お店の定番、うさぎのターン
「さーてさて」
トントンとテーブルを指で叩くと、
「落ち着いたところで、今日の議題に入ろっかー」
「・・・オチもついたわね」
「ううううるさいよ妃」
あわあわする千華だが気を取り直し、
「コホン。・・・えっと、今日はゆいちゃんのうさぎグッズ開発についてだね!」
「わぁい。いいのかな、わたしの事で・・・」
「全然おっけーだよー。朝見せてくれたてろーんてした子の事かな?」
「ううん。あの子はもうお店に出すのは決定だから大丈夫ー。・・・あ、お兄ちゃん。後であの子の写真撮ってほしいなぁ」
「りょーかい」
背中で答える月理を見て頷いた唯理は向き直り、
「んとね、今日はお店で新しい定番グッズを考えたいなぁって」
「ふむふむ、定番かぁ」
「・・・まず、今ある定番が何かって話ね」
コクコクと頷いて、スカートのポケットに手を入れて紙片を取り出すと、
「うーんと。うちは今、定番って呼べるのはこれかなー」
千華と妃が少し乗り出して、開いた紙片に目を通す。
「おっ、意外と少ない?」
「お母さんが色々買い付けてくるけど、僅少品ばっかりだからなかなか定番になるものが無くて・・・」
「・・・この記号は?」
「あっ、これはどこでよく売れてるかを記号にしてみたんだー。建物のマークがお店で、まるいやつはネットのつもりー」
「なるほど」
三人で眺めること暫し。
すると身体を後ろに戻した千華が、
「大体はネットで売れていくみたいだね。あとお値段はわからないけど、ちょっとお高めの物は店頭で売れているみたい?」
「あ、お値段印刷するの忘れちゃった。でも千華ちゃんが言った通りかも。これなんて私がお店番の時よく売れてるけど、確かに安くは無いと思うー」
「・・・遠方から買いに来る方とかいるのかしら?」
「うん。なんか、近くの県から来ましたーってお客さん、結構見るよー」
「おぉ、別の県からも来るのかー。それってなかなかすごいんじゃない?」
「そーだよねぇ。しかもうち、結構へんぴなところにお店構えてるから尚更かも」
「・・・それぞれ足らない所を補完するのはどうかしら」
『足らないところ?』
千華と唯理がハモらせる。
「・・・例えばネットだったら少し高めの商品とか、店頭ならついでに買ってもらえる小物とかかしら」
「あー、なるほど」
ポンと手を合わせる唯理。
紙片の一覧を再び眺めた千華は、
「そういえばここに載ってる子達、お店ではあまり見ないねぇ」
「・・・そういえばそうね」
「あー、うん。この子達はネットで売れていくから、大体在庫は倉庫に仕舞いっぱなしかも」
「じゃあその子達出してあげたら、一緒に売れていくかもね!」
「うん。早速やってみるー」
唯理は、紙片を手元に引き寄せて何かを書き足す。
「・・・そして新規商品開発に戻ってくる訳ね」
「そだねぇ。・・・うーん」
流れるしばしの沈黙。
ふと、唯理が視線を横にやり、目を大きくする。
「わっ。わわわっ」
「?どしたのゆいちゃん」
「のののケージ、開いてるよっ!」
すると後ろを向いたまま平然とした声で、
「そりゃ出してるからな」
「出してるから、じゃないよー。最初に言っておいてよー」
半べそになりつつ視線を部屋中にまき散らす。
「の、ののはどこ!?」
カップを口元に傾けていた妃は、ふと折った膝先に感触に、視線を下へ向ける。
「・・・いたわ」
びくっとした唯理は、自身の周囲を慌てて見回し、
「ど、どこ!?どこかな妃ちゃん!?」
「・・・大丈夫。私の足下よ」
すぐにテーブルから身体を少し離すと、
「そっかー。妃ちゃんの近くなら大丈夫かな」
安心して、カップに手を伸ばす。
「ゆいちゃん、のののこと苦手だったとは思ったけど、こんなにダメだったっけ?」
テーブルの下を覗き込み、うさぎに手を伸ばしながら千華が不思議がる。
「だってぇー。ののこの前、わたしが座ってただけなのに手を噛んだんだよ!」
柔らかく語気を荒げて、そのままカップに口づける。
「じゃれただけだろ」
その言葉に、カップから口を離すと背を向ける月理に向かい、
「血が出たんだよぅ。痛かったんだからー」
困り果てた声音を恨めしそうにあげると、再びカップを傾ける。
その手を見た千華が、
「あ、その右手の甲がそう?」
コクコクと頷く唯理に、
「あらー、痛そう。大変だったねぇ、ゆいちゃん」
頭を軽く撫でる。
「・・・・・・」
無言でうさぎを見つめていた妃はカップを置き、
「・・・あまり困らせないであげて」
ゆっくりと手を下げて、膝頭に手をかけているうさぎの頭を撫でる。
うさぎはわかっていると言わんばかりに、目を細めた。




