目を閉じて、闇の中に咲いた百合
家に帰ると、まだ琴音ちゃんとの会話を引きずったままだった。
食事を済ませると、早々にお風呂に入って一息つく。首までお湯に浸かって、しばらくボーっとしていた。
「好きな人、ねえ……」
考えれば考えるほど、琴音ちゃんの顔しか浮かんでこない。二またの三つ編みに、優しい笑顔を浮かべたアイドル顔。私が片っ端から部員の男子をボコボコにしている分、ボクシング部では琴音ちゃんの方が人気あるんじゃないかな。
それに私はちょっと前までに「ケン」と呼ばれていたアイデンティティもいくらか残ってはいるわけで、だからこそ志崎には何としてでもリベンジしたいわけで……。
それなのに、どうしてか菜々さんにはそこまで執着していない気もする。まあ、前世の時点で彼女をリュウに渡したっていうのもあるけど、それにも増して琴音ちゃんの方が気になる感じ。
あの見つめ合った瞬間に、私が迫ったら琴音ちゃんはキスしてくれたのかな?
一緒にいて楽ってだけの理由で、いつでもどこでも二人一組だった。それはたしかに友情から始まった関係のはずなんだけど……なんだか分からなくなる。
目を閉じて、琴音ちゃんと手を繋いで街を歩くイメージを広げてみる。それは驚くほど自然で、明日にでもやろうと思えば出来そうな気がした。
二人で手を繋ぎ、私の家へと連れ込んで、他愛ない話をしばらく交わして、それから、それから、なんだかそんな空気になる。
二人で何となく見つめ合って、琴音ちゃんが「なんだか恥ずかしいね」って噴き出すと、私は無言で彼女の唇を奪う。
「楓花ちゃん?」って戸惑い気味の彼女に、私は無言で二度目の口付けをする。それから何度も、チュッチュッてキツツキみたいにキスを続ける。そのうち琴音ちゃんもそんな気分になってきて、私のことを受け入れはじめる。
「楓花ちゃん……」
潤んだ瞳で私を見つめる琴音ちゃん。それでも私は好きだとか愛してるとか、そういう言葉は使わずに唇を重ねていく。きっと、どの言葉も適切じゃないから。
しばらくキスを続けると、二人で床のマットに崩れ落ちる。
「優しくしてね」
「……うん」
――と、ここで息が続かなくなって私はぶはっとなって目を開ける。
知らぬ間に息を止めていた。死んじゃうところだった。
ああ、ダメだよ。何を妄想しているんだ、私は。この先に進んだら、明日琴音ちゃんの顔を見れなくなるじゃないか。
さあ、妄想もほどほどにしておこう。私が早く上がらないと、お父さんもお風呂に入れないわけだし。
とりあえず今は誰かを好きになっている場合じゃない。
私は練習しまくって、どうにかこうにか志崎へのリベンジを果たすしかないんだ。
そうだ、もっと気合を入れていこう。幸か不幸か若返ったんだし、明日もさらなる猛練習だ。
私は自分をごまかすように気合を入れる。でもきっと、今の正解はこれなんだと思う。琴音ちゃんのことは、私自身が本当に定まった時にもっと真剣に考えよう。




