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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
そして僕は言葉に惑う
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第6話

 そんなこんながあった昼下がりの午後、僕らはラーメン屋を後にした。


「さて、次はどうしよっか」

 と、言ったのは霧沢さんで、

「けい・・・たい・・・」

 と、今日の本来の目的を忘れていなかったのは霞さんの方だった。

「あ、そうだったっ。ごめんっ、つい楽しくて・・・」

「ああ、うん、別に・・・」


 手を合わせて謝る霧沢さんを見ていると、なんだか許せてしまう気がしてくるのは、不思議な気分でもある。

 なお、食べて少し落ち着いたせいか、霞さんの恥ずかしそうにしている姿も大分大人しくなってきてはいた。


 もっとも、僕の方は気恥ずかしさからあまり、そんな彼女らの顔をまともに見れずにいるのだけれども。

 



 ――いや、なぜいちいち顔色を伺うようなことをしなければならないのだ。

 そもそも彼女らとは友達でもなんでもないはずなのに。


 友達なんてものがどんな線引きで生まれるのかはよくわからないけれども、それでもやはり、僕にとってはまだ彼女らは知り合いの域を出ておらず、相変わらず『会話をしたことのある他人』程度でしかないはずだ。


 だからこそ、この感じている胃痛もあくまで可愛いと思うこその『感想』であり、決して『感情』などという心のこもったものでもない。

 もしかしたら、まだ空腹ゆえの胃痛が残っているだけなのかもしれない。


 二人に気づかれないように、深く深呼吸をする。


 大丈夫、僕は正常だ。


 友達なんていらない。


 面倒事に巻き込まれるのなんて、もうたくさんだ。

 今日に限らず、ここのところ妙にドタバタしていたせいで少し頭が混乱していただけ。


 そうに違いない。


「それで幸城くん、携帯はどこで買うつもりだったの?」

「ああ、えっと・・・」


「ぐあ・・・い・・・わる・・・い?」

 心配そうに僕の顔を覗き込む霞さん。


 しまった、もしかしたら考えが顔に出てしまっていたか。


「大丈夫、健康だよ。携帯ショップこの辺にあったかなって、それだけ」


「そういえばこの辺り無いよねー。どこならあるだろう?」

「一応僕の地元の駅の方で買うつもりだったから――」

 無理してついてこなくても大丈夫、そう続けるつもりで言葉を発したのだけれども、続きは霧沢さんによって遮られてしまった。

「それじゃあそっちまで行ってみよっか。霞さんもそれで大丈夫?」

「だい・・・じょう・・・ぶ・・・」

「・・・」


 こういう時に言いたいことがすぐに言えなくなってしまう自分が、やはり嫌いだ。


「あ・・・もしかして、迷惑だった?本当は一人で行きたかったとか・・・」

「い・・・や・・・?」

「・・・・ああ、ううん・・・大丈夫」


 そして、こうしてやはり流されてしまう性分なのも、やはり嫌いなのである。


 友達は作りたくないくせに、誰にも嫌われたくない。

 そんな見え透いた自分の本音が浮き彫りになった気がして、僕の気分をさらに陰鬱にさせる。


 本当に友達が欲しくないのならば、彼女達にも嫌われてしまえばいいのだ。この間教室で嘘を重ねたように。

 そうすれば、僕の心と体の平穏は保たれるはずなのに、なぜか心の奥底でそれを否定しようとする自分がいる。


 ――まったく、矛盾しているにもほどがある


「それじゃ、まずは駅にいこっか」

「とお・・・い・・・?」


「・・・いや、遠くは無いよ。駅で下って二駅だから」


 まぁ、どうでもいい。

 今日という日を無事乗り越えれば、明日からきっと、僕の平穏な日常は帰ってくるはずなのだ。

 だから、今日くらい彼女らに振り回されても、何も問題は無い。


 そう、何も問題は無い・・・はずだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 そうして行きついたのは、僕の地元駅の方にある一件の携帯キャリアショップ。

 高校前と比べ、こちらの駅の方は都会化がもっとも進んでいる地域で、大型のショッピングモールやカラオケ、飲み屋街といった、娯楽や息抜きを目的とした施設が数多く並ぶ。

 無論、キャリアショップをはじめとしてスーパーやコンビニなども、同路線駅の周辺と比べて明らかに多い。

 なお、僕の家はここから自転車で十分ほど外、つまり都会化がまだ進んでいない住宅街の方にあるのだが、それはどうでもいい話である。

 そういえば駅に着いたときに何やら霧沢さんが言っていた気がするが、それはよく聞こえなかった。というかどうでもいい。

 僕は一刻も早く携帯を手に入れ、このくだらない茶番を仕組んだ啓一に文句を言わなければならないのだ。

 

 だからこそ、僕は彼女らよりも先に店内へ入る。


「・・・」


「うわぁ混んでるね・・・」

「・・・」


 店内を見返すと、ごった返すといったほどではないが、かなりの客で賑わっていた。

 霧沢さんの言葉に適当にそうだね、と頷いて少し進むと、大型の端末があった。

 画面には新規契約の方はこちら、機種変更をお望みの方はこちら、その他スタッフに御用の方はこちら、と書かれていて、僕は恐る恐る機種変更のボタンを押した。

 ういーんと機械音がして、レシートが出てきた。


 なるほど、整理券か。


 僕は、その『286』と書かれたレシートを取ると再び店内を見渡した。

 幸い座る席はいくつか開いていて、座って待つことはできるようだ。

「ふうん、286かぁ・・・今はえっと・・・115!?ものすごく待たない・・・?」

「に・・・はち・・・ろく」


 後ろをついてきた二人が、いつの間にか僕を手元を覗き込んでいた。


 いや、多分ショップ側が管理してる番号だから多分あてにはならないかと・・・

 そう言おうとして面倒だからやめた。代わりに「そうだね」とだけ答えておいた。


「とりあえず機種だけでも先に見ておこうよ。わたしもどういうのあるか気になるし」

「ん・・・」

「・・・・」


 まぁ、彼女の言い分も正しい。機種変更するにも対応の機種が分からなければ変えられないのだから。

 先導する霧沢さんを先頭に、僕、霞さんの順で展示品のあるエリアを回る。


「うわぁ・・・いいなぁ・・・目移りしちゃいそう。あ、これなんてどう?」

 そうして一つの端末を手に取る霧沢さん。

 手書きのポップで『思い出を残すならコレ!』と書かれていて、僕は思わず顔をしかめた。


「あ、もしかしてこういうの嫌だった?」

「ああ、いや・・・」

 霧沢さんの言う『こういうの』とはどういうものなのかよくわからなかったけれども、僕はそう答えていた。


 そもそも、思い出を残す機能なんて、僕には必要ないのだ。

 鮮明に映像や画像を保存できたとしても、残すべき思い出なんて必要ない。存在しないのだから。


「うーん、そうだよねぇ・・・うわ、やっぱり値段もすごい・・・あ、でもこっちも、あっちも、すごい値段・・・」

 霧沢さんに言われて値段を見てみると、想像よりも一桁多くて僕も冷めながらに驚く。

 なるほど、これは家族に怒られるわけだ・・・


 というか、僕が家族に持たされた金額と、自分で用意した金額を足しても明らかに足りない。

 これはやはり、家族と来るべきだったか・・・


 そうして不安気味に適当に回って端末を眺めていると、肩をちょんちょんと叩かれた。

 振り返ると、少し興奮気味の霞さんが大きな端末を持って、そこに立っていた。


「たぶ・・・ん・・・べん・・り・・・」

「・・・」

「か、霞さんそれタブレットだよ?そんなに大きなもの持ち運べないって・・・」

「でも・・・ねだん・・・そん・・・な・・・かわ・・・らなっ・・・げほっげほっげほっ」

「ああもう、そうやってすぐ無茶に喋ろうとするんだから・・・ほら、決めたでしょ?長い文章喋るなら携帯画面でって」


 そう言って咳き込む霞さんをあやす霧沢さんはやはりの姉のようで、見ていて安心する。


 ――大丈夫、霞さんは霧沢さんに任せておけばきっと全てうまくいく。


 見ていて少し、というか多分に常識はずれなイメージの霞さんだけれども、霧沢楓という優しくておせっかい焼きな彼女の存在を得れば、これから改善されていくはずだ。学校での立場も含めて。

 だから、渡瀬霞のことは霧沢さんに任せておけばいい。きっと啓一も力になってくれるだろう。


 僕は霞さんになつかれているようだけれども、それもきっと今だけ。

 これから先、僕という人間を知れば知るほど、霞さんは僕から自然と離れていくはずだ。



 だって、僕はこんなにも醜い思考の持ち主なのだから。


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