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GPSと点と線

 おそらく今後出禁になるであろうコーヒーショップを出て行くと、私たちは近場にあるネットカフェで個室を取った。先生は嫌がったけど、状況は一刻を争うのでそうも言っていられない。


「ここで何を調べるんだよ?」


 怪訝な顔で訊く八村先生。JKと一緒に狭い個室に入るので、うっかり誰かに見られたらどうしようとか、そんなことを考えているのだろう。


「さっきのどさくさに紛れて、ジュリアのバッグにGPSを仕込みました」

「おいマジか。犯罪だろ」

「じゃあ訂正します。ああ、まあ、親が持っていろって渡してきたGPSをキレ散らかすジュリアにビビってバッグに落としちゃった、みたいな」

「お前なあ……」

「まあ、いいじゃないですか。これであの結婚詐欺師の居場所が分かるんですから」


 私がそう言うと、先生はそれ以上反論しなかった。さすがに先生でも自分が国際ロマンス詐欺に遭いかけていたことぐらいは理解出来たらしい。


 狭い個室に入ると備え付けのパソコンを立ち上げて、スマホに表示される地図でジュリアの足取りを追っていく。


「スマホで光っているのがジュリアなのか?」


 地図の上で、青白い点がピカピカ光っている。先生の言う通り、それがジュリアの現在位置になる。


「そうです。ドラゴンレーダーみたいでしょ?」


 私が冗談めかして言うと、きっとドラゴンボール世代であろう八村先生はなぜか笑わなかった。なかなかシャレのきいたことを言ったつもりなんだけどな。


 それはともかくとして、まさかGPSを持たされているとは知らないであろうジュリアは、まっすぐにある場所を目指していく。きっと尾行が付くとか、そういう発想も無いのだろう。バカで助かった。


 ジュリアがある建物のところで止まったので、すかさずパソコンでその住所を検索する。今どきの住所を検索すると、個人名こそ出ないものの、そこにある施設やら住居がどんな建物か見ることが出来る。自分がやられたら怖いけど、ストーカーにとっては便利な時代になった。


「インター・ラブゲーム・コーポレーション?」


 ブラウザに映り込んだのは、結婚相談所か何かのホームページだった。住所はたしかにジュリアのいる場所と一致している。


 八村先生は怪訝な顔をしながら呟く。


「ここが家ってわけじゃないよなあ」

「となると、ここに彼女のボスがいるとか?」

「ああ、なるほど。じゃあちょっと調べてみるか」


 先生に言われて、私はインター・ラブゲーム・コーポレーションのホームページをざっと眺めていく。やっぱり主役は相談に来る人のせいか、スタッフの写真はとくに掲載されていなかった。


「別に、普通の結婚相談所みたいですけどね」


 琴音ちゃんがそう言うのを聞いて、他のキーワードと一緒に検索したらどうなるかと思いついた。


「もうちょっと調べてみましょう」


 検索サイトに「インター・ラブゲーム・コーポレーション」と一緒に「評判」やら「ヤバい」、「逮捕」などの単語を織り交ぜて検索し直していく。


「おっと、これは~?」


 期待していたものが見つかり、私は思わず黒い笑いが漏れる。


 公式ホームページとは別に、インター・ラブゲーム・コーポレーションを攻撃する内容のサイトを見つけた。被害者の会みたいなものらしい。


 サイトの内容を覗くと、「インター・ラブゲーム・コーポレーションはお抱えのタレントを使って結婚詐欺で荒稼ぎしている」という告発があり、それも一件や二件ではないらしい。


 その中にジュリアの名前は見つからなかったけど、そろらくあの女は相手によって名乗る名前を変えているはず。だからここに書いてある「マリア」ちゃんかもしれないし「アナスタシア」ちゃんかもしれない。もしかしたら全部かも。残念ながら、その詐欺師の容姿については記述が無かったけど。


 でも、そこで暴露されている手口は大体すべてが同じだった。SNSなどで共通の趣味があるように近付いてきて、惚れさせてから家族の病気に多額の治療費がかかると打ち明ける。そしてその入金が成されると、すぐに消えていなくなるというものだった。


「先生、あとちょっとでお金を盗られて逃げられるところでしたよ?」


 私が言うと、先生は床の一点を見つめたまま答えなかった。まあ、被害者をイジメるものじゃないしジュリアの調査を続けよう。


 会社情報を見たけど、わざとそうしているのか簡易的な情報しか載っておらず舌打ちする。きっと何か隠されている情報があるはず。


「クソ、これじゃカチコミに行けないじゃない」

「高校生が恐ろしいことを言うな」

「カチコミには行かないにしても、警察に通報するためにはある程度情報がいるじゃないですか」

「まあそうだけど。……あ、謄本を取ったらいいんじゃないか?」

「謄本? 戸籍とかですか?」

「まあ、ある意味会社の戸籍みたいなものだな。法人としての登録があるなら、その会社は登記がなされているはずだ。言いかえれば、謄本が存在するということだ」

「そんなものがありますかねえ」

「さすがにあると思うぞ。個人事業ならともかく、この会社なら従業員もそれなりにいるはずだ。5人以上の従業員がいれば個人事業にはならないはずだから、謄本を求めれば取得出来るはずだ」


 八村先生の言う通りに手続きを進めると、ネットでインター・ラブゲーム・コーポレーションの謄本を閲覧出来た。こんなことが出来るのは知らなかった。なんだかんだ、やっぱり八村先生は社会人なんだなと。


 鬼の八村が発揮した意外な知性(失礼)に助けられつつ、私は取得した謄本の内容を眺める。だけど正直よく見方が分からない。


「これってどこをどうやって読めばいいんですか?」

「正直、それは俺もよく分かってない」

「えっ……」

「まあ、そう慌てるな。たしか代表の名前が知りたかったんだよな?」


 そう言って先生は役員の名前が書かれた欄を指し示す。ここで名前の下に線が引いてあるとそれは過去の情報で、下線の無い代表取締役がその会社のボスってこと。


「こいつが詐欺会社のボスみたいだな」


 先生が指さした名前を見て、私の背筋に寒気が走る。


 ふと思い出して、カバンにしまい込んだ名刺を取り出す。やっぱりそうだ。今まで妙な違和感がずっとあったけど、そういうことか。


「え? お前こいつ知ってんの?」


 名刺を見た八村先生が思わず驚きの声を漏らす。それもそのはず、わたしの持っている名刺に書いてある名前は、謄本の代表取締役と同じ表記だったからだ。


 鬼塚豪鬼――それは私をアイドルにしようとして、ぶっ飛ばされた芸能プロの社長だった。

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