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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
2.そして彼女は真実を叫ぶ
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第9話

 そして、僕たちは静かに霞さんの返答を待った。


【ボディソープ】


 予想通り過ぎて、僕たちは固まった。

 そして固まって、啓一が静かに口を開く。


「おーけー、おーけー、わた・・・霞さん。英語は・・・できるんだっけ?確か成績は学年トップだったよな?それじゃあ聞くぞ、ボディは日本語に直すと、何だ?」

 霞さんの指が携帯画面を走る。

【体】

「そう、体だ。じゃあソープは日本語で?」

【せっけん】

「そうだな、せっけんだな。じゃあボディソープは日本語で?」

【体を洗うせっけん】

「そう、その通りだ。じゃあ髪を洗うのは何ソープだ?」


【ボディソープ】


「・・・」

「・・・」


 何となく、啓一の言いたいことが分かった。多分『ヘアーソープ』のことを『シャンプー』って言うんだぞ、と持っていきたかったんだろう。

 だから、切り口を少し変える。


「おーけー・・・体、胴体は英語で?」

【body】

「そうだな、じゃあ頭は」

【head】

「じゃあ、髪は?」

【hair】

「じゃあ髪を洗うせっけんは?」


【body soap】


 英語で返ってきただけでまるで同じやりとりだった。


「幸也ちょっと・・・」

「・・・」


 そして僕らは「髪はボディソープで洗うもの!」と頑なに主張する渡瀬霞を後ろに、ひそひそと相談を始める。

「どうしよう、俺、あの子を説得できる自信が無い」

「・・・奇遇だな、僕も同じ意見だ」

「誰かあの子を説得できそうな友達とかいねぇの?」

「友達?僕が?いるわけがないだろ。そっちこそいないのか?」

「だよなぁ・・・誰か適任が・・・あ」

「何?いるの?」


「いる。とびきりこういうのに強そうなのが、一人」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 三十分後。

 ぴんぽーんという呼び出し音が聞こえた。

「お、きたきた」

 あの後、啓一は誰かに電話をして、この部屋で会う約束を取り付けた。

 電話の相手は誰だか教えてくれなかった。

 そして、モニタ付きのインターフォンの方に歩く霞さんと啓一。どうやら使い方を教えてもらっているらしい。


 まったくなんて適応力の高さだ。僕には真似できない。

 そうしたやり取りがあって、しばらくして再度呼び出し音が鳴る。

 どうやら部屋の前に着いたらしい。

 ぱたぱたと二人分の足音が玄関に向かう。

 そして聞こえるやり取り。


「あ、初めまして。渡瀬さんのお姉さんですか?わたし――」


 今日で三度目の同じようなセリフ。まぁ啓一も一緒にいるし、なんとかなるだろう。

 えぇ!?とかうそっ!?とか聞こえたがまぁそれもまぁ予想内の反応だ。

 というか声からして女子か・・・

 思わず胃を抑える。先ほど隙を見て薬を飲んだとはいえ、ただでさえ胃が痛いのに気が重いこと仕方ない。


「ゆ、幸城くんっ!?」

「・・・・ん」

 気が付いたら、なぜか学年のアイドル霧沢楓がそこに立っていた。


「ど、どうしたのその顔!?大丈夫!?」

「ああ、うん、ちょっと・・・」


 僕の顔を心配そうに眺める霧沢さん。というか顔が近い。


「大丈夫!?ちゃんと冷やした!?」

「大丈夫、大丈夫だからちょっと離れて・・・」

「あ、そうだね・・・ごめん・・・」

 実は冷やすどころか温かいシャワーをいただいたなんて流石に言える様子じゃなかった。

 そして彼女はしおらしく引き下がると、いつの間にかそこに立っていた啓一に問う。


「事情、話してくれるよね?」

「お、おう・・・・」

 霧沢楓の笑顔が怖かった。


 そうして僕らは霧沢楓に事の顛末を話した。まぁ、主に説明していたのは啓一だけど。


「なにそれっ!許せない!」


 ちらちらと落ち着かない様子でこちらを見ていた霧沢さんだったが、全ての話を聞き終えた霧沢さんの反応はそれだった。


「許せない、許せないけど・・・けど・・・でも、安心した。・・・ふーん、へー・・・変わってないなぁ・・・」

 と途中から何故か嬉しそうな霧沢さん。隣では啓一が自慢げに「だろ」などと笑っている。

「・・・」

「・・・」

 二人並んでソファに座る僕と霞さんは顔を見合わせた。

 無論、何の事かわからなかったから。


 変わってないって、何のことだ?


「というか二人とも部活は・・・?霧沢さんだって部活あったんじゃないの?」

「あ、覚えててくれたんだ・・・んっとね、抜けてきちゃった」

「悪いな、霧沢。わざわざ呼んじまって」

 そう言われて大丈夫だよ、と笑う霧沢さん。


 なお、流石の啓一も学年アイドル霧沢さんの隣に座る勇気はないらしく、ソファに寄り掛かるようにして立っている。

 ソファに座っているのは僕と霞さんと、L字型に配置されたもう一つのソファに霧沢さんの計三人。

 なんというか、クラスのトップⅡと隠れ美人の霞さんがこうして揃うと、僕だけなんだか浮いている気分だ。


「あ、それで重要な要件って・・・やっぱりさっきの事?」

「そう、それなんだよ。聞いてくれ霧沢。実はな・・・」

 そうして啓一はこの家にシャンプーが無いこと、そして髪はボディソープで洗うものと主張する霞さんのことを話した。

 それを聞いた霧沢さんは固まり、震え、目を見開いて立ち上がった。そして霞さんの前に立ち、肩をゆする。


「いい渡瀬さん、いえ霞さん!よく聞いて!髪はね、女の命なの!プライドなの!」


 その様子を一番間近で見ている霞さんはどんな気分だろうか?


 いくら可愛いと有名な霧沢さんだからといっても、今のその表情には少し鬼気迫るものがある。正直この時点で僕にとっては少し怖い。

 僕は静かに目を逸らした。


「まず髪を洗うという行為自体は昔は神様に祈りをささげるために身を清めるための儀式の一つだったと言われていて歴史自体はすごい古いのだけど今の霞さんみたいにそもそも汚れを落とすためのただの行為の一つにすぎなかった間の歴史は省くけど日本でも髪はすごく大事にされてきて歴史を追うごとに洗髪という行為が徐々に進化していったわそんな日本にシャンプーが出回ったのは昭和初期の頃でシャンプー自体の歴史はすごく浅い当時はまだ髪を洗うというこということが毎日じゃなかったから髪へのダメージをあまり考えられていなかったのだけど洗う頻度が増えて習慣化が進むと段々とダメージケアへの意識が高まってきたのそもそもシャンプーの語源には頭皮のマッサージで清潔を保つという意味があって――」



 なんだか、すごく長くなりそうな気がする・・・。

 僕はすぐ斜め上で始まった髪講座を聞き流して啓一を盗み見た。

 多分、啓一も僕も同じ顔をしていたと思う。

 

 確かにこれは強力な助っ人だ。

 強力すぎて手に負えないが・・・



「――というわけで霞さん、今からシャンプーを買いに行くわよ。あとトリートメントとコンディショナーもっ」


「・・・・」

「じゃあ今から薬局行ってくるのでお留守番お願いね二人とも、ほら行きましょ霞さん立って」


 そうして強引に連行される霞さん。

 僕と啓一は静かに手を合わせて合掌するだった。


 というか男子二人を女子の部屋に置き去りにするってどうなのと思うが・・・

 あと僕、一応怪我人なんだけど・・・帰ってもいいかな・・・?

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