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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
とべとべ! 森域動乱編

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210/212

5-70 概況

「アサイエル・スプリット……スプリットの一族が直々に出てきたか」


 ガンズ2――ピーター・フック小隊長は、名乗りを上げた不明機――既に不明機ではないが――を前にして、少し迷うように顎をもんだ。

 騙り。ピーターの頭の片隅に、どうしてもそれがチラつく。スプリットはエルフの古老(エルダー)に連なる支配者層の一族だ。これがただの木っ端エルフであればまだ信じられたが、スプリットの名はビッグネームにすぎる。それが護衛の一機もつけず単騎で現れたのだから、疑うなというほうが難しい。


『ガンズ2、こちらはミッティ・エライゾです』


「姫様?」


 そこに、見計らったかのように通信が入る。キャリア・ビークルの3号車からだ。ノイズまみれではあるが、それがミッティの声だというのはすぐにわかった。わざわざ家名を出したということは、そのように扱えということだ。だからピーターは医官としてではなく、エライゾ辺境伯家の姫としての呼び方をしたし、ミッティもそれを平然と受け入れて、続きを話した。


『軽く探り(・・)を入れましたが、あれはアサイエル・スプリット本人で間違いないでしょう』


「面識がおありで?」


『以前に一度』


「なるほど、了解です」


 ピーターは通信を切って、短く息を吐くと同時にこわばっていた方から力を抜いた。医官としてのミッティはともかく、ミッティ・エライゾと話すのは苦手だった。

 ともあれ、ピーターはそこでようやく杖を下した。


「失礼した、アサイエル殿。貴官の誘導に従おう」


『なに、警戒は無理からぬこと。気になさらぬよう』


 そういって、緑色の強化鎧骨格は肩をすくめてみせた。ピーターはそれを見て、不明機への警戒を解除するよう伝達する。無論、不審な動きあらば即応できるように言い含めてではあるが。


『では、こちらに。本陣まで案内しよう』


「お願いする。全車、アサイエル機に追従し、前進。強化鎧骨格(スプリガンズ)全機、周辺警戒は怠るなよ」


『了解』


 アサイエルは緑色の強化鎧骨格の踵を返し、旗を掲げて先導するように歩きだす。まるでバスガイドだな、とピーターは少し笑ってから、部隊にアサイエルへの追従を指示した。

 車列が動き出す。しんがりでそれを見届けながら、ピーターも歩を進めた。

 周辺に敵影はない。それにしたってアサイエルがあまりにも悠々と歩を進めるので、いったん鎮火した疑念が再び燻るのを感じる。ピーターはそれを紛らわすため、口を開いた。


「それでアサイエル殿、戦況はどのように?」


『詳しいことは入城してから話したい。ここは誰の耳目があるかわかりませんのでな』


 アサイエル機は振り返ることなく答えた。実際このやり取りは外部スピーカを通して行っているのだから、防諜のぼの字もない。それでも話せる範囲で、と前置きしてから、アサイエルは概況について口を開く。


『防衛線構築直後――『野生の後継者』決起声明直後に散発的な襲撃はありましたがね、あらかた鎮圧しました。こちらには四大盟主氏族からなる常備軍が控えていましたからね』


「それは心強い」


『ただ、『野生の後継者』の本隊が来ればこうも易しくはないでしょう。そのためにも、防衛線の防備増強、戦力強化は急務です。あなた方の迎えに私が一人で寄こされたのも、そう言った事情からです』


「ご足労をおかけしましたな」


『いえ、構いませんとも』


 アサイエルは慇懃に応えながらも、どこか厭味ったらしい雰囲気が言葉の端に漏れ出る。慇懃無礼はエルフしぐさとはよく言ったものだ。人手が足りない中でわざわざ迎えを出していることをやけに強調しているのは、つまり恩の押し売り。ともあれ代金を払うのは専らハラグロイゼ卿であるから、ピーターは軽く流した。


「闘技場の状況は、何か掴んでおいでですかな」


『――反逆者ウィドーによる最初の攻撃で貴賓室が破壊され、列席されていた森域要人の悉くが死亡なされた』


「!」


 ピーターは己の動揺を、強化鎧骨格にフィードバックさせないために必死になった。前を歩くエーリカ隊とニアも平静を保ったが、ハンス機の肩が跳ねた。それでも撃発して口を挟まないだけ、ハンスは有能だと言える。

 アサイエルはそんな空気をたっぷり楽しむように間をおいて、続けた。


『――と、先に入城されたハラグロイゼ卿より報告を受けている』


「卿はご無事で?」


『元気に強化鎧骨格を乗り回しておられたよ。トマス殿も手を焼いておられた』


 少しばかり呆れたような声でアサイエルが応える。

 ピーターは外に決してもれぬように、ほっと胸をなでおろした。

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