第12話「黄金のパンと灰色の土〜圧倒的なカタルシス〜」
オルコット侯爵家とヴァルハイト伯爵家の醜い言いがかりが論破され、広間が騒然となる中、アシェル様が凛とした声で国王陛下に奏上した。
「陛下。本日の議題は、単なる罪人の追及だけではなく、王都が直面している食料危機をいかに乗り切るかという『緊急収穫品評会』でもあったはずです。つきましては、これまで『死の灰土』と呼ばれ、毎年王都から食料を買っていた我がグレンツ辺境伯領が、フィーネの指導のもとで今年収穫した農作物を、ぜひ陛下と諸侯の皆様にご賞味いただきたいのです」
「ほう……! あの極寒のグレンツ領で採れた作物とな? よし、これへ運べ!」
国王陛下の許しが出ると、扉が開き、グレンツ城の料理長ハンナさんと給仕たちが、黄金色の布がかけられた何台ものワゴンを押して入場してきた。
布が取り払われた瞬間――広間中に、芳醇で甘い香りと、焼きたての小麦の香ばしい匂いが一気に広がった。
ワゴンに並んでいたのは、まず、表面がパリッと黄金色に輝き、中が驚くほどきめ細かくふっくらと膨らんだ『琥珀小麦の芳醇白パン』。
その隣には、茹で上げた断面がバターのように黄色く輝く『黄金ジャガイモのポタージュとロースト』。
さらに、断面から琥珀色の蜜が滴る『氷蜜リンゴ』と、ルビー色のジャム、そして晩秋のこの時期にはあり得ないはずの、真っ赤に熟れた温室育ちの『甘露トマト』と『黄金メロン』が、宝石箱のように美しく盛り付けられていた。
「な、なんだこの香りは……!? これが本当に、あの北の凍土で採れた作物なのか!?」
国王陛下が目を丸くしながら、まず『琥珀小麦のパン』に『氷蜜リンゴのジャム』を添えて一口召し上がった。
その瞬間、謹厳実直で知られる国王陛下の顔が、信じられないものを見たかのように大きく綻んだ。
「う、美味い……!! なんという小麦の力強い甘みと香りだ! 噛めば噛むほどモチモチとした弾力があり、これまで王室がオルコット領から買い上げていた特等小麦よりも、遥かに味が濃くて芳醇ではないか! それにこのリンゴとジャムの気品ある甘さはどうだ……まるで天上の果実を食べているかのようだぞ!」
宰相や他の貴族たちも次々と試食し、「信じられん美味さだ!」「この黄金ジャガイモ、塩だけで極上の菓子のように甘いぞ!」と、広間中が絶賛の嵐に包まれた。
「陛下、ご報告いたします」
私は前に進み出て、グレンツ領の今年の収穫統計書を掲げた。
「我がグレンツ辺境伯領は今年、土壌の酸度矯正、暗渠排水、緑肥を用いた輪作体系、そして耐寒品種『琥珀小麦』の育成により、前年の『五倍』の穀物および根菜の収穫を達成いたしました。領内の三年分の備蓄を完全に確保した上でなお、現在王都で不足している小麦とジャガイモの『全量』を、本日より即座に王都の市場へ適正価格で供給する準備が整っております!」
「おおおっ!! グレンツ領一国で、王都の食料不足をすべて補えるというのか!?」
国王陛下が立ち上がって歓喜の声を上げ、会場中の貴族たちから割れんばかりの大拍手が巻き起こった。
その惜しみない称賛の嵐の中で、顔面蒼白となって震えていたのが、セドリック、ミリアム、そしてヴァルハイト伯爵の三人だった。
参考比較として彼らの目の前に置かれていたオルコット領の出品物は、親指ほどに萎びて黒ずんだ麦の穂と、ミリアムが今朝無理やり魔力で膨らませたものの、中身がスポンジのようにスカスカで異臭を放つ奇妙な赤い果実だけだった。
「う、嘘だ……。俺が捨てた泥人形が、たった半年で辺境を王国一の穀倉地帯に変えただと……!? ふ、フィーネ! 頼む、俺が悪かった! ミリアムとの婚約など今すぐ破棄するから、もう一度俺の元へ戻ってオルコット領を救ってくれ!」
セドリックが体面も忘れて床に這いつくばり、私のドレスの裾にすがりつこうとした。
「なっ、セドリック様!? 私を捨てるなんて酷いわ! 私だって被害者なのよ、お姉様、妹の私を見捨てないで!」
「フィーネや! お前は私の自慢の娘だ、どうか実家の借金と畑を助けておくれ!」
見苦しく泣き叫ぶ三人を見下ろし、私は氷のように冷たく、しかし澄み切った声で告げた。
「セドリック様、ミリアム、そしてヴァルハイト伯爵。あなた方が捨てたのは、私という人間だけではありません。『大地への敬意』と『地道に汗を流す農夫たちの誇り』そのものを踏みにじったのです。土は、自分を愛し、誠実に手入れをする人間を決して裏切りませんが、見栄と欲で略奪する人間には必ず報いを与えます。――どうぞ、ご自分たちが蒔いた種を、ご自分たちの手で刈り取ってくださいませ」
その瞬間、国王陛下の怒りに満ちた槌音が広間に響き渡った。
「そこまでだ! これより、王国の食料安全保障を脅かし、功労者を不当に迫害・誣告した罪人どもに裁きを下す!」
国王陛下の峻烈な声が、静まり返った広間に轟いた。
「第一に、セドリック・オルコット! 貴様は長年にわたり領地を支えたフィーネ嬢の功績を横領して王室に虚偽の報告を行い、さらに無謀な連作と魔薬の乱用で王国の穀倉地帯を砂漠化させ、王都を飢饉の危機に陥れた! よってオルコット侯爵家は、当主の監督責任も含めて爵位を剥奪し、領地は本日をもって王室がすべて没収する。セドリックは廃嫡の上、北方の王立鉱山および開拓地にて『二十年間の強制労働』に処す! 自らツルハシを握り、泥にまみれて働く苦しみを骨の髄まで味わうがいい!」
「に、二十年の鉱山労働……!? い、嫌だぁぁっ!!」
「第二に、ミリアム・ヴァルハイトおよびヴァルハイト伯爵! 虚偽の証言で査問会を欺き、略奪的な魔術で二つの領地の土壌を破壊した罪により、ヴァルハイト伯爵家は爵位剥奪・全財産没収の上、お取り潰しとする! ミリアムは魔力封じの腕輪をはめた上で、辺境の厳しい救貧修道院にて生涯、畑の石拾いと奉仕活動に従事せよ!」
「いやあああっ!! 私の美しい手が石拾いで荒れてしまうわ! 助けてお姉様ぁぁっ!!」
衛兵たちに両脇を抱えられ、絶叫しながら引きずり出されていく三人に、同情の目を向ける者は誰一人としていなかった。
半年前の夜会で私を嘲笑った貴族たちも、今はただ深々と頭を垂れ、私とアシェル様に畏敬の眼差しを向けるばかりだった。
長年の苦労が報われ、すべての不当な扱いが雪がれた瞬間。
私の隣で、アシェル様がそっと私の手を握り、「よく戦ったな、俺の誇り高き聖女よ」と優しく微笑みかけてくれたのだった。




