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2人目の男子部員

立原一真はエカテリーナ、連、澪、ゆりと同じクラスだった。

彼は物静かなタイプで、読書と静かな空間が好きだった。

“群れる”ことが苦手で、部活には入らず、授業が終わるとすぐ帰宅し、自宅で好きな本読むことに安心を見出していた。

特に好きな本は、「北海道の山草」という地元の新聞社が出した本で、北海道で採取できる山草の図鑑だった。

休日は、祖父と一緒に山へ入り、春は山草を、秋はキノコを取ることが唯一の楽しみだった。

特に春は山草のシーズンで、祖父と一緒にアイヌネギ(標準和名ギョウジャニンニク)、ふき、ウドなどを取っては、家族からも褒められていた。

特にアイヌネギは父の好物で、天ぷらや卵とじにして食べていた。

父は「やはり天然ものはスーパーで売っている栽培ものと比べて、太さや香りが数段上だ。」と言ってビール片手に嬉しそうに食べていた。

そんなこともあって、和馬はアイヌネギの採取に力を入れていたが、祖父からは「アイヌネギは全部取ってはいけない。山の神様の怒りを買うからな。」と言って、必ず半分は残して採取するよう厳しく言われていた。

そんなある日、授業が終わり帰宅しようとしたとき、蓮がアイヌ関連と思われる本を真剣な顔で読み込んでいるのが目に入った。

和馬は気づかれないように、けれど何度も背表紙を盗み見た。

「知里幸恵のアイヌ神謡集か・・・文学碑がうちの中学校にあるけど、読んだことはなかったな。そういえば、あいつはアイヌ文化研究会の部員だったな。」

和馬は、中学校の図書室に行って、知里幸恵のアイヌ神謡集を手に取った。

パラパラとめくってみると、知らない言葉なのに、なぜか懐かしいと思った。

その日、和馬はその本を借りて帰宅した。

帰宅してアイヌ神謡陽集を読み終えた和馬は「アイヌか・・・」とつぶやき、思い出したように本棚からゴールデンカムイの漫画を取り出した。

彼が山草採りに夢中になったのは、祖父の影響もあるが、ゴールデンカムイの影響もあった。

アシリパさんが、様々な山草を採取し、それを食べた杉元が美味しさに感動するというエピソードが大好きだった。

「アイヌ文化研究会って山草を取りに行くこともするのかな?」

和馬はアイヌ文化研究会に興味を持ち始めた。

翌日、和馬は勇気を出して連に話しかけた。

「アイヌ文化研究会って、どんなことしているの?」

蓮は一瞬驚いたが、すぐ気を取り直し言った。

「これまではトンコリを作ったな。今は文化祭に向けて、演奏や古式舞踊を練習しているんだ。」

「そうか・・・例えば、山へ入って山草を取りに行くとかはしないのかな。」

「うーん・・・そういうことは考えていないかな。」

「そうなんだ。」と言って、立ち去る和馬。

連は「あっ・・・もしかして部に入りたい?」

和馬は「いや、別に。僕が入っても何の役にも立たないし、僕も得るものはない。お互いメリットはないよ。」

連は「そんなことはないよ。男は俺一人で肩身が狭いんだよ。」と訴えかけた。

和馬「じゃ、見学してもいいかな。アイヌ文化資料室ってちょっと興味があるんだ。」

連は部室で女子が4人集まって、部活に関係ない話をするときの盛り上がりについていけない時が何度かあった。そんな時、せめてもう一人話し相手になってくれる男子部員がいて欲しいと思っていた。

そんなこともあり、連はなんとか和馬を入部させたいと思った。

「じゃ、今日の放課後見学してくれ。」

なかば強引に和馬を誘った。

放課後、散々迷ったが和馬はアイヌ文化資料室の前まで来てみた。そこはアイヌ文化研究部としての部室も兼ねていた。窓から室内の様子を覗き見た。壁際にはガラスケースにおさめられ展示物が並ぶ。中央にはテーブルがあり、そこで部員たちが活動していた。

その日は、文化祭に向けて演奏の練習をしていた。煌と詩織はトンコリを弾いており、澪はベースを、連はドラムスティックで座布団を叩いてリズムを取り、エカテリーナはそれに合わせて踊っていた。ゆりはパソコンで舞台演出のデータを作成していた。

和馬は、意を決して部室に入った。

部員一同、突然の訪問者に驚いて手を止めた。

連が「立原、来てくれたんだ。」と嬉しそうに言った。

和馬は「ああ、ちょっと見学を・・・」と言葉を濁しながら言う。

エカテリーナ「えっ同じクラスの立原君じゃない。入ってくれるの?うちの部に。」

和馬は「いや、まだそんな段階じゃないよ。ちょっとアイヌ文化資料室を見たかったんだ。」

エカテリーナは笑みを浮かべ「好きなだけ見ていって。ついでにうちの部活の様子も見て。」

連は演奏の練習から抜け出し、和馬へ資料について説明して歩いた。

和馬は連の話をおとなしく聞いていた。

その中に弓矢があった。

和馬は「こういう弓矢も作ったりするの?」と連に聞いた。

エカテリーナが「弓矢は危険だから作らないことにしているんだ。」と代わりに答える。

連も「弓矢の先には、植物から取った毒を塗っていたんだって。」と少ない知識の中から和馬に教えた。

和馬が「ああ、トリカブトとかだろ。ゴールデンカムイでアシリパさんが使っていたやつ。」と答えるとエカテリーナが食いついた。

「ゴールデンカムイ、読んでるの?」

「まあ、割と好きな漫画かな。」

「もしかして、推しキャラはアシリパさん?」

「まあ、そうかな。」

「へー。じゃ決まりだね。立原君はアイヌ文化研究会に入るべきよ。」

「ええっ。どうしてそういう話になるの?」

「私もゴールデンカムイが大好き。特にアシリパさんがね。そのうち、アシリパさんを参考にした活動内容も考えようかと思っていたの。」

「それって、例えば山草を採取するとか・・・?」

「そうそう、アイヌネギとか採取してみんなで食べるとかね。」

「俺、アイヌネギの取れる場所知っているよ。」和馬は、うっかり言ってしまった。

「最高だわ。じゃ立原君は入部決定!そして山草採取担当ね。」

「え?・・・そうなるの?」和馬が連を振り返りながら言った。

連が笑顔で「そうなるよ。」と返した。

澪が言う。「アイヌネギって・・・春の山菜でしょ。もう夏になろうとしているのに、まだ生えているの?」

和馬が答える。「今の時期のアイヌネギは、葉は枯れ、種子を作っている状態だから採取するには遅いな。」

エカテリーナ「アイヌネギは来年の春ね。今の季節は何が取れるの?」

和馬「今の時期で、旬なのは笹竹かな。」

エカテリーナ「じゃ、早速笹竹採取に行こうよ。」

和馬「いや、僕たちだけじゃ無理だよ。生えているのは山の中だから、車を出してくれる大人がいないとさ。」

エカテリーナ「自転車じゃ無理かな?」

和馬「行って帰ってくるまで日が暮れるよ。」

エカテリーナ「うーん。どうしよう。」

和馬「うちのじいちゃんに頼んでみる?いつも、じいちゃんと一緒に山菜採りに行ってるんだ。」

エカテリーナ「えっ。立原君のおじいさんに?いいの?」

和馬「大丈夫だよ。じいちゃん、山菜採りが趣味なんだ。」

連「車には7人も乗れるの?」

和馬「えーと、ミニバンというタイプなんだけど。あ、6人乗りだった・・・」

詩織「私、車椅子だし、山歩きは無理だから、遠慮しておくね。その分、取ってきた山菜の料理はメインで担当させて。」

連「いいね。俺は料理はしたことないから、料理の時は食べる人担当ということで。」

煌「何言ってんだよ。令和の時代は、男も料理くらいできないとだせーよ。」

エカテリーナ「まあまあ、じゃ詩織には悪いけど、山菜採りは私たちに任せてね。」

詩織「楽しみに待っているね。」

こうしてアイヌ文化研究会に2人目の男子部員、立原和馬が加わった。

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