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第13話「王命の救済と、誇り高き農政官の誕生」

 セドリック、ミリアム、そしてヴァルハイト伯爵の三人が衛兵に引きずり出されていった後、太陽の大広間には、興奮と感動の余韻が満ちていた。

 玉座から立ち上がった国王陛下は、厳かでありながらも深い感謝を込めた眼差しで、私とアシェル様を見下ろした。


「フィーネ・ヴァルハイト、ならびにアシェル・フォン・グレンツ辺境伯よ。前へ進み出よ」


 私たちは並んで玉座の前へと進み出て、赤い絨毯の上に恭しく膝をついた。


「フィーネよ。そなたは不当な婚約破棄と実家からの勘当という逆境にありながら、少しも心を腐らせることなく、その類稀《たぐいまれ》なる『土壌対話』の才と科学的な農政知識をもって、数百年間不毛の地とされてきたグレンツ辺境伯領をわずか半年で黄金の穀倉地帯へと変貌させた。さらに本日、我が王都を未曾有の飢饉から救う食料を惜しみなく供給してくれた功績は、一軍を率いて国を救った英雄にも勝るとも劣らぬものである!」


 国王陛下の朗々とした言葉に、広間中の諸侯が一斉に深く頷いた。かつて私を「泥まみれの令嬢」と陰で笑っていた貴族たちも、今は誰一人として顔を上げることができない。


「よって余は本日、そなたに王国史上初となる最高名誉職――『王国筆頭・農政大導師《グランド・アグリカルチャー・マイスター》』の称号と、公爵家に準ずる特権、ならびに褒賞として王室金庫より金貨一万枚を授ける! そしてグレンツ辺境伯領に対しては、今後十年間、王国への上納税を全額免除することをここに布告する!」


「はっ! 陛下の御心のままに。謹んでお受けいたします」


 会場が割れんばかりの祝福の拍手に包まれた。女性の身で、しかも家督を持たない者が王国の『大導師』の称号を授かるのは、建国以来初めての快挙だった。


 すると、国王陛下は少し表情を和らげ、相談するような口調で私に尋ねられた。


「ところでフィーネ大導師よ。一つ、余から折り入って頼みがある。今回、オルコット家とヴァルハイト家から没収し、王室直轄領となったあの広大な農地のことだ。……セドリックとミリアムの愚行によって塩害と連作障害に冒されたあの大地と、そこで途方に暮れている何千人もの罪なき農民たちを、そなたの知恵で救う手立てはないだろうか? もちろん、そなたを王都に縛り付けるつもりはない。隣にいるグレンツ辺境伯が、先ほどから『妻を奪うな』と言わんばかりの怖い顔で余を睨んでおるからな」


 国王陛下の茶目っ気のある冗談に、アシェル様が「め、滅相もございません」と珍しく狼狽して咳払いをし、会場に温かな笑いが起きた。

 私は微笑みながら顔を上げ、はっきりとした声で答えた。


「陛下、ご安心くださいませ。大地の傷は深うございますが、正しい手順を踏めば、必ず三年で元の豊かな畑以上に蘇らせることができます。実は、こうなることを予測して、すでに『塩害および連作障害土壌の再生手順書』を三冊の教本にまとめてまいりました!」


 私は懐から、新しく書き上げた羊皮紙の冊子を取り出して宰相閣下へと手渡した。


「まず、この冬から来春にかけて、畑に深い明渠《めいきょ》と暗渠を掘った上で大量の川の水を引き込み、土の表面と内部に溜まった余分な塩分を洗い流す『除塩《じょえん》灌漑』を行います。その後、塩分に強い『六条大麦』や『甜菜《てんさい》』、そして土の中の有害な線虫を退治する成分を根から出す『マリーゴールド(万寿菊)』や『エンバク(燕麦)』といった対抗植物・緑肥作物を一年間じっくりと育ててそのまま土に鋤き込みます。そこへ家畜の完熟堆肥を投入すれば、死滅した微生物やミミズたちが再び戻ってまいります!」


 さらに私は、もう一つの大切な提案を付け加えた。


「また、セドリック様たちに嫌気がさして旧オルコット領から逃げ出していた熟練の農夫たちの多くは、現在私が保護し、グレンツ領で新しい輪作農法を学んでもらっております。彼らを『王室農地の再生指導員』として現地へ派遣し、正しい土作りを農民たちに直接教えさせる仕組みを整えましょう」


 宰相閣下は手順書に目を通し、手が震えるほどの感動を露わにした。


「なんという緻密で完璧な処方箋だ……! 絵空事の魔術ではなく、誰が読んでも実行できるように、水量の計算から植える草の種類、さらには人材の育成まで全て具体的に設計されているぞ! 陛下、これがあれば旧オルコット領の農民たちも希望を持って畑を耕し直すことができます!」


「うむ、見事だ! この手順書の指導料および種子の提供料として、旧オルコット侯爵家が所有していた王都の一等地の商業館と、追加の金貨五千枚をグレンツ辺境伯領へ譲渡しよう! その商業館で、グレンツ領の『琥珀小麦』や『氷蜜リンゴ』を王都の民にも広く売ってくれ!」


 こうして、私たちは王都の食料危機を救った救世主として最大の栄誉と莫大な資金、そして王都での直販拠点となる大商業館までをも手に入れたのである。


 査問会の閉会後、王城の庭園で開かれた祝賀会では、かつて私を見下していた貴族や大商人たちが、「ぜひ我が領地にも『氷蜜リンゴ』と『琥珀小麦』を分けていただきたい!」「フィーネ大導師様、我が領地の土も一度診断していただけませんか!」と長蛇の列を作った。


 しかし、あまりにも多くの貴族たちが私を取り囲もうとした時、アシェル様がスッと私の前に立ちはだかり、私の腰をしっかりと引き寄せて抱きしめた。


「諸卿ら、申し訳ないが、俺の婚約者は長旅と本日の査問会で疲れている。これ以上の農政相談や取引の申し込みは、後日グレンツ領の商業館へ書面で提出してくれ。――これより先の彼女の時間は、俺だけのものだ」


 氷狼の辺境伯の独占欲丸出しの宣言に、貴族たちは「は、ははっ! お邪魔いたしました!」「お二人とも、どうぞ末永くお幸せに!」と慌てて道を空けた。

 私は顔を赤らめながらも、アシェル様の頼もしい腕に守られて王城の静かなバルコニーへと出た。


 夕暮れの王都の街並みを見下ろしながら、私は深く息を吸い込んだ。

 半年前、涙をこらえながら去ったこの街で、私は自分の誇りと人生のすべてを、最高のかたちで取り戻したのだ。


「アシェル様。もう王都にやり残したことは何一つありません。帰りましょう、私たちのグレンツ領へ! 今頃、マルクスさんたちが最後の『琥珀小麦』の刈り取りを待っているはずですわ!」


「ああ、帰ろうフィーネ。君と俺の、黄金の故郷へ」


 アシェル様の優しい微笑みに頷き、私たちは翌朝、黄金色の朝日に照らされながら、愛しい北の大地へと凱旋の途についたのだった。

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