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第三章 3 『第四十二位の案内人』





 国際至冠会合の中央施設は、何度訪れても初めて来た人間には分かりにくい造りをしている。フィレナ・オルディスは交流区画へ向かう途中、中央広間の案内図を囲んでいる五人組を見つけ、思わず足を緩めた。


 四人の若い男女と幼い少女という組み合わせも目を引いたが、それ以上に気になったのは、案内図を指差している少女の髪型だった。


 白桃色を基調とした髪は、毛先へ向かって桜金色から淡い薄藤色へと移り変わり、頭の左右で少し崩した二輪のシニヨンにまとめられている。顔の横や襟足には長めの後れ毛が揺れ、振り返るたびに柔らかな色彩が光を受けていた。


 フィレナはその特徴を参加者資料で見た覚えがあり、最近話題になっている少女の名前を思い浮かべた。


「この階段を上がればいいのかな? でも、こっちの通路にも交流区画って書いてあるよ?」


「そちらは別の階層に繋がっているようね。案内図では近く見えても、直接行けるとは限らないわ」


「ちょっと待ってくれ。通路の番号を合わせれば、どっちが正しいか分かるはずだ」


 聞こえてきた会話に、フィレナは小さく笑った。目的地へ向かう道を探しているらしいが、初めて来た人間なら迷うのも無理はない。


 何しろ、この施設は通路の幅も階層の繋がり方も複雑で、案内図を見ただけでは分からない場所がいくつもある。


「ねえ、そこのみんな。もしかして、交流区画を探してる?」


 声をかけると、白桃色の髪の少女が勢いよく振り返った。少し驚いた顔をしたものの、すぐにぱっと表情が明るくなり、フィレナへ一歩近づいてくる。


 資料に記載された戦歴から想像していた雰囲気とは随分違っていて、フィレナは少しだけ面食らった。


「そうなの! さっき登録が終わったんだけど、通路がいっぱいあって分からなくなっちゃって!」


「ああ、やっぱり。ここ、最初は本当に迷うんだよね。私も前に来た時、同じ廊下を二回通ったことがあるし」


「本当!? じゃあ、私だけじゃないんだね!」


「うん。だから安心していいと思うよ」


 少女がほっとしたように笑うと、隣にいた女性も少しだけ表情を緩めた。ただ、こちらを観察する目は落ち着いており、初対面の相手を無条件に信用するつもりはなさそうだった。


 フィレナはその慎重さを当然だと思い、胸元に下げた認証札を示した。


「私はフィレナ・オルディス。リュメリア小公国から来た至冠者で、現在は第四十二位。よかったら、交流区画まで案内しようか?」


「第四十二位! じゃあ、フィレナも至冠者なんだね!」


「そうだよ。あなたはリゼルヴェート・アルシェノアで合ってる?」


「うん! どうして分かったの?」


「そりゃ分かるよ。短い間に第三十一位から第二十七位へ上がった子なんて、そう何人もいないからね」


 リゼルヴェートは少し照れくさそうに笑い、それから仲間たちを紹介してくれた。落ち着いた雰囲気の女性がイェルシェリナ、案内図を確認していた少年たちがゼルディヴァンとルシェルト、そして幼い少女がアシェラというらしい。


 参加者一覧には五人の名前が並んでいたため、フィレナも聞き覚えがあった。


「それにしても、リゼルヴェートって思ってたより普通なんだね」


「えっ、普通?」


「うん。もっと怖い子なのかなって思ってた。至冠者を次々に倒して順位を上げたって聞いてたから、近づいたら睨まれるくらいの人かと」


「そんなことしないよ! 私、知らない人と話すの好きだもん!」


「それならよかった。私も気軽に話せる方が嬉しいし」


 リゼルヴェートは心外そうに頬を膨らませたものの、本気で怒っている様子はなかった。フィレナが笑うと、彼女もすぐにつられて笑顔になる。


 強い至冠者だからといって近寄りがたい性格とは限らないと分かっていたつもりだったが、実際に会ってみると噂との違いが面白かった。


「交流区画へ行くなら、こっちだよ。せっかくだし、他の施設も案内しようか?」


「いいの!? 私、まだ全然覚えてなくて!」


「もちろん。私もそっちへ行くところだったし、遠慮しなくていいよ」


 イェルシェリナが案内を頼みたいと答えたため、フィレナは五人を連れて歩き始めた。案内図では直進した方が近く見えるが、実際には中央広間へ戻り、別の階段を使う方が早い。フィレナがその理由を説明すると、ルシェルトがすぐに通路の構造を確かめ始めた。


「なるほど。階層ごとに入口が違うのか。案内図だけじゃ分かりにくいな」


「そうなんだよね。中央広間を基準にすれば、だいぶ迷いにくくなると思う」


「助かるよ。俺たちも現地の移動経路は確認するつもりだったけど、実際に使った人の話があると早い」


「そう言ってもらえると嬉しいな。私、難しい説明より歩いて覚える方が得意だから」


 ルシェルトは通路の分岐や荷物の搬入経路を気にしており、ゼルディヴァンは案内図に記された区画番号と実際の配置を照合していた。


 イェルシェリナは通行資格の違いについて質問してくるため、フィレナも分かる範囲で説明し、正式な権限は運営へ確認するよう勧める。三人の関心がそれぞれ違うことに気づき、フィレナは少し感心した。


 やがて交流区画へ到着すると、広い談話室から賑やかな話し声が聞こえてきた。室内には各国の参加者が集まり、飲み物を手に談笑する者もいれば、書類を広げて真剣に話し合う者もいる。壁際には軽食を提供する場所まであり、リゼルヴェートはそれを見つけた途端に目を輝かせた。


「わあっ! あそこ、お菓子がある!」


「あるよ。交流区画だから、休憩したり、他の参加者と話したりする場所なんだ」


「へえ……。至冠者の人たちも、普通にお茶を飲むんだね」


「飲むよ。私だってお腹は空くし、ずっと難しい話をしてたら疲れるもの」


 リゼルヴェートは納得したように何度も頷き、談話席へ視線を巡らせた。フィレナには、彼女が至冠者の集まりにどんな光景を想像していたのか少し気になった。


 実際には戦闘の話ばかりするわけでもなく、こうして互いの近況を話したり、食事を楽しんだりする時間もある。


「リゼルヴェートは、至冠者が集まったら何をすると思ってたの?」


「うーん……。強い人がいっぱいだから、もっとみんな緊張してるのかなって。でも、楽しそうに話してる人も多いんだね!」


「そりゃそうだよ。至冠者だからって、一日中戦ってるわけじゃないしね」


「そっか。フィレナも、ここで友達と会ったりするの?」


「うん。知り合いの至冠者もいるし、新しく話す相手もいるよ」


 そんな会話をしながら談話室を横切っていると、奥の扉の前で一人の若い職員が立ち往生しているのが見えた。両腕には大量の資料が積まれ、扉を開けようにも手が塞がっているらしい。周囲の人々もそれぞれの用事に気を取られていたため、フィレナは先に歩み寄って扉を押さえた。


「大丈夫? それ、一人で運ぶには多すぎない?」


「あっ、ありがとうございます。配布する資料が急に増えてしまって……」


「じゃあ、半分持つよ。どこへ運べばいい?」


「向こうの配布台です。ですが、至冠者の方にそんなことをお願いするわけには……」


「別にいいって。すぐそこなんだし」


 フィレナが資料を受け取ると、リゼルヴェートもすぐに残りへ手を伸ばした。二人で配布台まで運び、職員が並べ終えるまで手伝うと、何度も頭を下げられてしまう。大したことをしたつもりはなかったので、フィレナは少し照れくさくなりながら手を振った。


「リゼルヴェートもありがとう。すぐ手伝ってくれるんだね」


「だって、困ってたみたいだったから。フィレナも同じでしょ?」


「まあね。できることなら、やった方がいいかなって思うし」


「うん! 私もそう思う!」


 リゼルヴェートが嬉しそうに笑うので、フィレナまで気分がよくなった。順位だけを聞けば自分よりずっと上の相手なのに、こうして一緒に荷物を運んでいると、その差を意識する必要がない。


 彼女たちとは、これからも気軽に話せる関係になれそうだった。


 交流区画を出たあとは、至冠戦の正式申請窓口へ向かった。壁には対戦申請の手続きや会場利用の規則が掲示され、窓口の前では参加者たちが書類を確認している。


 リゼルヴェートも既に複数の至冠戦を経験しているため、フィレナは基本制度の説明を省き、この施設での申請場所と演習場への行き方を中心に案内した。


「ここが至冠戦の窓口。正式な対戦を申し込む時は、こっちで手続きするんだよ」


「うん! 前にも至冠戦の申請をしたから、そこは大丈夫だと思う!」


「そうだったね。じゃあ、次は演習場を見に行こうか。観戦施設も近くにあるよ」


「行きたい! ほかの至冠者が戦ってるところも見られるの?」


「公開されてる演習ならね。観戦できる区画も決まってるから、そこは気をつけて」


 フィレナが案内した観戦施設は、演習場を見下ろせる高い位置に設けられていた。厚い防壁の向こうには複数の訓練区画が広がり、一般兵や運営職員が設備の確認を進めている。


 まだ公開演習そのものは始まっていなかったが、観覧席の規模だけでも多くの参加者が訪れることは想像できた。


「すごいね! あの向こうまで全部演習場なの?」


「区画によるけど、かなり広いよ。強い真律を使う人もいるから、防壁や避難経路も細かく決められてるんだ」


「なるほど……。ここでも安全の確認が大事なんだね!」


「そうそう。私たちが戦う時は大丈夫でも、周りの人まで同じとは限らないから」


 リゼルヴェートの反応を見ながら、フィレナは観覧通路を進んだ。演習場では訓練器具の搬入が続いており、軍装姿の兵士たちが大きな台車を押している。


 フィレナが通りかかると、そのうちの数人が彼女の認証札へ目を留め、揃って背筋を伸ばした。


「オルディス至冠者殿。お疲れさまです」


「お疲れさま。明日の準備?」


「はい。公開合同演習に向けて、設備の確認を進めています」


「そっか。大変だろうけど、よろしくね」


 フィレナが気軽に返事をすると、兵士たちは丁寧に一礼した。彼らはよく鍛えられているように見えたが、それでも至冠者を前にすると少し緊張するらしい。


 第四十二位という順位に強いこだわりのないフィレナにとって、こうした反応は今でも少しくすぐったかった。


「フィレナ、すごく丁寧に挨拶されてるね!」


「まあ、一応至冠者だからね。第四十二位でも、普通の兵士さんたちからすれば相当強い方なんだよ」


「そっか……。上にもっと強い人がいるからって、弱いわけじゃないんだね!」


「そのとおり。私だって、それなりに戦えるつもりだからね」


 リゼルヴェートが素直に頷いたところで、演習場の奥から金属のぶつかる音が響いた。フィレナが振り返ると、大型の訓練器具を積んだ台車が通路の段差に車輪を取られ、片側へ大きく傾いている。


 兵士たちが支えようとしたものの、荷台から滑り始めた金属器具の先には、資料を抱えて通路を横切ろうとしている職員がいた。


 職員は音に気づいて振り返ったが、咄嗟に足を動かせずにいる。フィレナは周囲を確認し、職員のいる場所まで障害物のない直線経路が取れることを見て取った。考えるより先に身体が動き、足元へ淡い光の軌道を形成する。


「——『光路標定(ルクス・リネア)』!」


 光路が伸びた瞬間、フィレナは踏み込む足へ源素を集中させた。続けて『流光疾走(ルーメン・クルスス)』を発動すると、身体が形成済みの軌道に沿って一気に加速する。


 職員の腕を抱え、落下してくる器具の進路から離れた直後、背後で激しい金属音が響いた。


 安全な場所で速度を落とし、フィレナは抱えていた職員をそっと下ろした。兵士たちはすぐに台車を押さえ、落ちた器具がそれ以上動かないよう固定を始めている。


 フィレナは職員の足元を確かめ、怪我がないことを確認してから、ようやく肩の力を抜いた。


「大丈夫? どこか痛いところはない?」


「は、はい! ありがとうございます!」


「よかった。ああいう時は、無理に荷物を守ろうとしなくていいからね。まず自分が安全な場所へ逃げることを考えて」


 職員が何度も頭を下げるので、フィレナは気にしなくていいと笑った。兵士たちも謝罪に来たが、誰かを責めるより先に、器具の固定と通路の安全確認を済ませるよう頼む。


 台車の車輪にも問題がないか点検することになり、周囲はほどなく落ち着きを取り戻した。


「フィレナ! 今の、すっごく速かったね!」


 振り返ると、リゼルヴェートが目を輝かせて近づいてきた。その後ろではゼルディヴァンが先ほどの移動経路を確認し、ルシェルトが兵士たちの作業に支障がないかを気にしている。


 フィレナとしては当然のことをしただけだったが、こんなに素直に褒められると少し嬉しかった。


「ありがとう。私の真律は《流光歩》っていってね。光の道を作って、その上をすごく速く移動できるんだ」


「へえ! じゃあ、瞬間移動みたいなもの?」


「似てるけど違うよ。ちゃんと移動するための軌道が必要だし、急な曲がり角は苦手なの。今みたいに真っ直ぐ行ける場所なら得意なんだけどね」


「なるほど! それでもすごく便利そう!」


 リゼルヴェートは興味深そうに、光の軌道が消えた通路を眺めていた。ゼルディヴァンも移動の速さだけでなく、経路を事前に決める必要がある点を確かめてくる。


 技の仕組みを隠す必要はなかったため、フィレナは公開しても問題ない範囲で説明した。


「第四十二位でも、やっぱり至冠者なんだな。普通の高速移動とは加速の仕方が違う」


「まあね。上にはもっと速い人もいるだろうけど、私だって簡単には負けないよ」


「うん! 私、フィレナの戦い方も見てみたくなっちゃった!」


「それは嬉しいけど、私があなたと正面から戦ったら、たぶんすごく大変だと思うなあ」


 フィレナが笑いながら答えると、リゼルヴェートは少し残念そうに首を傾げた。自分より上位の相手だからといって最初から萎縮するつもりはないが、相手の実力を無視して無謀な勝負を挑むつもりもない。


 今日会ったばかりの少女へ、そこまでして勝負を申し込む理由はなかった。


 そんな会話を続けながら観戦通路を進んだところで、リゼルヴェートがふと質問を向けてきた。順位に対してどれほどこだわっているのかと聞かれ、フィレナは少し考える。


 上がれるなら嬉しいとは思うものの、順位を上げることだけが自分の目的ではなかった。


「上を目指したくないわけじゃないけど、無理してまでって感じかな。私、勝てない相手に喧嘩を売るほど勇者じゃないし」


「そっか。ユルディオも、勝つことより生き残る方が大事って言ってたよ」


「ああ、ユルディオね。知ってるよ。あの人は私よりずっと徹底してるけど」


 顔を合わせたことのある至冠者の名前が出て、フィレナは少し懐かしくなった。ユルディオが生存を最優先する考え方には共感できるものの、自分は面白そうな勝負なら挑戦してみたいとも思う。


 必要以上に危険を求めず、だからといって何もせずに過ごしたいわけでもない。


「私はさ、自分にできることをちゃんとやれればいいかなって思うんだ。困ってる人がいたら助けたいし、勝てそうな相手なら戦ってみてもいい。でも、順位を上げるためだけに何でもするのは、ちょっと違うかな」


「うん。そういうの、私もいいと思う!」


「ありがとう。リゼルヴェートは、もっと上へ行きたいの?」


「強い人と戦うのは好きだよ! でも、順位だけを上げたいわけじゃないかな。せっかくなら、いろんな人と話してみたいし!」


 リゼルヴェートの返事は、フィレナにとって少し意外だった。短期間で順位を上げた少女なら、さらに上位を目指しているものだと思っていたからだ。


 けれど、今までのやり取りを思い返せば、彼女が順位だけを気にしていないことは十分に伝わっていた。


 観戦施設から戻る途中、フィレナは壁に掲示された新しい告知を見つけた。明日の公開合同演習について記されたもので、参加条件や申請方法、観戦可能な区画が示されている。


 以前から気になっていた予定だったため、フィレナは足を止めて内容を確かめた。


「あっ、これ。明日の公開合同演習だ!」


「公開合同演習?」


「うん。何人かの至冠者が同じ演習区画に入って、実際に動くところを公開するんだよ。正式至冠戦じゃないから順位は変わらないけど、いろんな戦い方が見られるはず」


「えっ、それ面白そう!」


 予想どおりの反応に、フィレナは嬉しくなって告知を指差した。公開演習では事前に内容を申請し、運営側の安全確認を受ける必要があるらしい。


 参加者同士の実力差にも配慮した形式になるようで、自由な決闘とは違った楽しみ方ができそうだった。


「ねえ、リゼルヴェートも参加してみない? せっかく来たんだし、いろんな至冠者の技を間近で見られるよ」


「参加していいの!?」


「申請が通ればね。もちろん、内容は事前に確認する必要があるけど」


「私、やってみたい!」


 リゼルヴェートはすぐにイェルシェリナたちへ顔を向けた。フィレナはその様子を見ながら、やはりこの少女は仲間と相談することを当たり前にしているのだと感じる。


 実力だけなら単独で動ける場面も多いはずなのに、周囲の意見を聞く姿勢が自然だった。


「イェルシェリナ、私、これに参加してみたい!」


「興味があるのは分かったわ。ただ、正式な参加条件と演習内容は確認しておきましょう。何をするのか分からないまま申し込むわけにはいかないもの」


「うん! ちゃんと確認する!」


「ゼルディヴァン、公開資料から分かることはある?」


「掲示内容なら確認できる。演習形式と参加資格、それから安全管理の条件も公開されているみたいだな」


 イェルシェリナとゼルディヴァンが告知を読み始めると、ルシェルトも演習場への移動経路や必要な準備を確認し始めた。三人がそれぞれの役割を自然に分担する様子は、先ほど案内している間にも何度か見ている。


 フィレナは彼らの連携を眺めながら、この派閥が単に強い至冠者を抱えているだけではないのだと理解し始めた。


 やがて公開されている条件の確認を終えたイェルシェリナが、リゼルヴェートへ改めて参加意思を尋ねた。演習は正式な順位戦ではなく、運営が内容を管理する形式であることも確かめられたらしい。


 リゼルヴェートは説明を最後まで聞いてから、迷いのない声で参加したいと答えた。


「それなら、参加する方向で正式な申請を進めましょう。運営側の確認が必要な事項もあるから、そこは私が確認してくるわ」


「やった! フィレナ、教えてくれてありがとう!」


「どういたしまして。私も明日は見に行くつもりだったから、楽しみが増えたよ!」


 リゼルヴェートが満面の笑顔を向けてくれたため、フィレナも自然と笑みを返した。申請の窓口についてはイェルシェリナが確認し、ゼルディヴァンとルシェルトもそれぞれ必要な準備を進めるという。


 フィレナ自身も明日の予定を改めて確かめておこうと思いながら、告知の内容をもう一度眺めた。


 案内を終える頃には、五人も施設の主要な通路をある程度覚えたようだった。リゼルヴェートは別れ際まで何度も礼を言い、また会えたら一緒に話したいと笑ってくれた。


 フィレナも気軽に手を振りながら、今度は交流区画でゆっくりお茶でも飲みたいものだと思った。


 世界中から集まった至冠者たちは、順位も戦歴も考え方もそれぞれ違う。第四十二位はこの場所では下位でも、決して弱者という意味ではなく、そのことは一般兵たちの態度や、先ほどの小さな救助だけでも十分に伝わったはずだった。


 数字だけでは見えない至冠者の幅を、リゼルヴェートたちは到着した初日から確かに見始めているのだと、フィレナは思った。





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