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神居古潭石を探せ

翌日放課後、部室に戻り詩織も交えて「円の文様が刻まれているはずの石」を探す計画を練った。

詩織「澪の言うとおり、円の文様の石があるはずね。旭川市内にあればいいけど・・・」

澪「とりあえず、思い当たる場所から探してみようかと。それで見つからなければ、また考えてみるわ。」

部員たちは、まずネットで神居古潭石を探した。しかし、見つけても大きすぎたり、小さすぎたりと、なかなか候補になりそうな石も見つからなかった。

エカテリーナ「やっぱり無理か・・・」

連「まあ、俺たちに見つかるようでは、もうすでに誰か見つけていたかもね。」

煌「おい、連と一緒にすんな。」

澪「やっぱり難しいな・・・」

詩織「この石を探す活動は、ちょっとお休みしようか。」

エカテリーナ「そうね・・・。私、来週の日曜日は、旭川駅裏のイベントでアイヌ古式舞踊を踊るから、その練習もしなきゃならないの。」

連「ああ、リバーサイドフェスだろ。うちの母さんが講師をしているサークルで出るんだよな。」

エカテリーナ「そう、それよ。」

連「俺も母さんに手伝いを頼まれているんだよな。」

澪「なにそれ。楽しそうね。」

煌「祭だよ。祭。確か地元アマチュアバンドのライブもあるんだよな。私も行こうと思っていたんだ。」

和馬「へえ・・・楽しそうだね。」

詩織「お祭りっていいよね。」

連「なんだよ。みんな行きたい?」

エカテリーナ「アイヌ古式舞踊を見ることが出来るし、アイヌ文化研究会にも関わりあるから、その日は部活動にする?部活動の記録は多い方がいいし。」

そうして、7月の第2日曜日、旭川駅の裏にある広場で行われるリバーサイドフェスに部員全員が集まることとなった。

旭川駅の裏は忠別川が流れており、その横はサイクリングやランニングが出来る整備された道がある。そこから駅の裏までは、広場となっており、季節の花がたくさん咲いているガーデンとなっている。ベンチが多数設置されており、駅直結の大型ショッピングセンター「スーパーウェスタン駅前店」で買った弁当などを食べたり、休憩したりするには最適の場所だった。

そこでは国土交通省の補助により、旭川市が毎年フェスを主催していた。

フェス当日は、キッチンカーが多数集まり、様々なフードやドリンクが楽しめ、ステージでは旭川市ご当地アイドルや、地元ダンスグループ、アマチュアバンドなどが出演していた。

エカテリーナの所属するアイヌ文化普及サークルも出場することとなっていた。

今回は詩織も参加し、車椅子に乗りながら古式舞踊を踊ることとなった。

詩織の車椅子に乗ったまま踊る古式舞踊は、その後様々な角度から検討を重ねた。

ギリヤーク尼崎という舞踊家が踊る姿を見て、詩織は踊りとは祈りであると感じた。

その舞踊家は、パーキンソン病を患っており、車椅子のまま踊っていた。

詩織はそれを見て、体はあくまでも表現の道具、踊りの本質は魂で祈ること、それはアイヌのユーカラに通じるものと悟った。

それから詩織は、より熱心に車椅子での古式舞踊の練習に励んだ。今日は、その踊りを披露する場である。詩織は心地よい緊張感に浸っていた。

その頃、連は忙しそうに、荷物を運んだりしていた。

澪、和馬、煌はエカテリーナ達の出番を待っていた。

そして、エカテリーナと詩織が古式舞踊を舞った。

それは銀の滴祭で踊ったものよりも、洗練された動きで、美しさ、優雅さが数段レベルアップしていた。

観客も、その踊りに見入っていた。

たくさんの拍手に送られながら、エカテリーナは詩織の車椅子を押しながら、舞台を後にした。

アイヌの衣装から普段着に戻り、エカテリーナ、詩織が戻ってきた。

しばらくして連も来た。

澪「エカテリーナ、詩織、すごくきれいだったよ。今度は私も踊りたい。」

エカテリーナ「いいね。今度は一緒に踊ろう。」

煌「私はアイヌ文化研究会バンドでライブに出たいな。私がトンコリ、澪がベース、連がドラムでね。ところで連、あんたどこにいたんだよ。」

連「俺は裏方だから、表には出ないんだよ。」

煌「今度はバンドで出るから連も出るんだよ。」

連「えー・・・なんか恥ずかしい。」

煌「今更何言ってんの。」

みんなの会話が弾んでいるところに、アイヌ研究会顧問の田中さんがやってきた。

田中「エカテリーナ、詩織ちゃん、お疲れ様。みんなも来たのね。ほら、これ飲んで。」と言って、みんなにスーパーウェスタン駅前のテナントで買った、評判のレモネードを渡した。

みんな喜んで受け取り、ベンチに座り飲み始めた。

エカテリーナ「川からの風が気持ちいい。」

詩織「こんないいところがあったのね。日曜は一人で家に閉じこもっていたけど、外に出なければダメね。」

和馬「土日は、いつもじいちゃんと山の中だけど、たまに街中もいいね。」

連「街中と言っても、川もあるし、ガーデンもあるし、ほら、あそこには大きい岩もゴロゴロしているし、結構自然を満喫できるぜ。」

そう言って連は指を指した。

その瞬間、和馬がレモネードを吹き出した。

連「どうした?和馬?なんか俺、面白いこと言ったっけ?ツボった?」

和馬がむせながら指を指す。

澪が和馬の指を指す方向を見てはっと驚いた。

澪「どうして・・・?」

エカテリーナ「なになに?何があったの?」

澪は叫んだ。「どうしてここに神居古潭石があるのよ!?」

旭川駅裏の広場には、旭川の誇る銘石、神居古潭石が6個、社会奉仕団体から寄贈され、展示されていた。

その中のいくつかは、渦と直線の文様が刻まれた石と同じように黒光りし、サイズも同じくらいだった。

エカテリーナは「まさか・・・あの石の中に探していた円の石があるかも?」

連「俺、確認してみるよ。」

連が駆け出すと、皆その後に付いていった。

田中さん「ちょっと、何かあったの?」と驚いて、皆の後をついて行った。

みんながそれぞれ一つずつ確認した。

澪が叫んだ。「あった。円の文様が!」

その石は最も黒光りしていた。底の形がくぼみの形状と同じように見えた。

エカテリーナ「まさか、こんな目立つところにあるなんて・・・」

田中さんが「この石がどうしたの?」

エカテリーナはこれまでの経緯を説明し、石を探していて、探していた石がこれだったことを伝えた。

田中さんは「偶然とは言え、よく見つかったわね。」とあきれ顔で言った。

和馬が「なぜ、こんなところにあるんだろう。」と疑問を投げかけた。

その日は、フェスの終了時間も近づき、エカテリーナ、連、詩織はサークルと一緒に帰るため、夕方で解散となった。

翌日の月曜日、部活で全員が集合した。みんな、財宝発見まで大きく前進したことから、興奮していた。

エカテリーナが、田中さんが調べてくれた石に関することをみんなに伝えた。

「あの石は、駅裏広場が出来たときに、社会奉仕団体が寄付してくれたんだって。その社会奉仕団体が言うには、円の文様の石は長年、この忠別川の川辺にあったもので、神居古潭石の研究者が大変貴重な石だというので、ここに移設したとのことよ。」

和馬「ということは、誰かがストーンサークルから持ち出して、この川辺に捨てたのか?」

エカテリーナ「過去には神居古潭石ブームがあったことが記録にあるわ。その頃、ストーンサークルから盗み出されて、売られたけど買った人も盗品だとわかって、処分に困って、川岸に捨てたかもしれない・・・?」

澪「今となっては、確かめようがないけど・・・そんなことよりも、あの石の重量を調べないと。あと、石底の形も正確にトレースする必要があるわね。」

連「なぜ?」

澪「あの石を持ち出せるなら、必要はないけど、持ち出せないでしょ。そもそも重いから小型クレーンで運んで、トラックでストーンサークルまで運んで、また小型クレーンで設置するなんて、私たちで出来ることじゃないわ。」

和馬「業者に頼むと、かなりの費用がかかるだろうし、そもそもあそこに財宝があることは秘密にしておきたいな。」

澪はうなずきながら、「そうよ。そのために、あのくぼみにあの石と同じ重量の変わりの物を置くの。」

連「石底の形はなぜ取るの?」

澪「あのくぼみになるべく均等に重量をかけるためよ。私のイメージでは、石底と同じような型枠を作って、水槽のようなものを作る。そして、そこに水を入れるの。水なら川が近くだから、みんなでバケツで運べば、わざわざ部室からストーンサークルまで重いものを運ばなくてもいい。」

エカテリーナ「そうよね。あの石、かなり重そう。」

澪「少なくとも480kgはあるわ。あの石、縦横が50㎝×100㎝くらいだったから面積は0.5平方メートルよ。高さが40㎝くらいだったので0.5×0.4=0.20立方メートルになる。そして、形は丸い部分や角が取れていたから、その部分の減った容積は0.20立方メートルの20%の0.04立方メートルとする。0.20立方メートルからその分を引いたら0.16立方メートルになるわよね。」

連は目がうつろになっていた。煌は寝ていた。

澪「この0.16立方メートルが石の容積になるから、これに石の比重を掛るのよ。」

和馬「石の比重って何?」

澪「石の比重とは水に対してどの程度重いかということ。大抵の石は水より重くて、神居古潭石の比重は、花崗岩や安山岩と同程度とされているから、一番重い比重の3.0で計算してみると、0.16×3.0で0.48となるよね。つまり0.48が石の重さと想定できるのよ。単位はtになるから0.48t、つまり最大で480㎏が石の重さになると考えられるわ。」

エカテリーナ「480kgをストーンサークルまで運べないわね。川の水を汲むしかないか・・・」

連「で、バケツで何回汲むの?」

澪「あんまり重いバケツは私たち持てないから・・・5リットルのバケツで96回。5人で割ると一人当たり19,2回かな。」

煌「端数が出るなら、連だけ20回な。」

連「ええー」

煌「連だけ10リットルバケツにしてやれば?そうしたら連は10回で済むぞ。」

連「10リットルって、5kgの米袋2つかよ。無理っぽい。」

澪「100均で買える100円の折りたたみバケツは5リットルまでだったから全員5リットルバケツね。」

和馬「僕にしてみたら、すぐそこに見える貴重な山菜を取らずに帰るようなものだよ。これはやるしかないよね。」

煌「ここまで来てやめるのは、ギターソロのないロックみたいなもんだ。そんな曲は弾きたくない。」

詩織「ここまで財宝伝説の核心にせまれたのって、私たちだけじゃないかしら。これってすごいことよ。」

エカテリーナ「これはアイヌ文化研究会の活動記録として、最高の記録になるわ。みんな、やるわよ。」

みんなで100均の店で折り畳みバケツと、プラ板を買い、天気予報を見ながら最適な日を選んで、来週の日曜日に行くことに決定した。

石の底板の型枠の素材はネットで情報を仕入れ、さんざん悩んで、プラ板に落ち着いた。

このような繊細な作業は詩織が得意だった。みんなは詩織の指示のもと、くぼみの写真から底板の型をおこし、いくつかのパーツに分けて枠組みを作っていく。

そしてなんとか完成した。次にその底板をもとにプラ板を垂直に立てていく。

湾曲している部分は丁寧にドライアーで温め、ゆっくり曲げていく。

底板は思ったより複雑な形はしていなく、なんとか水槽らしくなっていった。

澪「よし、あとは現地で固めればなんとかなるわ。」

そして現地では速効性防水瞬間接着剤で固めることにした。


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