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ふわふわふわりん調理中

 しばらくして、扉が軽く叩かれる。

「娘たちー。おやつよ、開けてー」

 くぐもった声が聞こえる。

「あ、はいはーい」

 千華が立ち上がって近づき、扉を開く。

 入ってきた笑乃は身幅を超えるお盆を持ち、心持ちおぼつかない足取りでテーブルへ向かう。

「わぁ、お母さん大荷物だねー」

 唯理が声をあげるのと同時に、立ち上がった妃は笑乃に近づいて、

「・・・代わります」

「あら、ありがとう。テーブルの脇にでも置いてちょうだいね」

 ゆっくりと持ち主の代わったお盆は、そのままテーブル脇の床に着地する。

 大きなお盆には、その殆どを占有するようにプラスチック風の機械が乗っている。

「?流しそうめん?」

「ふふっ、違うわよー」

 その他、深めの皿には多色の粒が大量に盛られ、割り箸も人数には見合わない数だけ置かれている。

 お盆とはテーブル向かいとなる千華が覗き込みながら、

「なんだろう・・・ビーズかな?」

「ぶっぶー。これは、ザラメでーす」

「ざらめ?お砂糖?」

「・・・わたあめですね」

「ぴんぽーん、正解!」

「おおっ、わたあめかぁ」

「そうよー。娘たちにはうってつけの可愛さでしょ」

 ふふんと鼻を高くする笑乃に、

「息子もいるぞ」

「あら、愚息の間違えでしょ」

「・・・・・・」

 即答されて沈黙する背中に、

「悲しみのつきりん」

「うっさい」

「あら、月理だけお勉強?」

「課題を出した本人が何を・・・」

「あ、あれもう手をつけてくれてるの?素敵よ我が息子!」

「愚息ですがね」

 皮肉を返しつつも手は止めない。

「そいえば、何書いてるの月理?」

「んー?・・・んー」

「あっ。昨日のお夕飯でお話してたやつ?」

「そうよー」

 頷きながら機械に巻き付いていたケーブルを手に取り、

「妃ちゃん、ちょっとのの戻してもらえるかしら?・・・ゆい、これコンセントに差してー」

「はーい」

 受け取った唯理はそのまま動かず、立ち上がった妃を見る。

「・・・のの、おいで」

 妃は足下のうさぎに声をかけると、ケージの方向へと歩いてゆく。

 うさぎは机に向かう月理の方を見やり、すぐに妃の後を駆けてゆく。

「ほー。さすがのの使いだねぇ」

「ううっ。妃ちゃんの十分の一くらいでいいから、わたしの言うことも聞いてほしい・・・」

「ゆいはなめられ過ぎなのよー。目を合わせて、心から話しかけてごらんなさいな」

 すると恨めしい目つきで母を見やった唯理は、

「・・・それやったら、ほっぺた叩かれたんだけど」

「ありゃー」

 バツの悪そうな顔をする千華と、天を仰ぎ見る笑乃。

「・・・のの、入ってね」

 出入り口の開いたケージの近くで座った妃は、膝頭に前足を乗っけるうさぎに話しかける。

「・・・・・・」

 妃の顔を仰ぎ見たうさぎは、すぐにケージへと入ってゆく。

「・・・また後で出してあげる」

 そう言ってゆっくりと入り口を閉める。

 連動するように唯理が、受け取ったケーブルを壁に向ける。

 コンセントに差し込まれたのを見た笑乃が、機械の電源をいれる。

 低く唸った機械に、

「お母さん、わたあめの作り方わかるの?」

「あら失礼ね。結構上手なのよ。我が愛兎ふわりにかけてね」

「ふわりん?」

「そそ。ふわふわのふわりんよー」

 言いつつ、スプーンで掬ったザラメを回転する釜の中央穴へ流し入れる。

「そういや」

 背中の月理が声をあげる。

「ん?」

 聞き返した千華に、

「さっきふわり見に行ってただろ。もういいのか?」

 その言葉に少し視線をさ迷わせるも、

「うん!もうふわりんゲージはマックス振り切っちゃってるよー」

「なんだそりゃ」

 呆れた声。

 と、ザラメが金属に当たり跳ねる音が軽妙に鳴り響き、ドーナツ状にくり抜かれた部分にうっすらと白い雲のような糸が姿を現すと、

「おっ、出てきた!」

「わっ、お母さん!早くまきまきしないと!」

「・・・慌てすぎよ二人とも。もっと出てこないと」

 口元で小さく笑みを浮かべた笑乃は、

「そういう妃ちゃんも前のめりになってるわよ。ふふっ」

「・・・!」

 たおやかに、しかし俊敏に身体を後ろに戻した妃は、

「妃、めっずらしー」

「・・・言葉のあやよ」

「喋ってないよね!?」

「・・・いいから、出来るのを待ちなさい」

 あくまでも冷静に、耳たぶを赤くする。

「ぶー。まぁいいけど」

 そうして優しい沈黙が降り注ぐ。

 機械の緩い重低音が注目にも我関せず、小さく鳴り響いていた。


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