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恐るべきハゲ

 すべての点と線が繋がった時、その背景にあるものも色々と見えてきた。


 思えばジュリアが八村先生にコンタクトを取ってきた時も、時系列的に見れば私が鬼塚をぶっ飛ばしたあたりと一致する。


 鬼塚がどれだけ本気で私をアイドルにしようとしているかは分からないけど、私にぶっ飛ばされたあの日、おそらく鬼塚は私を正面から引き込むのは困難だと悟った。


 そこであいつはきっとこう考えた――私の外堀を埋めて、そこから切り崩していこうと。


 それで私の周囲も含めた情報を色々と調べて、八村先生にジュリアから接触を図り、国際ロマンス詐欺の手口でがんじがらめにした後に先生を人質にしようとしたに違いない。


 たしかに八村先生を人質に取られたら、私も鬼塚の要求を受け入れないといけなかったかもしれない。なんて恐ろしいの。そしてやり方が陰湿。だからハゲなのよ。このハゲ。


 こんな陰湿な方法で私を仲間にしようとしても、それは私の闘争本能に油を注いだだけだ。覚悟しなさいよ。私だけでなく、八村先生の純情までもてあそんだ罪、しっかりと償わせてやるんだから。


 私はこれまで得た情報をもとに先生と琴音ちゃんに推理を披露すると、さすがに八村先生も驚いていた。


「そんなことが……。でも、それなら警察に通報すればいいじゃないか」

「そうなんですけど、正直今の段階ではそれも難しいと思います。警察は直接的な被害が出ないと動いてはくれません。ジュリアのことも、あの女が明白に詐欺師だと証明出来ない限りは言い逃れされてしまうでしょう」


 さすがに百年の恋も冷めたのか、八村先生にとってジュリアは恋人などではなく人を陥れる恐ろしい女というイメージへ変わったようだった。こういう時に割り切りのいい人で本当に良かったなと思う。


「となると、結局その鬼塚という悪党とジュリアは野放しか」

「しょうがないですよね。騙される前に気付けて幸運だったと思うしか……」


 そう口にはしつつも、私はそんなに出来た大人じゃない。


 ――あいつらには、自分のやったことの報いをしっかりと受けてもらう。


 静かに怒る私は、鬼塚を直接シメることにした。もちろん先生には秘密だ。そんなことを表立って言えば止められるに決まっているから。


「お前、なんかやろうとしてないか?」


 心の中でも読まれたのか、八村先生が私の出していた不穏なオーラに気付いたらしい。さすが鋭いというか、私が分かりやすいだけだろうか。


「いいえ、何にも」

「本当に?」

「本当に本当です。だって、下手したらみんなに迷惑がかかるじゃないですか」


 棒読みでそう言いながら、私は先生と目を合わせることが出来なかった。視線を合わせたら、何もかもが見透かされそうな気がした。


「そんなことより、鬼塚についてもうちょっと調べてみましょうよ」


 私はもっともらしいことを言って、話題を別の方向に逸らせていく。言ったことが比較的合理的だったせいか、先生も「たしかに、それもそうだな」と上手いことだまされてくれた。


 「鬼塚豪鬼」という名前とセットで「反社」とか「逮捕」とか、特定のキーワードを混ぜてググっていく。実際にこういう作業は信用調査でされることがあると聞いたことがある。あの時聞いたミニ知識がこんなところで役立つとは思わなかった。


 しばらく色んな単語を組み合わせて調べものをしていく内に、何やら気になるブログが見つかった。新聞社がやっているようなものとは違うけど、実話系の週刊誌で書いていたライターが息抜きに更新しているやつみたい。


「サウザント・ペイバックと鬼塚豪鬼という男」


 記事を口に出して読むと、これこそあのインチキ芸能事務所の社長だと確信した。記事を読んでみると次のようになっていた。


『芸能界の闇を牛耳る鬼の首領の実像――元被害者が証言する恐怖の全貌』


 芸能界の表舞台で輝くスターたち。その裏側で蠢く闇のネットワークが、時に若き才能を食い物にし、人生を破壊する――そんな話は枚挙にいとまがない。


 だが、今回取り上げる「サウザント・ペイバック」という半グレ集団は、その中でも一際異彩を放つ存在だ。「あまりにも凶悪過ぎる」という理由で表向き解散させられたこの半グレ集団は、地元の人々を恐怖のどん底へと陥れていた。


 その首領こそが、鬼塚豪鬼という名の半グレである。文字通りに鬼のように喧嘩が強いそうだが、輝かしい未来と将来的なハゲの予感をかけて「フューチャーブライトの貴公子」と呼ばれている説もある。


 だが、この半グレ、ただのオモシロニックネームを持つ芸人枠の反社とはワケが違う。


 鬼塚の恐ろしさは、ただの暴力だけじゃない。むしろ、その陰湿で計算高い頭脳こそが、真の脅威だ。関係者からの証言を集めると、鬼塚はまるで蜘蛛の巣を張るように、ターゲットをじわじわと追い詰めていく。


 鬼塚は半グレのメンバーを使って芸能事務所を構えており、そこでは未来ある若者たちが日夜食い物にされているという。


 元所属タレントのAさん(20代女性)は震える声でこう語った。


「最初は甘い言葉で近づいてくるんです。『君の才能を世界に届けるよ』って。でも、契約書にサインした瞬間、地獄が始まる。事務所の借金返済を肩代わりさせられたり、明らかにカタギじゃない人の集まった怪しいパーティーに強制参加させられたり……拒否しようものなら、家族の個人情報を握られて脅されるんです。あの男の目は、獲物を狙う鬼のよう。ハゲ頭の下に隠された笑顔が、余計に怖いんです」


 鬼塚の過去を遡れば、その鬼畜ぶりが浮き彫りになる。


 10年以上前、彼は地元ヤクザの用心棒として名を馳せていたという。喧嘩の腕は折り紙付きで、相手を半殺しにしても平然と笑う冷徹さは仲間内でも恐怖と尊敬の対象だった。


 ある関係者は匿名で明かす。


「鬼塚は喧嘩で人をぶっ飛ばすのが趣味みたいだった。骨折させても『これで千倍返しだ』って笑っていたよね。サウザント・ペイバックって名前も、そこから来てるんだと思うよ。一しかない借りを千倍にして返すって意味で」


 鬼塚の才能は物理的な暴力だけではない。国際ロマンス詐欺の手口で、純粋な人々から次々と全財産を吸い上げていく。その手口は非常に巧妙で、何億もの金がブラックマーケットへと流れたとも言われている。


 さらに恐ろしいのは鬼塚のネットワークの広さだ。あのハゲは芸能界だけでなく、政界や金融界にまで触手を伸ばしているという噂がある。あるジャーナリストは「鬼塚は反社勢力の橋渡し役。逮捕歴こそないが、過去に何度も家宅捜索が入っている。証拠を握りつぶすコネがあるんだろうな」と指摘する。


 だが、いざ警察の捜査が入ると、その時に決定的な証拠はいつも消える。まるで幽霊のように。


 サウザント・ペイバックの被害者は、表沙汰になっていないだけで数百人に上るという。脱退しようとしたタレントが謎の事故に遭ったり、SNSで誹謗中傷の嵐にさらされたりと、鬼塚の千倍返しは、容赦がない。


 先ほどのAさんは最後にこう吐露した。


「あんな男が野放しなんて、世の中おかしい。あのハゲ頭の下に、どれだけの怨嗟が溜まってるか。いつか天罰が下る日が来るはず……でも、それまで何人が犠牲になるんだろう」


 Aさんの心に広がる闇は、鬼塚だけでなく全世界のハゲへと広がりそうな勢いだった。


鬼塚の恐ろしさは、ただの悪党を超えている。芸能界の闇を象徴する「鬼のハゲ」として、今後も注視が必要だ。


(※本記事は関係者証言に基づくものであり、事実確認中である。鬼塚氏からの反論があれば随時掲載する)


 ――記事はそんな感じで終わっていた。


 いや、さすがにそこまでハゲハゲ言ったらかわいそうだと思うけど。まだハゲって言うよりは生え際が後退しちゃってるだけだし。それなのに文章全体を見るとあのハゲに違いないと思ってしまうところはあるけど。


 そんなことより、鬼塚は想像している以上にヤバい奴だと分かった。


「危なかったな、俺。もしかしたらここの記事で国際ロマンス詐欺に引っかかったアホ教師って書かれていたかもしれない」


 八村先生が呻くように言う。たしかにこの記事を書いた奴だったら被害者をイジるとかも平気でやりそうな気がする。


 それにしても半グレか。だいぶヤバい奴に目をつけられてしまったみたい。


「お前、絶対こいつに仕返しをしようなんて考えるなよ」


 八村先生に言われて、棒読みで「はい」と答える。でも、この感じだと、たしかにこれ以上はこの男に関わらない方が賢いのかもしれない。


 盛大にカチコミでもキメてやろうかと思っていたけど、少し軌道修正が必要なのかな。

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