ。もともとそんな速度は出していなかったが、重いスキール音とともに大きくガタンと車体が揺れる。「わひゃあ!?」と頭上、銃座に陣取るマリッサの素っ頓狂な悲鳴が降ってくる。
「バカ野郎、もっと静かに停めろ! 積み荷にゃ精密機械も載ってんだぞ!」
「んひぃ、すんませんっ!」
横からダディ・ペイラー小隊長の叱責が飛んで、エリックはハンドルをがっしりと掴んだまま肩を小さく竦めさせた。
ペイラーは小さく息を吐いてから帽子のつばをなおした。
「ったく……で、今度は何が来たってんだ?」
「なんなんでしょう。また敵っスかねぇ……おっ」
「緑色の強化鎧骨格……見ねぇ型だな」
げんなり、といった調子で応えるエリックが、何かを発見したように声を上げる。同時、すかさず双眼鏡を覗き込んだペイラーも、その不明機をとらえて声を漏らした。
緑色の強化鎧骨格は、テンチュイオンともアーゼェンレギナとも違う形状をしていた。
原形をとどめないほど徹底改修された改造機という線はない。ペイラーほどのメカマンならば、それでもどこかしらに原型機の意匠や構造を見て取ることができるからだ。
強いて言えばテンチュイオン系列の角ばったデザインを踏襲しているが、まったくの別物といっていいだろう。それはつまり、森域による独自開発の新型機ということになる。
通常の強化外骨格よりも上背があって、頭頂高で1メートルばかり大型だ。右手に長柄の槍だろうか、そのような武器を携えている。近接戦闘でのリーチは長そうだ。
そんな技術屋としては興味を惹かれまくる存在がただ一機、ふらりと建物の陰から姿を現したのである。
「敵……っスかねぇ?」
「わからん。だとすれば、相当の手練れだな」
「うげー」
エリックが心底からうんざりしたような声を出す。単騎駆けをやるようなのは、相当の手だれか相当のバカだ。ウチの隊長などはその典型で、相当な手練れのバカだ。
ペイラーは舐めるように緑の新型を観察する。とはいえ、さすがのペイラーといえど、外見情報のみからその脅威度を割り出すことは難しい。せめてもう少し大きく動いてくれればいいのだが、今のところアクションを見せていないのだ。
「撃っちゃっていいですかねぇ!?」
「ダメに決まってんだろバカ! いいか、ハンドルからは手ェ離しとけよ!」
銃座から降ってくるすっかりトリガーハッピーと化したマリッサの提言を一刀両断していると、状況に動きがあった。
緑色の強化鎧骨格が、おもむろに槍の石突を地面に打ち付けたのだ。振動が来る。頭上で味方の強化鎧骨格が一斉に杖を構える音がする。エリックが息をのんだ。
やがて、少しのにらみ合いの末……緑色の強化鎧骨格がもつ槍の上部がほどけた。ビル風にたなびくように展開したそれは、長方形の布だ。
「あっ、あれは!」
「森域統合府の旗印……味方か?」
エリックの声に喜色が混じった。確かにその布には森域統合府の紋章が描かれている。しかしペイラーは懐疑的だ。罠という可能性がある。
『……杖を下げて頂きたい、王国軍の方々。こちらに敵対の意思はない』
緑色の強化鎧骨格から声が発せられた。まだ若い声だ。少し神経質気味の色がある。しかし、確かに敵意は感じなかった。
エーリカを始めとする味方強化鎧骨格部隊は、杖を下す気配がない。やはり、罠を警戒してのことだろう。
『フェンヴェール王国陸軍派兵部隊スプリガンズのピーター・フック小隊長だ。そちらの官姓名を明らかにされたし』
車列の最後方、部隊指揮官代理であるガンズ2――ピーター小隊長が誰何する。杖は構えたままだが、銃口はずらして話し合いに応じる意向をアピールするにとどめる。向こうもそれは理解しているのか、気分を害した様子もなく答えた。
『私は森域統合軍・聖樹衛士のアサイエル・スプリットである。諸君らの水先案内人として参上した。統合府防衛線の内部まで、諸君らをエスコートしよう』




