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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
2.そして彼女は真実を叫ぶ
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第7話

 感情の読めない鋭い視線が僕の瞳を貫く。

 それは僕の胃に間接的にぐさりと突き刺さって、さらに痛みをあげた。


 ギリギリギリッ


 僕は反射的に胃を押さえて立ち上がっていた。

 今度は体がぎしぎしと音を上げた。


「あ、ええっと渡瀬さんのお姉さんですか?」

 美女は嫌そうな顔をしてから、ふるふると首を振った。

「じゃ、じゃあ、妹さん?」

 また首を振った。


「え?じゃあ・・・まさか渡瀬さん?」


 また、首を振る。


「ま、まさかじゃあ、お母さ――」

 ぶんぶんぶんぶんっ

「だ、だよね」

 まぁどう見ても若い顔をしているのにそれは失礼だろう。

「え、じゃあ誰・・・」

 僕が頭を悩ませていると美女はまるで私だよ私と言わんばかりに自分を指さす。まるでオレオレ詐欺にかかっている気分だ。


 そうして僕が悩んでいると、彼女は思いついたかのように携帯を取り出し、何かを打ち込んで、僕に見せてきた。

 画面に映っていたのは三文字。


【霞です】


 ・・・


 いやさっきそれ否定したよね?

「なんだよ・・・やっぱり渡瀬さんじゃないか」


 そして彼女はまた、首を振って嫌そうに否定する。


 じゃあ誰だよ!!!!!!!!


 もう僕は意味が分からなくてパンクしかけていた。


 なぞなぞ


 渡瀬なのに渡瀬じゃなくて、姉じゃなくて、妹でも母親でもないものでもなーんだ。

 なんだよそれ、じゃあ親戚か?

 渡瀬霞という同姓同名な誰かか?


 ごちゃごちゃとした思考を精いっぱい整理しようとして、失敗した。

 まるで背理のような思考に陥る僕に、彼女は答えを提示した。


【苗字は嫌い大嫌い】

「・・・・」

 そして続けて携帯に文字を打ち込んで、こちらに見せる。

【名前は好き。お父さんがくれた名前。だから霞】

「・・・・」


 すぅーーーーっと息を吸う。


 つまり、だ。


「渡瀬って苗字が嫌いで、霞っていう名前が好き、と」

 こくこくと彼女が頷く。

「つまり渡瀬って呼ばれて、それが反応したくないくらい嫌いな苗字だと」

 こくこくと彼女が頷く。


「霞って呼べば反応すると」


 こくこくと彼女が頷く。


 はぁぁぁと深く息を吐く。


 そういえば、と思い出した。渡瀬霞の自己紹介。渡瀬という歪で汚い文字と、霞という綺麗な文字の対比(コントラスト)

 思えば多分、あの時点で彼女の主張は始まっていたのだろう。

 「名前で呼んでくれ」という声にならない主張。


 確かに、普通初対面とかだと苗字で呼びがちだよな・・・名前で呼ぶなんてよっぽど仲がいいか、昔からの知り合いくらいなものだろう。


「で、つまり君は霞さん・・・ということでオーケー?」


 くそ、年頃の女の子を名前呼びするのはやはりかなりきついものがある。

 けれども、僕の言葉に美女は嬉しそうにこっくりと頷いた。

 まぁ、呼んでも反応してくれないのならば背に腹は代えられまい。 


 なぞなぞの正解は、霞でした。


「・・・」

「・・・」


 見下ろす渡瀬さ・・・いや霞さんの視線を受けて、僕は所在無げに腰を下ろすことにした。

 体中ずきずきと痛いし、正直胃もかなり痛い。立っていることがしんどいことこの上無かった。

 そして僕は視線を動かして、元の場所である霞さんの隣ではなく、L字型に配置されたもう一つのソファに腰を下ろした。

 とりあえず胃薬を飲もう、と、そうカバンに手を伸ばしたところで、霞さんは立ち上がった。

 そしてとことことこちらに歩いてきて、僕の隣に座る。


「・・・」

「・・・」


 僕は立ち上がって、さっきまで霞さんの座っていたところに腰を下ろし、カバンを漁る。

 霞さんはまた立ち上がって、歩いて、僕の隣に座る。

「・・・」

「・・・」

 再び僕が立ち上がって、歩いて、先ほどのソファに座ると、彼女も繰り返すように僕の隣に座る。

「・・・」

「・・・」


 そんなやり取りを三回ほど繰り返し、僕は折れた。

「・・・」

「・・・」

 まるで刷り込みだ。

 卵を割って出てきた雛が、親鳥に着いていくようにどこまでも着いてくる。


 啓一頼む早く来てくれ・・・!!!!


 半ば祈るようにポケットから携帯を取り出して、僕は愕然とした。

 隣に座る霞さんも、僕の携帯の惨状に気が付いたようだ。


 画面がバキバキに砕けていた。


 当然だ、派手にケンカしたときこいつはポケットにいたのだから。

 恐る恐る、電源ボタンを押す。

「・・・っ」

 反応無し、画面は暗いままでうんとすんともいわない。

 長押し、叩く、振る。


 反応無し。


「やばい・・・」

 霞さんが自分の携帯を取り出し、文字を打つと僕に見せてくる。

【弁償します】

「ああ、いや、それはこっちで何とかするから大丈夫」

【弁償させて下さい】

「大丈夫だから気にしないでいいよ。それより問題なのが・・・」

【?】


「啓一、霞さんの部屋知らない」

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