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114 ドラゴンとビヒーモス

 あかね色の炎のダメージはないものの、近づいただけで、肌にぴりぴりと熱を感じる。

 エア機能を全開にしたまま、俺は絶望のトンネルを潜り抜け、格納庫Bへとたどり着いた。


 行って叩ける訳じゃない。

 俺とビヒーモスとの間には、絶望的な距離があった。

 ジャンプ機能を使えなければ、人間がビヒーモスの一歩に追いつく事は不可能。

 ダッシュ機能に切り替えて、さらにエネルギーをチャージしなくてはならない。

 この灼熱の空間で、それはどんなに頑張っても不可能だ。


 さらに、俺のやる気を打ち砕くような、幼女軍師の声が響いた。


『勇者たちは、全員帰投せよ! 繰り返す、全員帰投せよ! クエストは続行不可能!』


 俺は唐突に聞かされたその声に、ただ純粋に驚いていた。


『ただいまの攻撃の影響により、軍に作戦続行不可能な甚大な被害が出た! クエストは続行不可能、地下格納庫を速やかに明け渡す、全員帰投せよ!』


 極大火炎放射Lv3の攻撃は、壁を幾つも貫通していった。

 あの角度では、外の魔物の侵入を塞いでいた門扉も開きっぱなしだろう。

 もう、この地下格納庫に閉じこもっては、戦い続けようがない。

 次の舞台は、あるなら別の地下格納庫で……そういう判断のようだ。


「勇者達は……か」


 俺はどうするべきだろう。

 勇者は、軍の命令に対して、ある程度自由に行動する裁量が認められている。


 俺は、空を見上げた。

 俺の頭上で飛び回っているドラゴンは、恐怖におののいているのではなかった。

 ビヒーモスを恐れているのなら、後ろの格納庫に閉じこもっているはず。

 全員、怒りに猛っていたのだ。


 眼を血走らせて、こちらもビヒーモスと比較すればいくらか小物臭いが、恐竜のような咆哮をあげている。

 落ち着いて聞いてみると、ビヒーモスの咆哮と、ドラゴンの咆哮は、結構にている気がした。


 俺の知っているゲームでは、ビヒーモスは最終ダンジョンあたりに出てくる有名なモブだ。

 確か、掲示板でその元ネタを小耳にはさんだ事がある。ゲーム設定のどうでもいい粗をつつくようなトピックだったと思う。

 最初は世界の終わりに海から現れるカバみたいな怪物だったのが、時代が移り変わって、他の国の神話の中でバハムートという、巨大なドラゴンに転じたのだという。

 それがゲーム内では完全に別種の生き物として扱われている、どう考えてもおかしい、おかしくない、ゲームだからいいじゃん、という話だった。


 俺もゲームだからどうでもいいじゃん、と思うのだが、要するに、ドラゴンの先祖にあたる古い種族がビヒーモス、という認識で間違いないだろう。

 だったら、咆哮がどっちも恐竜くさいのもうなずける。


 ドラゴンたちは、戦おうとしているのだ。

 自分たちの祖先と。

 古いドラゴンと。

 10数匹のドラゴンの咆吼には、過去との決別のような決意が、漲っていた。


 しかし、その割に、俺の頭上をいつまでも、ぐるぐる回っているのはなぜか。


 誰か一匹ぐらい、先走ってビヒーモスの背中に噛みついてやれよ、と思うのだが。

 俺みたいなノロマにくっついてきたって、きっと永遠に追いつけないぞ?


 こいつら一体、何をしたくて俺についてきているんだ。

 俺は立ち止まって、上を見上げた。

 ギャーギャー騒いでいるドラゴンに向かって、声をあげる。


「……なにやってんだお前ら、ひょっとして、俺が戦うのを見物しにきたのか!?」


 ドラゴンの咆吼が、頭上からぎゃーぎゃーと鳴り響いた。

 すげぇ、一頭一頭の声が、雷みたいだ。


「……なんでそんなの見たいんだよ、俺が飛竜と、契約したからか!?」


 再び、咆吼。壁が崩落しそうな勢いだ。

 そうか……こいつらも俺と飛竜がかわした約束を、知っているのか。

 当然、飛竜の陰謀も知っていたはずだ。


「……お前ら、そんなに俺の肉が食いたいのか!? 地球人の肉を!?」


 一瞬、謎のタメがあった。

 しかし、謎のタメのあと、ドラゴンたちは一層けたたましく咆吼しはじめる。


 この絶望の世界で、ドラゴンに生きる希望を与えるほどの美味という、俺の肉体。

 どんな味がするんだろう。

 第五宇宙のドラゴン限定とは言え、他の宇宙のドラゴンも、興味津々なのだろう。


 俺もこいつらの餌にされるのか、と思うだけで、ぞっとする。

 地球人すべてを犠牲にしようとしている事実に、今さらながら気が引けてきた。

 しかし、これを使わない手はない。


「……だったら、とりあえずビヒーモスを倒してくれよ! 俺を食いたいなら、話はそれからだ!」


 すると、いままで宙を旋回していたドラゴンが、突然向きを定めて、一方に飛んでいった。

 10数匹のドラゴンが、彼らの捕食者の背中めがけて、飛びかかっていく。


 それらに背中に食らいつかれ、炎の玉や、氷の息を吹き付けられたビヒーモス。

 何十倍もの迫力の怒声をあげて、腕を振り回して応戦した。


 ドラゴンにとって、一撃必殺となる攻撃、ドラゴン・ハント。

 食らったドラゴンが一撃で地に沈んでいく。

 けれども、それらをかわしながら、怯む事無く、しつこく攻撃を重ねていた。


 食べ物の力ってすげー。と思ったが、単純に動機はそれだけではないような気がする。

 ただ、餌になる順番を怯えて待っていた、今までのドラゴンたちの動きとは、まるで違う。

 理性的に考えて、どうしても勝てない捕食者を相手に立ち向かっている。


 軍がビヒーモス討伐を諦め、勇者達に帰投命令が出された状態で、もう勝ち目はない。

 それでも今なお、ドラゴンたちは命を省みずに戦っている。

 俺らよりも遥かに知能の高いドラゴンが、そんな無謀な行動に出たというのが、俺には信じられなかった。

 いったい何が起こったというのか、俺の損得勘定では到底理解できない。

 俺は、ついさっきまで自分が戦おうとしていた事実も忘れて、他人事のようにそれを眺めていた。

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