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111 激闘

 気がついたときには、俺は復活の魔法陣に立っていた。

 チワワみたいな大きな目の蘇生勇者たちが、円のまわりで俺をじーっと見ている。


 俺は、しばらく自分の置かれた状況を確認するのに必死だった。

 視界に映っているマップや、ログ、その他色々な情報に、ノイズがバリバリ走っている。


 さらに、データが狂ったのかと思うような情報が記されていた。


 総プレイ時間 50時間38分25秒

 ビヒーモスのライフゲージは、残り4割を切っている。


「なんだ、こりゃ……」


 俺が復活するまで5時間もラグがあった。

 さらに、通話記録のログに、勇者ドバルの死亡フラグが7つぐらい届いている。


 通話画面に切り替わり、幼女軍師が現れて、再び大声で言い放った。


『ようやく目覚めたかッ! 最終形態のビヒーモスには近づくなと、あれほど言っただろうッ!』


 なにかもの凄い怒られている。

 言ったのか? 言ったのかも知れないが、ぜんぜん聞こえなかったんだが。


『最終形態のビヒーモスは、すべての魔法を無効化する光を放っているッ! 今の奴には、バフもデバフも攻撃魔法も、一切通じない! 無闇につっこめば死ぬだけだッ!』


「……マジでか」


 熱で周辺をトラップエリアにした上で、さらに魔法無効の光まで放つ。

 まさに無敵じゃないか。

 いったい、どうやってそんな怪物を倒すんだ。

 俺の回収が遅れたのも、どうやらビヒーモスに近づきすぎて、転移魔法がかけられなかったからだそうだ。


『魔法阻害の光を放つために、ビヒーモスはその生命力を削っているッ! 歩兵勇者連隊、魔法勇者連隊は、共に奴の進路上に防壁を築き、地上への帰還を妨害せよッ!』


 新クエスト、『ビヒーモスの帰還妨害』が追加された。


 遠くでビヒーモスが凄まじい咆吼を上げると、復活の魔法陣の放つ光が、白から薄暗い紫色へと淀んでいく。照明の炎でさえ、色を真っ黒にして、まったくその機能を成していない。

 さらに洞窟全体がぐらぐら揺れはじめ、蘇生勇者達も、がたがた震えていた。


 ビヒーモスは、この世界のすべてのシステムに異常をきたさせていた。

 視界のノイズも激しくなり、洞窟に満たされていた不思議な光も薄暗くなる。

 まさに破壊のために産まれてきた破壊神みたいだった。


 こんな生き物に地表を埋め尽くされて、よく今まで諦めなかったものだ。

 その時点で、この世界にはもう、『絶望』しか残されていなかったはずだ。

 よくこの星を手放さなかったものだ。

 それだけでもすげぇと思うのに。

 しかも、最終的には倒し方まで編み出してしまっている。

 これが勇気の成せる技なのか。

 隕石が墜落して、地表が死んでも、氷河期を生き残った地球の生物みたいに。

 この世界は一人一人には残酷だが、攻略法は必ず用意されているものらしい。

 ネトゲみたいなものだ。


 俺は飛竜のツメを抱えて、そのまま戦場の洞窟へと出た。

 召喚魔法だけは唯一正常に使えるらしく、ダッシュは普通に使えた。

 今まで途切れる事のなかった勇者達の群れが、半分程度に減っている。

 復活や転移が阻害されているのか、それとも大事を取っているので、死ぬ勇者の数が減っているのかは分からない。


 俺たちが飛び込んだのは、格納庫Cの転移門だった。

 ビヒーモスの進路を塞ぐのなら逆な気がするが、ここにもまだ何か用があるのか。

 スロープを降りてゆくと、壁の大穴の前で、歩兵勇者達が瓦礫を肩で押していた。


 どうやら、穴を塞ごうとしているらしい。

 そちらからは、ビヒーモスの放つ、不思議なあかね色の空気が漏れてきている。

 熱気をシャットダウンして、ここを新しい拠点にするつもりなのだ。


 ストーム機能がネタスキルだってのは、自分だけ稼ぎたい奴が呟いただけの、まったくのデマだったようだ。

 俺はその辺に転がっていた大きな岩を、宙に浮かばせた。


「この穴を塞いだらいいのか?」


「あっ、待て! 今は……」


 その時、大穴の方からあかね色の風が吹いてきた。

 俺はその風の向こうに、全身から目映い炎を吹いているビヒーモスがいるのを見た。

 神々しささえ感じるその立ち姿を見ていると。

 ふいに、それ以外のものが、真っ黒に炭化した。

 ビヒーモスの光は見えるのだが、それ以外の物が、異様に昏い。

 たぶん、俺の目が焼けていたのだ。

 極大火炎放射を思い出す、強烈な炎。

 全身を黒い炎に包まれ、俺は細胞の1個も残さず水分を搾り取られ、そのまま退場した。



 気がつくと、復活の魔法陣で俺はぼんやり立っていた。

 チワワみたいな顔をした蘇生勇者達が、きゅーきゅー鳴いて、地響きを恐がっている。


 なるほど、ストーム機能を使わなかったんじゃない、代わりにエア機能を使っていたんだ。

 あんな場所では、エア機能を使わなければ、ろくに作業もできない。

 だから、飛竜のツメを使っていた彼らは、前方ではなく、後方の作業に回されているのだ。


 俺は、ふう、とため息をついた。

 簡単に攻略法を思いついてしまう自分に、嫌気がさす。

 ……だったら。

 エアと、ストームを、両方同時に使えばいいじゃない?


 俺は、通話ログから、勇者ドバルの送ってきた【ストーム・ブリンガー】を呼び出した。

 本来同時に使えないストーム機能と、ダッシュ機能を、同時に使えるようにした物だ。

 それを見ながら、俺は新しいマクロを組み立てていく。


 飛竜はいったいどこに行ったのだろう。

 分からないが、こちらからは連絡を取りようがなかった。

 俺の体感では、ドラゴンの蘇生にはめちゃくちゃ時間がかかっていたはずだ。

 ひょっとすると、あの一瞬で死んで……今はもう、そのままなのかもしれない。


 俺は、ため息をついた。

 ……飛竜はもういないのに。

 あいつの陰謀に、どんどんはまっていくな、俺は。


 そんな事を思いつつ、新スキルを組み立てていく俺を、蘇生勇者達が目をぱちくりさせて見ていた。

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