淑女の嗜み、赤面なり
カチャリとソーサーに重なる音。
刹那の沈黙は長かったのか短かったのか。
打破は漫然と放った一声。
「美味しかろう」
満足気に呟いた千華に、
「・・・かろう?」
唯理が可愛らしく語尾を繰り返す。
「うん、美味しかろう」
「・・・殿様ね」
「違うよ!女城主だよ!」
「・・・流行ものはすぐ廃れるわよ」
「うぐっ」
「あはは、でも可愛いね、おいしかろう!」
「ね!いいでしょ!」
にこにこと笑いあう二人に、
「・・・まぁいいけど」
口元だけで軽く笑みを作って再びカップに口づける妃。
そして、
「・・・・・・」
机に向かって沈黙の男子。
その背中を見た千華はピンときたような顔をすると、
「ねぇ月理ぃ」
「ダメだ」
「即答!?しかも内容言ってないよね!?」
「お前がそういう声の時は大抵嫌がらせなんだよ」
背中で返事をする月理。
千華はむぅっと頬を膨らませると、おもむろに立ち上がる。
「そっかー。ダメなら仕方なかろう」
小声で呟きながら、月理の元へ足音を立てずに近づいていく。
そして傍まで行くと、月理の座っている椅子に掛かった鞄に手を伸ばす。
ハテナ顔の唯理に知らん顔の妃。
そのまま音も立てずに鞄のサイドポケットから携帯端末を抜き出すと、一歩離れて、
「あー、こんなところにけいたいがー」
恐ろしい棒読みで声をあげる。
「!・・・おい」
ババッと振り返り、鞄の携帯があったポケットをまさぐると、無いことがわかって千華を睨みつける。
「大丈夫だって、別にメール見る訳じゃないし。ちょっと待ち受けを、ね?」
にししと笑う千華に、軽く嘆息すると、
「・・・電源は右脇だぞ」
「およ。とても素直さん」
拍子抜けしつつ、言われた通りに電源を探り当てると、
「では、解!禁!」
ボタンを押し込み、真っ暗だった画面に明かりが灯る。
すると即座に、
「ひゃあ!」
今まで悪戯ぶっていた千華が驚いた声をあげる。
「えっ、なになに?どうしたの千華ちゃん」
びっくりしつつも好奇心が勝るのか、唯理が千華に身体を寄せて画面をのぞき込む。
「おおっ。躍動感いっぱいだねー」
画面の画像は左右に二分割されていて、右には妃、左には千華が、それぞれスティックを持って跳躍している。
「ち、ちょっと月理!」
「なんだよ、近くで大きな声を出すなって」
「なんだよじゃないよ!なにこの写真!」
「何って、お前等が天梨のトコに助っ人に行った時のだろ」
「助っ人したとかじゃなくて、この写真の私!すっごい服めくれちゃってるじゃん!」
「そりゃ、跳んでるトコだからな」
淡々と返す月理に、千華はまくし立てる。
「ふっ、不健全です!画像の変更並びに消去を命じます!」
「無理」
「即答!?なんで!?」
すると今まで背中越しに会話をしていた月理が椅子を回して向き合い、
「だってこの時のお前等、すごいかっこ良かったし」
真っ直ぐと言い切る。
「うっ・・・」
言葉に詰まった千華は、
「妃は!?妃は嫌じゃないの、この写真!」
ビシっと画面を向けると、優雅にカップを傾けていた妃はソーサーに静かに置いて、
「・・・問題ないわ」
静かに断言する。
「画面見てないじゃん!」
「・・・さっき見たから」
「むぅー・・・」
再度画面を見直して呻いた千華は、暫くして月理に端末を差しだして、
「・・・まぁ、いいけど」
渋々言いつつ、
「でも!他の人には見せないでね」
「わかってる。普段はロックかけてるから」
「ならいっかー」
渋ついた表情も緩和し、テーブルに戻って紅茶に手を伸ばす。
「・・・?」
そこで同じくテーブルに戻った唯理は首を捻り、
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだ?」
再び机を向いた月理に向かって声をかける。
「この写真ってお兄ちゃんが撮ったの?」
「いや?写真部だけど」
ピシッ。
滑らかに動作していた機械が緊急停止するように、千華の手が止まる。
「それじゃこの写真、写真部の人にもらったの?」
「あぁ、身内だからな。他の奴らには販売だったと思うけど」
バンッ!
「・・・ちょっと。お茶がこぼれる」
その言葉も聞こえていないかのように、ワナワナと震える千華は、
「・・・聞いてもいいかな、月理君」
噛みしめるように言葉を発する。
「なんだ?」
「・・・その写真って売ってたの?」
「ん。男連中が結構買ってってたみたいだな」
「ギャー!!」
恥辱にまみれた裂帛の叫びが、山彦のように付近に木霊した。




