まさかのゴシップ
練習が終わって家でゴロゴロしていると、いつもスパーでボコボコにしている本松君からLINEが届いた。日頃からそんなにやり取りするわけでもないので珍しいなって思っていたら、やたらとテンションの高い文面のメッセージが目に入った。
「ちょwwwwwwwあの八村先生がガチの美女と歩いてるんだけどwwwwwwwwwwwww」
本松君、なんか有名な匿名掲示板の人みたいになってるんだけど。まあ、それはいいとして、添付された画像を見て驚く。
たしかに隠し撮りっぽい角度で撮影された写真には、モデルみたいな長い手足をした金髪美女が映り込んでいる。
それにただ一緒にいるってだけでなくて、金髪美女は「鬼の八村」と恐れられた我らが顧問の腕に両腕を添えて絡みついている。
「なにこれ、パパ活?」
思わず出た言葉は失礼全開の憶測だった。でも、本心だから仕方がない。
だって先生は角刈りで筋肉質なコワモテ系だ。ダンディーって言えば聞こえはいいかもしれないけど、どっちかと言えばその筋の人に見えるっていう方が適切なわけで、そういう人がモデルみたいに綺麗な人と歩いているとなると、どうしても違う解釈をしたくなるもの。
それにしても美人だな。見た目だけだったら、そのまんま映画の世界に放り込んでもいいぐらい。いや、そんなに甘いもんじゃないんだろうけど。
写真はちょっとぼやけているけど、切れ長の青い目にまっすぐの鼻筋、肌は小麦色でとにかく顔が小さい。八村先生の半分ぐらいしか面積がないんじゃないか。それでいて大柄の八村先生と同じぐらいの身長なのだから、外国人の有名なタレントなのかもしれないな。
気になったので本松君へ「この人ってモデルか何か?」って返信してみたら「知らない」ってあっさり返ってきた。
おそらく本松君はタブロイド誌的な興味でこのゴシップをあちこちに送信しているみたいで「そういうのやめなよ」とわりとガチの注意を与えてやり取りを終えた。
琴音ちゃんに訊いてみると、やっぱりそっちの方にも八村先生の写真が送りつけられていたみたい。明日はスパーでブチのめしてやる。
それはそうとして、琴音ちゃんと水面下で八村先生と一緒にいる美女の話題でやり取りを続ける。
「まさかこんな美人と付き合っているとは思わなかったよね」
「そうだね。なんかタレントさんみたいだよね」
「でもさ」
「うん」
「なんか、パパ活っぽく見えなくもないっていうか」
「わかる」
「あまりにも美人過ぎない?」
「人の好みは色々あるから……」
「そう言ったらそうなんだろうけどさ、なんか嘘くさくない?」
「うーん」
「うーん?」
「楓花ちゃんはどう思う?」
「正直言うと、ちょっとパパ活っぽい」
「八村先生がパパ活なんてするかな?」
「性格的には無さそうなんだけどさ、そんなの分かんないじゃん。私たちの知らない一面があるかもしれないし」
「そうだけど、憶測は良くないよ?」
「もちろん。だからそれとなく訊いてみるわ」
「うん、そうだね」
メッセージのやり取りを終える。
自分で言っておいてなんだけど、それとなくこの美女について訊くって結構ハードル高くないか?
そうは思ったけど、なんだかこの女性を放置していい気はしなかった。そうなると確認が必要になる。
別に善良な美女だったらそれはそれで結構。まさに美女と野獣カップルにはなるんだろうけど、誰が誰を好きになろうが私の口を出せる問題じゃない。
だけど、そうじゃない場合は……。
最悪のケースで、八村先生が彼女にお金を払って交際してもらっている場合、ことによってはボクシング部が終わる可能性もある。それだけは絶対に防ぎたい。
まさか八村先生が……とは思うけど、異性になるとだらしなくなる人がいるのも事実。それを防ぐためにも、私が積極的に動いていかなくちゃ。
とは言っても具体的には何をすればいいんだろう?
全然思いつかないんだけど、そうも言っていられない。
人生も二週目ってことだし、今さら後悔するような人生の送り方は出来ないよね。




