バンドやろうぜ!
放課後の多目的教室で、 アイヌ文化研究会の面々がそれぞれ黙々と準備をしている。
そこに、煌が現れた。
「アイヌ文化研究会だっけ・・・私、この部に入るよ。」
エカテリーナが驚きとともに歓喜の声を上げた。「本当に?歓迎するわ。」
煌が遮るように言った。「ただし、条件がある。トンコリを弾かせて欲しい。」
エカテリーナが戸惑い気味に言う。「トンコリを弾かせろって・・・トンコリ持っているの?」
「あんな高い楽器買えないよ。部に余っているトンコリはないの?貸して欲しいんだけど。」煌は悪びれもせずに言う。
皆、顔を見合わせるが、詩織が「私一人よりも、もう一人トンコリ奏者がいた方が、より演奏に幅が出るわ。私は賛成だけど・・・」
澪が「仕方ない。私のトンコリ、貸してもいいよ。家に飾っておくのもなんだしね。」
煌「やった!よっしゃ、みんなよろしく。2年1組の駒場煌。覚えるように。」
連があきれ顔で言う。「なんか偉そうだと思ったら、俺らより上級生だったのか。」
煌が部員となって一週間が立った。煌は毎日部活動に参加しており、トンコリも詩織と同じくらい弾けるようになっていた。
その日煌は、練習前に言った。「ねぇ今日さ、リムセとブレイクビーツ混ぜてみない?」
「・・・は?」蓮が固まり、エカテリーナ、詩織、澪、ゆりも目を瞬かせた。
「だって踊りって、もともと狩りとか祈りの“テンション”でしょ? じゃあ、今のウチらの“祈り”って、どんな音になるかなってさ」
煌はスマホの作曲アプリで作ったパーカッショントラックを再生しながら、静かにトンコリを爪弾いた。
ポン。カラ。ポン…… そこに乗せるように、低くうねる電子ビートが重なる。
静寂と鼓動が、ゆっくり混ざり始める。
「これは“祈り”じゃない。 “叫び”でもない。 ”今”を、生で叩いてんの」
その音に、エカテリーナの体が自然と動き始める。 ステップはまだ未完成。でも、魂は確かに動いていた。
「……ちょっと面白いかも」
エカテリーナはすっと手を広げた。 指先が語り、身体が舞い、煌の音と交わっていく。
この日から、「アイヌ文化研究会」はただの文化部ではなくなった。
音楽と記憶と、心拍数が交差する“ステージ”への第一歩が、静かに始まっていた。
そして煌は続けて言った。「踊りはエカテリーナ、ドラムは連、エレキベースは澪、私と詩織はトンコリでやってみないか?」
連「ドラムって、俺、太鼓しか叩いたことないんだけど。」
煌「学校にあるドラムで練習できるよ。」
澪「ちょっと、私エレキベースなんてやったことないけど。」
煌「私が教えてやるよ。」
澪はトンコリを諦めた手前、仕方なくベースを担当することに納得した。
澪「エレキベースは学校にないの?」
煌「うーん・・・探したことはないけど・・・。田村さんに聞いて見るか?」
田中は「エレキベースは見たことがないわね。備品登録もされていないようだし。」と残念そうに言った。
澪がほっとした表情で言う。「エレキベースがないなら、あきらめようか。」
煌「澪は私にトンコリを貸してくれたからな。代わりにうちにあるエレキベースを貸してやるよ。」
澪「えっ、そんないいよ。悪いし。」
煌「遠慮するなよ。私もギターばっか弾いているから、そのエレキベースは使っていないんだ。」
澪は暗い表情で言った。「じゃ・・・借りるわ。」そして軽くため息をついた
煌は翌日アンプとエレキベースを持ってきた。
こうして、アイヌ文化研究会のバンドが結成された。
煌「文化祭では、オリジナル曲をやろう。スマホの作曲アプリで作ってきたんだ。これは、トンコリでバンド活動している、「クルミナガーデン」というプロのバンドの曲をオマージュしているんだ。」
それは、トンコリ奏者が2人とベースとドラムの4人編成バンドだった。
トンコリにはエレキギターのピックアップが取り付けられていて、アンプを通して歪んだ音やコーラスなどのエフェクトがかかった音が奏でられていた。
エカテリーナ「きれいな音・・・トンコリってこんなにたくさんの音が出るのね。」
詩織「このコーラスがかかった音がきれい。」
煌「歪んだ音は私が担当するから、詩織はコーラス系の音を頼む。」
そして4人編成バンドの練習が始まった。
エカテリーナは田中さんと、この曲に合うリムセ(踊り)を探した。
文化祭は9月、まだ6月下旬なので間があることから、演奏練習をしながら他の研究もすることとなった。




