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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
2.そして彼女は真実を叫ぶ
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第8話

 そうして僕は玄関ホールで開かない自動ドアに阻まれていた啓一を救出して、中へ招き入れた。

 このマンションの前で一度別れたのが間違いで、ちゃんと部屋の番号を確認してからにすべきだったと軽く後悔する。それにしてもさすが運動部、行動が早い。

 携帯に連絡入れたのに反応が無ぇ、とのお小言を頂戴したが、それは携帯の惨状を見せることで納得してもらった。


 そしてまた、目の前に202と書かれた小洒落たプレート。先ほどまで僕がいた渡瀬霞の部屋だ。

 隣には啓一が立っていて、両手には自分のカバンと大きな紙袋。

 描かれたブランドロゴは、安くて割かし質がいいと有名な服のメーカーだ。僕の制服の替えが入っているのは間違いない。


 そして僕は「驚かないように」と一言付け足して呼び鈴を押す。その直後扉は開いた。

 まるで待ちわびたかのようなタイミングで開いた扉に先にいたのは、当たり前のことだが先ほども見た化粧を落とした霞さん。


「あっ、ど、どうも初めまして、夜兎啓一と言います」

 と、緊張した様子で挨拶を始める。

「し、失礼ですが、渡瀬さ・・・霞さんのお姉さんでしょうか?」

 ふるふると首を振る。

「じゃあ妹さ――」

「啓一」

「――ん?」


「その人、渡瀬霞さん本人だよ」


 僕と同じやり取りを始めそうだったので助け船を出すことにした。

 そして、頷く霞さんが中に招き入れてくれたので、お邪魔します、と呟いて再び中へ入る。


「え・・・?は・・・?」

 未だに玄関前で戸惑う啓一。

 大丈夫、気持ちはすごくよくわかる。


 そうして僕らは再びリビングに腰を下ろし、啓一に説明した。


 彼女が渡瀬霞本人であること、苗字は大がつくほど嫌いだから名前じゃないと反応してくれないこと。

 僕の隣にはやっぱり霞さんが座っていて、啓一はもう一つのソファに腰を下している。

 啓一は説明を受けて最初は驚いていたりしていたが、二人並んで座る僕らを見て、にやにやした表情を浮かべた。


「・・・なんだよ」

「いや、べっつにー?」

「・・・」

 にやにやにや

「・・・着替えは?」

「あっとそうだったわ、ほい」

「ん、さんきゅ・・・いくらだった?」

「そんな高くなかったから大丈夫だって」

「いいから、レシート、寄越せ」

「いいよいいよ、こうなったのは俺の責任でもあるしここは持たせてくれ」

「よくないよ。それに僕だってバイトしてるんだから、払う義務はある」

「・・・」

「・・・」


 じゃあ、とどちらかが言った。


「半分な」

「半分ね」

 声が被った。


 そんなやり取りがあって、気付けば僕は風呂場に押し込められていた。


 脱衣所と洗面台があって、隅には洗濯機。

 霞さんのものと思われる制服が畳んであるのが見えた気がしたが、それは見なかったことにした。

 そして裸になって、シャワーを浴びる。

 僕としては別にシャワーまで借りる必要は無いと主張したのだが、「部屋が汚れる」と言われてしまっては、言う通りにするしかなかった。


 まぁ確かにあちこち埃まみれであるのは事実だったのだからそれはしょうがない。

 体中痣だらけなのも、しょうがない。

 むしろ骨が折れたりヒビが入っていたりしていないだけ奇跡のようなものだと思う。まぁ実際に病院に行ってみるまで分からないが。


 明日病院行かないとなぁ・・・家族には何と言おう・・・

 ある日息子がボロボロになって帰ってきたとき、両親はどんな反応をするのだろうか。

 まぁ、帰った時までに何とか言い訳を考えておこう。


 そして、ここで一つ問題が起きた。

 それは埃がお湯だけでは意外と落ちないということ。

「・・・」

 頑張って擦れば落ちないことは無い。でも力を入れると体が痛むのだ。


 ちらりと下を見やるとボディソープと思われるボトルが一つ。

「・・・」

 使ってしまっていいのだろうか・・・?

 いやでも流石にそこまで借りるわけには・・・いやでも汚れ落ちてなかったら失礼かもしれないし・・・


「すみません、借ります・・・」

 結局僕は決意を固めてボトルからボディソープを捻りだした。

 そして、体を洗う。

 胃が痛い、薬を飲み損ねた・・・


 とここで僕はもう一つの問題に直面した。


「髪・・・」


 それは髪を洗うべきかどうか。

 ボディソープはまだいい、でも髪を洗うって女子にとっては結構デリケートなことじゃないのか?

 果たしてシャンプーまで借りてしまっていいのか・・・?

 家族ですらシャンプー類を別にする人も多いというし・・・


 うーん、うーんと唸りながら、辺りを見渡す。


 と、そこで僕はもう一つの問題に直面したのだった。


 僕は結局髪をそのままに浴室を出て、脱衣所で着替える。

 いつのまに用意されていたバスタオルで体を拭き、啓一に用意してもらった着替えに袖を通す。なお、ご丁寧に下着まで買ってくれていたらしい。

 派手過ぎず、地味過ぎないロングTシャツに細身のデニムパンツに着替え、脱いだものを適当に紙袋に放り込む。

 流石に裾上げまでは間に合わなかったのか、余った裾は折り上げて詰めることにした。

 そして僕は再びリビングに向かった。


 ――ある事実を確認するために


「おかえり、サイズどうだ?」

「ん、大丈夫。それより聞きたいことがあるんだけど、霞さん」

「?」

 きょとんと首を傾げる渡瀬霞。

 痛み放題の金髪が少し揺れた。


「シャンプー、使ってる?」


【シャンプー?】


「そう、シャンプー」

「どうした幸也、シャンプーがどうかしたか?」

「無かったんだ、浴室に、シャンプーが」

「ん?シャンプーが無かった?」

「そう、無かった。ちなみに啓一、ボディソープで髪を洗ったことあるか?」

「ボディソープで・・・?あー、なんだっけ、キシキシになったような」

「そう、髪が痛むんだ、元々体を洗う目的で作られているから、髪をそれで洗うとものすごい痛む。僕も昔間違えてやったことがある」


 そして僕らは渡瀬霞の髪を見る。

 痛み放題で、まるで手入れされているとは思えないその金髪を――


「言い方を変えよう。霞さん、髪、()()()()()()?」


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