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美少女無双

「くっそ、ハメられた」


 予想はしていたけど、鬼塚は一対一で闘うような奴じゃなかった。バットやバールを持った半グレたちは、すでに勝ち誇った顔で私を見ている。


 武器を持った半グレが何人も集まれば、ボクシングの世界チャンピオンでも普通にやられる。せーので全方向から武器で攻撃されたら誰だってひとたまりもない。それが分かっているから、刺青のびっちり入った二の腕を見せびらかす半グレたちはニヤけが止まらないんだろう。


 ――だけどね、そういう油断が想定外の敗北に繋がるんだよ。


 私は自分の入って来たドアの方へと逆走する。それとともに、「待てコラ!」と半グレたちが怒声を上げながら狭い道へとなだれ込んでくる。


 ドアのすぐ近くに設置された消火器を取る。安全ピンを抜くと、狭い通路で武器を持った半グレたちが真っ青な顔になる。


 その顔めがけて、私は消火器を噴射した。悲鳴とともに、白い煙が半グレたちの視界を塞ぐ。


 身を低くして、文字通り煙に巻かれた半グレの頭へ弓なりの軌道で消火器を振り下ろす。鈍い音とともに、金属バットを持った先頭の半グレが気を失った。


「てめえ!」


 バールを持った半グレが怒号を上げて威嚇してくる。ありがとう、お陰で白い煙の中でも君の位置がよく分かった。声のした方に消火器を向けると、さらに消火剤を発射していく。悲鳴を上げながらバールとブンブンと振り回している半グレを、後ろから石膏入りオープンフィンガーグローブでぶん殴ってノックアウトする。


 ジムの内部が白い煙だらけになると、火災報知器が鳴ってスプリンクラーが作動した。ジムの中に水が撒かれているだけなのに、慣れていない光景に半グレたちはパニック状態となった。私はその混乱に乗じて、次々と半グレたちを死角から殴り倒していく。


 珍しく素手でファイティングポーズを取る半グレ。男らしさは褒めてあげたいところだけど、私と対峙するにあたって愚かに尽きる。だって、私は石膏入りのグローブを嵌めたもと世界ランカーだからね。


 細かく左右へステップを踏んで攪乱すると、タイミングを外してから一気に踏み込んで音速の左フックを叩きつける。ボクサーでもない人間がこれに反応出来るはずもなく、石膏入りグローブはグシャリと半グレの顎を砕いた。


 バターンと倒れた向こうに驚いた半グレの顔があったので、さらに踏み込んで我に返る前に殴り倒す。鼻に右ストレートを叩き込むと、ボキッと音がして悲鳴が上がった。


「このクソガキが!」


 横からバットで殴りかかる腐ったホストみたいな顔をした男。ありがとう、攻撃する前にわざわざ教えてくれて。私はちょっとだけ首を捻ってバットを外すと、ガラ空きになったタマに容赦なくアッパーを叩き込む。


「ぎゃあああああ!」


 ホストが股間を押さえて倒れ込む。たまにこうやって出てきて速攻でやられる奴もいるよね。タマだけに。


 ふいに後ろでゾワっと嫌なものを感じたので、本能的に横へ転がる。さっきまでいた場所に鉄パイプが叩きつけられ、激しい衝突音が響く。


 もう後ろに敵がいるのは分かっているのだから、転がりながら体勢を立て直し、起き上がりつつグルっと回ってバックハンドブローを放っていく。


 鉄パイプの振り下ろされた角度から計算して、私の裏拳は計算通りに不意打ちを仕掛けてきた半グレの顔面をとらえる。石膏で固められた拳が、背後にいた半グレの頬骨をゴリっと砕く。倒れ込んだところに、トドメのつま先蹴りをみぞおちにドンと叩き込んだ。


 背後で胃の内容物を吐き散らかす音。敵はあと一人しか残っていない。


 顔にタトゥーをしたスキンヘッド。やたらと筋肉質だからステロイドでもやっている内にハゲてしまったクチだろう。


 最後の相手一人と、構えて対峙する。その手には特殊警棒があった。


「クソ、この卑怯者が」

「あんたに言われたくないわよ」


 正論で返しながら、私はその場でステップを踏む。囲まれて「せーの」で叩かれたらやられていたところだけど、狭いところに敵をおびき寄せて一人ずつ始末したお陰で実質的にずっと一対一で闘えた。


 悪いけど、この程度のチンピラにタイマンで負けるなんて思ってないから。


 重心を後ろに残しつつ、カウンターをもらわないようにしながら特殊警棒を振るってくるスキンヘッド。少しは格闘技の心得があるらしい。


 ――でもね、その程度の浅知恵では私を倒せないよ。



 私は身を低くして相手の攻撃を誘いだす。軽くて硬い特殊警棒は絶妙な長さで、バットみたいに一発外したら致命的な隙が出来るっていうわけでもない。スキンヘッドは私の顔が傷付こうが気にしない風だったので、こちらも隙を見せれば顔面を破壊される可能性がある。


 ステップを踏む。今度は前後。行くと見せかけて下がり、無駄な一撃を振らせるようにプレッシャーをかけていく。


 さあ、来なさい。


 フェイントに引っかかった一撃が私の鼻先で空を切る。行ける――かと思ったら振られた警棒が戻ってくる。相手もフェイントを仕掛けてくる。


 一瞬でパッパッパとバックステップで距離を開くと、スキンヘッドが追いかけて来るタイミングで壁を蹴る。トトトンと一気に壁を駆け上がると、あっけに取られているスキンヘッドに壁から跳んでスーパーマンパンチを喰らわせた。


 まさか空中から殴られるとは思っていなかったスキンヘッドはその衝撃に堪えつつも、明らかにグラついて膝が揺れた。その一瞬を、私は見逃すはずがない。


 着地とともに、至近距離から地獄の連打に巻きこんでいく。抱き合える距離となると、特殊警棒はかえって邪魔になる。スキンヘッドは頭を押さえて暴風雨のような連打から身を守っていたけど、文字通りのストーンハンズには耐えられなかったようでそのまま崩れ落ちて気を失った。


 ジムのフロアには、スプリンクラーの水で濡れた男たちが戦闘不能のまま呻き声を上げて転げ回っている。


「ちょっとだけピンチだったかも」


 誰にともなく言うと、私はその先へと進んでいく。誰かが止めたのか、スプリンクラーとやかましい警告音は知らぬ間に止まっていた。


 さっきの火災報知器のせいで止まってしまったのか、エレベーターを呼び出しても反応しない。しょうがないので階段で上に行く。一つい上のフロアに行くと、薄明かりが見えた。


「リング……?」


 明かりがついた先には、ボクシング会場で見るようなリングが設置してあった。映画のポスターみたいに、暗いフロアにピンポイントでリングだけが照らされている。


「ようやく来たな。待ちくたびれたぞ」


 微妙に高い、クセの強い声がフロアに響く。忘れもしない。この声の持ち主は……。


「鬼塚!」


 思わず声に憎しみが混ざる。薄暗いフロアの中で、リングの向こう側に鬼塚豪鬼が待っていた。その隣には、怯え切った琴音ちゃんが手錠を繋がれて捕らえられている。


 とうとう現れた。この悪党め。私の血圧が上がっていく。


 でも、ようやくこいつのもとへたどり着けたのも事実だ。殺意が沸いてくるばかりだけど、これからこいつとの最後の闘いが始まる。それだけははっきりとしていた。

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