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無茶苦茶な試合

「あんた、なんてことを……!」

「いたいけな一般人を次々と殴り倒したボクサーには言われたくねえな」


 鬼塚は鼻で笑うと、居直るように言った。何から何までいけ好かない。今すぐにぶっ飛ばしてやる。


「覚悟しなさいよ、このハゲ」

「誰がハゲだコラ!」


 禁句だったのか、鬼塚がブチ切れる。やっぱり気にしてたのか。


「さっさと琴音ちゃんを返しなさい。あなた終わりよ」

「ふん、まあそう焦るなよ」


 鬼塚が指を鳴らす。消えていた照明がつくと、私たちの周囲は半グレに囲まれていた。


「知らぬ間に」

「俺は負ける喧嘩はしない主義なのさ」

「勝ち誇って言ってるけど、JK相手にやってることはクソダサいわよ」

「言っただろう。そう焦るなって」


 鬼塚が周囲の半グレたちに見守られながらリングへと上がっていく。暗くてよく分からなかったけど、鬼塚はガウンを着ていたようだった。


 ふいに鬼塚がリング上でガウンを脱ぎ捨てる。鍛え上げられた筋肉が、ライトに照らされて光っていた。


「昔はな、俺もそれなりに期待されたボクサーだった」


 鬼塚は頼まれてもいないのに、筋肉を見せびらかしながら自分語りを始める。


「あとちょっとで日本タイトルっていう時に、担当のトレーナーと不仲をこじらせた。意味の分からない理由で干された俺は、リングを去るしか選択肢が無かった」

「アホね。担当のトレーナーと揉めたらそうなるに決まってるじゃない」


 トレーナーと揉めてフェイドアウトするボクサーは隠れて結構いる。こいつの世代だと、今よりも簡単に担当を変えるとかも出来なかった時代かもしれないけど、そんなの私の知ったことじゃない。


 だけど、無駄にハートの強い鬼塚は話をやめない。


「お前には分からないだろう。本当は栄光を掴めたはずなのに、しょうもない身内のゴタゴタで自分のキャリアを閉ざされる選手の気持ちが。そして、不本意のままグローブを壁にかけた者がどれだけの後悔を背負ってその後の人生を生きていくのか」

「そんなの知るわけないでしょ。言っとくけど、少しもカッコよくないんだからね?」


 そう、この男はそれなりに才能のあったボクサーだったけど、干されて引退を余儀なくされたたけの話だ。漫画の世界みたいに戦争やケガで将来を奪われたわけじゃない。


「天城楓花、ここで君に勝負を申し込む」


 ふいに鬼塚が真顔になる。鬼塚が腕を伸ばすと、その先にカメラがあった。


「このジムの出来事はオンタイムで全世界へと中継されている」

「なんですって?」

「ああ、これが俺の用意した、命懸けのコンテンツだからな」

「コンテンツ、ですって……?」


 私は思わず訊き返す。半グレを何人も送り込んで殺しに来ておいて、それをコンテンツだなんて狂っている。


「ああ、これは立派なコンテンツだよ。君の大立ち回りは世界中で反響を呼んでいる。お陰で俺の懐も潤いそうだ。ジムはメチャクチャにされたがな」

「自業自得でしょう。あなたは何がしたいの?」

「なあ、これから賭けをしないか?」

「人の話を聞きなさいよ。それに賭博は犯罪でしょ」

「もちろん金銭の絡んだ賭博なんてしないさ。この中継は世界中の誰も見られるんだ。そんな愚かなことはしない。賭けるのは君のお友達だ」


 そう言って鬼塚はリングの外で他の半グレに囲まれている琴音ちゃんを一瞥する。中継を観ているユーザーに余計なことを言わせないためか、猿ぐつわを噛ませている。でも、半グレに捕まった涙目のJKっていうだけで充分に犯罪性を感じられた。


「天城楓花、ボクシングで君が俺を倒せば、あの三つ編みの女の子は解放してやろう。だが、負ければ君は俺の事務所からアイドルとしてデビューすることになる。どうだ、悪い話じゃないだろう?」

「その言葉、信じてもいいの?」

「安心してくれ、俺は約束はちゃんと守る男だ」

「よく言うわよ、このハゲ」

「ハゲじゃねえって言ってるだろ!」


 禁句に鬼塚がブチ切れる。周囲はさっきよりもずっと多い数の半グレたちに囲まれている。ここは強引に琴音ちゃんを連れて帰るより、このハゲを殴り倒した方が良さそうな気がする。


「いいじゃない、やってあげるわよ。ボコボコにしてプライドも顎もへし折ってあげるから」


 そう言って私はリングに上がる。鬼塚は嬉しそうに口角を上げた。


「いいか、ルールはボクシングマッチだ。ラウンドは無く、時間は無制限。勝利はテンカウントのみで決まる」

「何それ。いかれてるわね」

「ああ、いかれてるさ。俺は中途半端に判定で決着をつけたいなんて思わないからな」


 ドヤ顔で言ってるけど、体格で劣る女子相手に最低な発言をしているのには気付いていないようだ。まあ、別にいいけど。


とにかく、これから謎のボクシングマッチが始まる。


 黒くてダサいデザインのポロシャツを着た男がリングに上がってくる。多分レフリーなんだろうけど、こいつも敵だと思った方がいいだろうと思う。


 琴音ちゃんも捕まっているし、セコンドすらいないアウェーな状況はさすがに初めてかも。でも、私は勝つよ。


 ゴングが鳴らされる。


 これから琴音ちゃんを賭けた闘いが始まる。

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