クソリプなんかに負けてたまるか
学校の休憩時間。私のスマホは気持ち悪いリプの通知が大量に届いていた。
半ば予想通りではあるけど、私の発言は切り取られて悪意とともに拡散された。私自身もツイッターアカウントを持っているから、変な奴からコラ動画みたいなのがDMで届く。関わりたくないので、片っ端からブロックしていった。
そういうのを送ってくる人って大抵は自分がお茶目なおじさんだと思っている気持ち悪い奴で、ダルがらみのリプにもうら若きJKに対してワンチャン狙いの匂いが漂いまくっていた。
「うっわキモ……」
ブロックしながら思わず呻く。どうしてこういうオッサンたちはJKと付き合いたがるのだろう。そんなの、無理に決まっているのに。休み時間のたびにスマホの通知が地獄みたいになっているのでどうにかしてほしいところだ。
「楓花ちゃん、どうしたの?」
声がした方を見ると、二またの三つ編みで大きな瞳が特徴の四宮琴音ちゃんがいた。美少女に転生してから、おっとりして安心感を与えてくれる琴音ちゃんは私にとって新たな心のオアシスとなっていた。
いわゆる「転生」をしても前の記憶が残っているせいか、今でも私は女性の方に惹かれる。ケンと呼ばれていた頃のアイデンティティはそれほど残っていないけど、それでも眼福になる美少女がいるとなんだか抱きしめたくなる。
って、琴音ちゃんに見とれている内に質問の回答が遅れていた。当の琴音ちゃんは不思議そうに首をかしげている。
「あの……ほら、この前の国体でした発言を切り取られてさあ」
「国体って、あの決勝の?」
「そう。逃げるな志崎ってやつ。その発言を切り取られて、私は目下炎上中ってわけ」
「わ、やっぱり楓花ちゃんは有名人だからそういうこともあるんだね!」
マイペースな琴音ちゃんは、おっかなびっくりピラニアの水槽でも覗いたみたいなリアクションをしている。こんな純粋なコにオッサンたちの欲望にまみれたクソリプを見せるなんて思うと罪悪感が沸いてくる。
とはいえ、琴音ちゃんの言うことにも一理ある。
この前のインターハイで、私は志崎と一組でアイドルのような扱いを受けた。ボクシング界には珍しい美少女同士の決勝戦だったからだ。その時に騒いでいた人たちも、まだ飽きずに私たちのことを追いかけているみたい。下手すれば今年の流行語大賞に「由奈ちゃん派」と「楓花ちゃん派」がノミネートされそうな勢い。本当にふざけんなよって思う。
インターハイ前からSNSはやっていたけど、今の私は超絶美少女だからアカウントを作ればフォロワーが爆発的に増えるのはもう分かっていた。だけど、いざフタを開けてみたらその反響は想像以上で、私は望まずともインフルエンサーと呼ばれるような人種になっていた。
さすがに天城楓花じゃなくて「ふーさん」とかハンドルネームでやっとけば良かったかなと思ったけど、時すでに遅し。気付けばアカウントを一旦消してやり直す余地は無くなっていた。
国体での不機嫌発言は事情を知らない人からすればただの尊大な態度にしか見えなかったようで、SNSの通知には私が傲慢だの勘違いしているだの、好き勝手な内容のクソリプが届きまくっている。一度もボクシングなんてやったことも無いくせに。
あーもう腹立つ。
だって、私はアンチの君たちが応援している志崎由奈を助けたんだからね?
一人一人に小一時間ぐらい説教をかましたくなるけど、それが出来ないのがネット社会というやつだ。私のフラストレーションはまったく理解されずに、知らない奴から「俺の意見を聞くべきだ」っていう内容のメッセージばっかりがアホみたいに届いてくる。
イライラしていると、心のオアシスである琴音ちゃんが口を開く。
「楓花ちゃんはかわいいし、その上に強いんだからすごいよね」
「うん、まあ……ありがとう」
「だから、余裕を持って構えていたらいいんじゃないかな。だって、変なメッセージを送ってくる人だって、何とか楓花ちゃんに相手してもらいたいだけだろうし。きっと、構ってほしいだけなんだよ」
「ああ、そうか。なるほど」
さすが私の天使。琴音ちゃんは闇に染まりかけていた私の心を一瞬で浄化してくれた。
そうだよね。こんなに気持ち悪い奴らの相手をしているぐらいなら、天使の琴音ちゃんと楽しく話している方がよっぽどいい時間の使い方だよね。たった一言で、私は憎しみから解放された。
そうだよ。あの時の私が志崎不在に不機嫌だったのは至極当然だし、それを知らない人が私の態度を見てけしからんと思う心理も理解は出来る。私からすれば理不尽なところはあれ、彼らの心理は理解出来るわけだ。
だから、彼らの主張は彼らの主張として、受け入れることも必要なのかな。別にそれで罪悪感を持つ必要は無いし。そう思ったら、心が少しだけ軽くなった。
「琴音ちゃん、ありがとう」
肝心の琴音ちゃんは首をかしげていたけど、私の中で心の整理がついた。
そうだ。こんなところで下らない争いをしている場合じゃない。私はこれから、志崎由奈にリベンジするべく自身の腕を磨いていかないといけない。
あいつだって、もしかしたらラスベガス辺りで武者修行でもしているかもしれない。「前世」の時から強くなることには貧欲だったから、それぐらいのことをしていても少しも不思議じゃない。
ようし、私だって負けないぞ。次こそは必殺の一撃で、意識ごと刈り取ってやるんだから。
私は負けないぞ。今日も死ぬほど練習してやる。そうして、そんな一日の積み重ねが本当のモンスターと呼ばれる日へと続いているんだ。
私はリベンジに向けて、一層気持ちを引き締めた。
※作者注:志崎由奈が国体にいなかったのは山中が主宰する地下格闘技に参戦させられていたからです。




