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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
2.そして彼女は真実を叫ぶ
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第13話

 僕は一人、保健室で蹲っていた。

 保健室は本校舎一階の隅、出てすぐ右に行けば屋根だけがある渡り廊下があって、その先は体育館である。

 放課後のホームルームが終われば、もうすぐ部活へ向かう生徒たちがその廊下を抜けていくところだろう。


 正直に言って、先ほど僕が教室でついた嘘について、後悔がまったく無いというわけでは無い。

 あまりにも大げさに僕が立ちまわったせいで、周りに迷惑をかけることにもなるだろう。

 でも、間違ったことをしたとは思いたくなかった。


 しかし、それより重要なのが今現在の状況だ。

 保険室担当の先生はいないし、手元に胃薬も無い。

 駄目だ、ベッド使わせてもらおうかな・・・

 胃が痛すぎて正直歩くのがしんどいし、胃の痛みに連動して体中の痣もずきずきと痛み始めていた。

 保険の先生がいないのに勝手にベッドを使っていいものなのか躊躇もあるけれど、この状況では致し方あるまい。


 まったくしくじったものだ。

 今日はもう誰とも会わないで帰ろうと思ったのに、まさかカバンを教室に置いてきてしまうとは。

 そうして備え付けの古い合皮張りのソファから立ち上がると、胃の痛みはいっそう増して、僕の体を縛り付けるように痛む。

 くそ、早く胃薬をもらいたい。

 

 がらがらっ


 そんなタイミングで扉の開く音がした。

 もしかしたら保険の先生が来たのか?少し遅いけどベッドを、いや薬を――


 と、そこに立っていたのは僕の予想だにしない人物であった。


 渡瀬霞


 先ほどまで僕が教室でぼろくそにけなしていた相手だ。

 いや、僕の乏しい語彙力ではそう映らないのかもしれないが・・・

 カバンを二つ両手にぶら下げて、また顔を擦ったのか化粧が崩れていて、そして、マスクをしていない。

 その口元は少し開いていて、荒い呼吸を整えるように肩も上下する。


 そんな彼女は僕の姿を確認すると、両手のカバンをその場に落としてすたすたとこちらへ歩いてくる。


 ――ああ、やばい、これは怒られるパターンだ


 余計なことをするな、と怒鳴られるか、あるいは引っぱたかれるか。

 もしくはその両方か。

 そんなことを覚悟しながら僕が立っていると、彼女は僕の真正面に立ち、両手をあげる。

 

 両手で、ビンタか・・・

 でもまぁ、それもしょうがない。


 渡瀬霞の目には涙が浮かんでいて、何かを言いたそうに口がぱくぱくと動く。

 いいよ、好きに罵倒してくれ。

 僕は目を閉じて静かにその時を待った。


 そして、どんという体全体で感じた衝撃と重力で僕はよろけてソファに堕ちた。


「あり・・・がと・・う・・・」


 え?


 すぐ耳元で聞こえる声に驚いて僕は目を開けた。


「ありが・・・げほっげほっっ」


 視界の端に()()金色の何かが見えて、一瞬遅れてそれが渡瀬霞の髪の毛であることを認識した。

 僕の首に回される腕、そして体に感じる軽すぎる重量。


 なぜだか僕は、霞さんに抱きつかれたまま、ソファに座っていた。。


 咳き込む彼女の体に合わせてとんとんと、体が揺れる。


 あ・・・え・・・・何がどうなってるんだ?


 駄目だ、状況が理解できない。

 てっきり怒られるものだと思っていたのに、なんで僕は霞さんに抱きつかれているんだ?


 そして、追い打ちのかけるかのように別な女性の声が降ってかかる。


「あー、お楽しみのところ悪いんだが・・・」


 僕ははっとして声のした方を見る。

 長袖のワイシャツに細身のスラックス、少し茶色に染めた髪をアップでまとめていて、その顔元には大人らしいきりっとした化粧。

 

「せめて扉くらい閉めておくように。他の生徒の目に毒になる」

「あっ、いやっ、これはっ、その――」


 慌てる僕をよそにその女性は扉を閉めて、壁に掛けてあった白衣を着る。

 直接話したことはないけれど、何度か姿は見たことはある。名前までは思い出せないが、この学校の教師だ。そして多分、この保健室の主なのだろう。

 その先生は床に落ちていた二つのカバンを手に取ると、かつかつとこちらに歩いてくる。

「で、キミたちは一体なんのよ――」

 そしてソファで抱き着かれる形になっていた僕らを見て、口を止めた


「――その子、ひょっとしてカスミ君か?」

「え?」

 その名前を口に出されて、僕は戸惑った。

 カスミ?そうだ、渡瀬霞のことだ。なんで分かる?ああ、この特徴的な金髪か。なんで知ってる?そういえば去年から体育の度保健室に通ってたっけ。

 そこまで思考を回して僕は「あ、はい、そうです」と答えた。

 僕はこの状況が恥ずかしくて、どちらの顔も見れないまま視線を宙に泳がせた。


「なるほど。で、今回はどんな要件だ?」

「あ、えっと、ベッドを貸してほしくて・・・」


「は?」


「え?」


 そして深くため息をつく保険の先生。

「キミ達は学校をなんだと思っているんだ?そういうのはせめて学校と関係の無い所、私達の知らない所でだな――」

「あっ、いやっ、そういうわけじゃなくて――いっっっ!!」


 ずきり、と一層胃が痛む。

 あまりと痛さに、顔が歪むのが分かった。


「あの・・・できれば先に胃薬ありませんか・・・?」

「ふむ、病人はキミの方だったか。で、キミは薬を常備していないのか?」

「いやまぁ・・・あるんですけど・・・どうせならこっちの薬の方が効くかなと思いまして・・・」

「残念ながら、保健室にそういった類の薬は無いよ。薬事法がもう何年も前に改定にあったせいでね。キミは知らなかったのか?」

 胃痛持ちとはいえ、実は保健室などほとんど縁が無かったせいか知らなかった。


「すみません・・・あ・・・えっと・・・」

「ん?どうかしたか?」

「そのカバン、多分僕のだと思うんですけど、えっとその中に・・・」

「ああ、そういうことか――カスミくん、そろそろ離れてやらないか?その子・・・あー、っと・・・」

「幸城です」

「――ユキシロくんが薬を飲めなくて困っているぞ?」


「い・・・や・・・っ・・・!」


 そう言ってまた苦しそうに咳き込む霞さん。

 その姿を見て、はっと息を飲む保険教諭。


「カスミくん・・・キミ・・・声が――まぁいい、今はそれどころでは無いようだしな」


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