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сокровище (ソクロヴィーシェ)

日曜日、7月の北海道は快晴で湿度も低く、自転車で出かけるには最高の天気となっていた。部員は全員自転車で現地に行った。

一度来ているせいか、ゆりも弱音を吐かずにスムーズにストーンサークルにたどり着いた。

澪がてきぱきと水槽の材料を並べ、みんなに言った。

「さあ。水槽を組み立てよう!」

水槽の組み立ては、事前に何度もシミュレーションしていたおかげで、順調に組み上がった。

連「ここからが大変なんだよな・・・」

エカテリーナ「連、頼んだわよ。」

ストーンサークル近くには、小川が流れていることは、前回来たときに確認していたので、その小川から水を汲んでは、各自水槽に入れた。

しかし、水槽は強度が少し不足していたのか、途中で水が漏れてきた。

澪「あ・・・これ以上水を入れたらやばいかも。」

エカテリーナ「どうする?あともう少しなんだけど・・・」

煌「いいこと思いついた!連、和馬、服を脱げ!」

「なんでやねん!」連と和馬が叫ぶ。

煌「漫才じゃなくて、マジで。」

連「だからなんで?」

煌「連と和馬が水槽に入れば丁度いいんじゃないか?」

澪「ああ、そうね。その手があったわね。」

連と和馬は顔を見合わせた。

和馬「つまり、服を脱いでこの水槽に入る訳?」

煌「さっきからそう言ってるでしょう。」

連「パンツは勘弁して」

そして連と和馬はパンツだけになり、水槽に入った。

澪「これで480kgになるよう、水を抜けば大丈夫だわ。」

澪とエカテリーナ、煌はバケツで水を掻き出す。

ゆりは「私は美しい物以外は見たくないの」と言って、顔を背けている。

そして、澪がバケツで水を救った瞬間480kgとなったせいか、中央の穴から何かが噴出した。

エカテリーナ達が「きゃー」と叫んで逃げ出す。

連と和馬は水槽の中で逃げることができず、お互い抱き合った。

よく見ると、噴出していたのは蒸気を伴った水、つまりお湯だった。

そのお湯はあっという間に、直径2mの穴を満たしていく。

和馬は何かに気づいた。「この硫黄の匂い・・・もしかして、温泉?」

和馬の推測のとおり、噴出したのは含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・・・つまり温泉成分の含まれたお湯だった。

エカテリーナ「えっ?このお湯って・・・温泉?」

澪「まさか、財宝って大判小判でもなく・・・」

和馬「砂金でもない」

連「温泉が財宝?」

エカテリーナ「そうか・・・古地図に書かれてあったсокровище (ソクロヴィーシェ)は文化的な財産という意味もあるわ。確かに温泉は文化的な財産と言えるわね。」

澪はすぐに詩織に「最後の石のトラップを解除できたけど、出てきたのは温泉だけ。こんなことってある?」とラインした。

ラインを受け取った詩織は少し考えて納得したようにつぶやいた。「義経は兄頼朝から逃れるとき、重傷を負ったと史実に残っているわ。そして北海道の義経伝説は函館をはじめとして、温泉地に多く残っている・・・義経は、頼朝の追ってから逃れながら傷を癒やす温泉地を経由して北上したのかも・・・」

和馬が誰ともなしに「神居古潭に温泉なんてあった?」と聞いた。

澪が詩織にラインで聞いてみた。

詩織からのラインは「神居古潭にはないけど、すぐ近くの深川市にオキリカ温泉があったわ。今はもうないけど。そして、その近くには深川温泉ホテルという建物があったの。神居古潭ストーンサークルからそんなに離れていないわね。」

そうしている間にも、穴にはみるみるお湯がたまり、数人が入れる露天風呂になっていた。

エカテリーナ「義経は金を埋めたのではなく、癒しを埋めたのね。文化の奥に・・・」

一部始終についてラインで報告を受けていた詩織が部室でつぶやいた。

「語らなくても届くもの。それが文化なら、温泉ってその最たるものかも」

連は「7月とはいえ、水風呂に入ったら風邪をひきそうなくらい寒い!その温泉に入っていいか?」とエカテリーナに聞いた。

和馬も「俺ももう限界だ。」と叫んだ。

煌「おまえらが出ると温泉が出なくなるだろが!我慢しろ。」

連「じゃ、先に女子から入れよ。」

女子は顔を見合わせた。

澪「この温泉に入るってことは・・・」

エカテリーナ「全裸になるってこと?」

煌「でも、湯加減もちょうどいいし、散々バケツ運んで汗だらけだし、入りたいよな。」

みんな顔を見合わせてうなづいた。

エカテリーナとゆりは持ってきたタオルで連と和馬に目隠しをした。

連「ちょっと!何するの」

エカテリーナ「いいというまで目隠し外さないでね。」

そして三人は全裸になり、温泉に入った。

新緑の季節、天気は快晴、まだ虫も少なく、最高の露天風呂日和だった。

エカテリーナ「最高!」

澪「癒やされる!受験勉強のストレスがお湯に溶けていくようだわ。」

煌「大自然の中で100%の温泉に入るなんて、こんな贅沢ない!ビールが飲みたくなる!」

連は目隠しされながらも「おっさんかよ」とつっこみを入れた。

エカテリーナ「これって黄金よりも価値があるかも。」

煌「まさにゴールドエクスペリエンスだ。」

エカテリーナ「あっジョジョ?」

煌「プリンスだよ!」

ゆり「温泉って体にいいよね。人間、健康が一番だわ。」

連「うちの女子部員、おっさん化していないか?・・・しかし、和馬、温泉気持ちよさそうだな」

和馬「寒い・・・サウナに入っていないのに水風呂って何の罰ゲーム?」

やがて、女子たちが風呂からあがった。

エカテリーナが「次は水風呂に入ろう!」とニコニコしながら言う。

澪「そうだね。」

ゆり「さ、連も和馬も上がって。代わりに私たちが入るから。」

連「俺たち、風呂に入っていい?あと、目隠しもとっていいかな」

煌「いいけどこっち見るなよ。みんな全裸だからな。」

連と和馬は戸惑いながら「は・・はい。」と答えた。

そして、連と和馬は決して後ろを振り向かないよう細心の注意を払い、風呂に入った。

和馬「あったかい!体に染み渡る。」

連「水風呂から温泉もいいものだな」

水槽は2人しか入ることができなく、まずエカテリーナと澪が入った。

エカテリーナ「まだこの季節では、水風呂は冷たいね。」

澪「うん、長くは入れない。」

そう言って、早々と上がる二人だった。

二人が水槽から出ると、温泉のお湯がみるみるうちに引いていった。

連「あれ?お湯の量が減っていない?」

和馬「減っているよ!胸の辺りがスースーする。」

二人はタオルで目隠しされていたが、敏感に湯量が減っていくのを感じ取っていた。

連が「おーい!水槽に誰か入っていないと、お湯が抜けていくよ。誰か入ってよ!」と悲壮な叫び声を上げた。

ゆり「あ、本当だ。」

煌「可愛そうだから、入ってやろうぜ。」

そう言ってゆりと煌は水槽に入ると、風呂の中央の穴から大量の湯が沸き出して、湯量が戻った。ゆりと煌はしばらく水槽に入っていたが、やはり水は冷たく、もう出ることにした。

煌「おーい、水風呂から上がるからな。温泉のお湯が引くぞー。」

連「えっもうあがるの?」

ゆり、煌が水槽から上がると、穴からの温泉が止まった。

そしてお湯は周りの土に吸い込まれていく。

穴の中にタオルで目隠しされた全裸の連と和馬が残された。

連と和馬が同時に「おい!」と叫んだ。

ゆりが「仕方ないわね」と言って、連と和馬にタオルを投げ渡した。

連と和馬は、目隠ししたまま汗を拭きとった。

女子全員が服を着た後、やっと連と和馬の目隠しは取ることが許され、連と和馬は服を着ることができた。

連「なんだか俺たち男子部員、冷遇されていないか?」

和馬「仕方ないよ。女子部員の方が多いし。来年は後輩の男子部員を増やしてやる!」

連「ああ、がんばろうぜ。」

連と和馬の間には妙な連帯感が生まれていた。

そして水槽の水を抜いて、水槽を解体して、神居古潭石も最初にあったように位置をずらして、トラップをすべて解除した。露天風呂は完全に姿を消し、ストーンサークルは元の姿に戻っていた。

エカテリーナ「これで、よし。この財宝は私たちだけの秘密にしておきましょう。」

連「うっかり話題になると、ストーンサークルそのものが荒らされそうだしな。」

煌は「財宝って結局温泉だったのか?金目のものはなかったのか?」と少し残念そうに言う。

エカテリーナ「最高の財宝じゃない。人間にとっては、永遠に価値が変わることのないものだわ。」

澪「多分、これまでの長い歴史の中で、この財宝に気づいた人がいたんじゃないかな。」

和馬「そうだね。僕たちでもたどり着けたし。」

連「気づいた人は、なぜ公にしなかったのかな。」

澪「これでビジネスができると思ったんじゃない?温泉から近いところで、交通の便が良い土地をこっそり買い占めて、それから掘削して温泉を出す。買う前に公になっていたら温泉が出るということで、土地の値段も上がるから、あくまでも偶然を装っていたのかも。で、結局事業は失敗、温泉ホテルはつぶれる。事業者はこの土地から撤退したのかも。あくまでも推測だけどね。」

エカテリーナ「もしそれが事実だとしたら、この温泉が公にはならなかった理由も理解できるわね。」

和馬「まさか、円の文様の神居古潭石を盗んだ人って・・・温泉が公にならないように、意図的にそのホテルを倒産させようとしたとか・・・?」

澪「石を盗むことで、温泉の供給が絶たれるなら、ありえない話ではないわね。」

和馬「そのホテルの立っていた場所って、なにか重要な場所だったとか?」

連「例えば、そこが神聖な場所であったけど、和人に奪われ、そこを取り返すために石を盗んで温泉の供給を絶ったとか?」

エカテリーナ「まあまあ、みんな想像力が豊かね。暗くなる前に家に着きたいし、もう帰るわよ。」

煌「そうだぜ。腹も減ったし、早く帰って飯食って、家の風呂に入り直して寝よう。」エカテリーナ「さっきの露天風呂って、土がかなり混ざっていて、気持ちよかったけど体はきれいにならなかったし。あの泉質できれいに整備された温泉、そのオキリカ温泉とか深川温泉ホテルの温泉に入ってみたかったな。」

和馬「オキリカ温泉の山を越えた裏側って確か芦別市で、そこには芦別カナディアンスター温泉ホテルがあるよ。」

エカテリーナ「それが・・・何?」

和馬「そのホテルの温泉は、オキリカ温泉の源泉と同じらしい。」

連「源泉って、お湯が出るところ?それが同じと言うことは・・・」

和馬「芦別のそのホテルの温泉と、オキリカ温泉は同じと思って間違いない。」

エカテリーナの白い肌が見る見る赤くなりテンションが高まっていくのが見て取れた。そしてエカテリーナが叫んだ。「合宿よ!アイヌ文化研究会の初合宿は芦別カナディアンスター温泉ホテルで決定!」

一同叫んだ。「合宿ー?」

みんなの声が神居古潭の夕暮れの空に響き渡った。

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