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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
そして僕は言葉に惑う
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第7話

「機種でお悩みですか?」

「っ」


 はっとして僕が振り向くと、そこにはこの店のスタッフと思われる女性店員が立っていた。

 きりっとした化粧とびしっとしたスーツを身にまとった、大人の女性だ。


「もしよろしければご案内致しますか?」

「えっと・・・」

 僕が言葉に詰まっていると、その女性スタッフは丁寧な口調で続けた。

「もしご迷惑でしたら大丈夫ですが・・・」

「ああ、いえ・・・今日は機種変更をしたくて来たんですけど・・・正直何も考えていなくて」

「機種変更ですね、かしこまりました。今はどういった機種をお使いでしょうか?」


 僕は後ろに感じる二人分の視線と、正面から感じる女性スタッフの視線を受けながらポケットに入れていた壊れた携帯を取り出して、その女性スタッフに見せる。


「これなんですけど・・・実はこの間壊してしまって・・・」

「なるほど・・・少しお預かりしてもよろしいですか?」

 そうして女性スタッフに携帯を預けると、割れた画面を眺めたり触ったり、背面を見たりする。

「操作させていただいても大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ・・・」

 女性スタッフはその細い指で電源ボタンを押したようだが、その画面がうんともすんとも言わないのは僕が実証済みである。


「なるほど・・・故障による機種変更をご希望、ということですか?もしよろしければ修理依頼などもうけたまわっておりますが」


 修・・・理・・・?

 そうか、僕はてっきりもう壊したらそれで終わりかと思っていたけどそうでもないのか。


「あ・・・あのっ・・・それ・・・わたし・・・のせいっげほっげほっげほっ」

「あ、ちょっと霞さんっ」

「わたしっ・・・の・・・げほっげほっ・・・せいで・・・壊して・・・しまっげほっげほっげほっ」

「いいよ・・・無理しなくて。それ、階段で派手に転んでしまったときにポケットに入ってたみたいで・・・」

「はぁ・・・」


 振り向いて霞さんに一声かけてから、また正面に向けて言葉を発する。


「・・・不慮の事故等による故障ではない、ということでしょうか?」

「はい、そうです」


 携帯を壊してしまったのだって、自分の責任だ。

 合宿場脇で言い寄られる霞さんの姿が思い浮かぶ。


 あの時はかっとなってああいうことになってしまったけれども、本当はもっとスマートな解決もできたはずなのだ。

 なのに、それをしなかったのはそもそも自分が悪い。

 それに、僕が勝手に襲われていると勘違いをしただけで、本当は何も起こらなかったもかもしれない。


 そういう意味も含めて、全ては自分の浅はかさが招いた結果なのだ。

 誰かが、その責任を負う必要は無い。


「もし修理ができるのならそれでお願いしたいんですけど・・・どれくらいかかりますか?」

「そうですね・・・お客様都合による故障となりますと有償となりますが・・・保障のプラン等には入っておりますか?」

「保障プラン・・・・すみません分かりません・・・」


 僕が携帯を手に入れたのは高校入学と同時で、そんなに古い記憶ではないはずなのだけども、正直親任せにしてしまっていてよく聞いていなかった。

 こんなことなら、もっと下調べをしてくるべきだったか。


「もしよろしければ待ち時間の間でこちらでお調べしますが」

「すみません、それでお願いします・・・」

 そう言って僕は女性スタッフに頭を下げる。

「はい、かしこまりました。あの・・・そちらの方はご家族の方ですか?」

「え?」


 不意打ちのように女性スタッフがそちら、と手のひらで指したのは霞さんと霧沢さんだった。

 もしかして、姉弟とかそういうのに見られたのだろうか。


「ああ、いえ・・・彼女たちは・・・」


 そこで僕は一瞬言葉に詰まった。

 友人?友達?

 先ほどそんな間柄では無いと自覚したはずだ。なら何だ?どんな間柄だと言えばいい?

 そう思ってちらりと二人の方を見やると、きょとんとした顔でこちらを眺めていた。


「家族とかじゃ・・・ないです・・・」


 結局、僕が選んだ言葉はそれだった。

 はっきりと「ただの知り合いです」と言えないあたりが実に僕らしい。


「失礼致しました。そうしましたら、身分証の方を確認させていただいてよろしいですか?」

「ああ、はい・・・」


 僕はそう促されて財布に入れていた保険証を手渡した。

 最近は本人確認がうるさいというし、当然の準備とも言える。


 僕の名前の確認と、年齢の確認をされて僕は正直に答えた。


「そうしますと未成年者による手続きとなるのですが・・・『親権者同意書』はお持ちですか?」


「あ・・・」


 『親権者同意書』、そういえばそんなものがあったな・・・

 なんでも、未成年が勝手に携帯を契約できないように、親権者、つまり親が同意書を書かなければならないのだ。


 そういえば昨日啓一と行くと言った時に、母親が印刷して用意してくれていたのを忘れていた。

 今は多分、部屋の机に放りだしたままである。


「すみません・・・家に忘れてしまって・・・取りに行っても大丈夫ですか?家、近いので」

「はい、大丈夫です。お戻りになりましたらスタッフの方へ一言お声かけください。後、ごもし家族の方とお会いになるようでしたら、後程確認の電話を致しますのでとお伝えください」

「わかりました」


 スタッフに対してそう答えて、僕は霞さんと霧沢さんの方を振り返る。

「ごめん、ちょっと家に忘れ物とってくるからここで待っててもらっていい・・・?何ならここで解散でもいいし・・・」

「ううん、大丈夫。待ってるよ」

 やんわりと一人になれるかもと思って声を掛けてみたけれども、それはあっさり否定されてしまった。

 少し残念な霧沢さんの答えに、霞さんが弱々しく続けた。


「・・・べん・・・しょう・・・」


 べんしょう・・・?

 ああ、弁償か

 まだそんなことを言っているのかこの娘は。


「いいって、そういうのは・・・本当に、やめてくれ」

 一瞬びくりと震えた霞さんが、でも、とたどたどしく続ける。

「ほら、幸城くんもそう言ってるし、諦めよう、ね?」

「・・・」

 僕と霧沢さんに諭されて、諦めたように項垂れる霞さん。


「それじゃあ、また後で」


 くるりとまた出口へ向かう僕に「あ」と声が掛けられて、僕は振り返った。


「気をつけてね」

「・・・」

 見送る二人の顔がそこにあって、掛けられたその言葉に一瞬どきりとした。


「あ・・・うん・・・行ってきます」

「いってらっしゃい」

「いって・・・ら・・・しゃ・・・げほっげほっげほっ」


 平常心、平常心だ。僕。

 ただの社交辞令の挨拶のようなものではないか。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 そして僕は駅前に止めてあった自転車を走らせて一旦自宅へと戻った。


 母親にやっと帰り?と聞かれて、用意してもらった同意書と取りにきたことと、後で確認の為に電話が行くことを伝え、階段を駆け上がる。

 そして机の上に放りだしたままの親権者同意書を確認し、バイトでも使っているショルダーバッグにそれを折って詰め込んだ。

 

 とりあえず、こんなものか・・・


 暑いので着ていた薄手のパーカーをベッドに放り投げて再び階段を降りて、靴を履いて外へ出る。


 そして自転車を漕ぎだしたころ、僕はまたあの二人に絡まれるのかと思うと気が重くなった。


 別に、慌てて戻る必要も無いじゃないか。


 早く戻れば、その分だけ彼女たちと長く過ごす羽目になる。

 その分だけ、苦しい思いをするのだ。


 だったら、ゆっくりでも別に構わないだろう。


 いやでも、僕が遅いことでもしかしたらお店に迷惑がかかるかもしれないし・・・


 中途半端に悩んだ挙句、中途半端な速度でまたお店に向かう僕なのであった。



 そして再び携帯ショップの自動ドアをくぐる。

 弱めに設定された冷房が、少し熱された体に丁度良く染み込んでいく。


 少し上がった息を整えながらスタッフを探し、一度出ていて今戻った旨を伝えた。


 一応、彼女達にも声を掛けておくか、と思って店内を見渡すと、ほとんど席が埋まった待合所で派手な金髪と、サイドポニーの黒髪が並んで座っているのが見えた。

 なるほど、目立つのも悪いばかりじゃないか。

 僕はそちらに歩いていき、二人の前に立つ。二人もそんな僕に気づいたようだ。


「おかえり、幸城くん」

「おか・・・えり・・・」

「ああ・・・うん・・・ただいま・・・」


 僕は目を逸らすように周りの席を見た。

 二人の両隣は幸いなことに埋まっていたのだ。


 適当な言い訳を考えるまでもなく、二人から離れられるチャンスである。


「じゃあ僕、他のとこでちょっと待ってるから」


 あ、と声を掛けてきたのはどちらだったかわからないけれど、今度は聞こえなかったふりをした。


 そうして適当に開いている席に座り、大きく息を吐く。

 

 これで少し、休める。


 程よい大きさの店内BGMを聞きながら目をつぶっていると、自転車を走らせた疲れもあってか、僕は自然と眠りに落ちていった。


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