ボクシング部瓦解を防げ!
琴音ちゃんと甘酸っぱい思い出を作ったのち、割と早く危惧していたことが起こりはじめた。
端的に言えば、八村先生のポンコツっぷりがさらに加速していった。
ミットでコンビネーションをミスるなんてことはもはや大したことがなくて、部費の予算で計算を間違えたり、ミーティング中にボケーっとしていて話を振られてもトンチンカンな答えを出してきたり、どちらかと言えば生徒が先生に怒られるようなボロが散見されるようになった。
理由なんてもう分かっている。
鬼の八村をここまでの腑抜けにさせたのは「あの女」しかいない。
思わず「ジュリアとはどうせ後で会えるんだから今は練習に集中して下さい」って毒づきたくなるけど、それそれで本松君あたりが面白がって悪い噂をバラ撒きそうなのでやるわけにもいかない。まあ、この前のLINEメッセージを見た翌日にはスパーで7回ダウンさせたけど。
それにしても先生、ソワソワし過ぎでしょ。さっきからチラチラ時計ばっかり見ているし、早く帰りたいオーラがすごいんですけど。分かっていても、顧問がそういう態度だと私の士気も下がりそうな気がする。
いかんいかん、練習に集中しなくちゃ。周りがどうだろうと、ボクシングは結局自分との闘い……と思ったけど、さすがに男子部員も先生がなんかおかしいことには気付きはじめているみたいで、時々先生の方をチラっと見ている。
ああ、まずいな。こういう状況もそうだし、私もそれに注意を取られて集中力がだいぶ下がっている。こうしている間にも志崎はきっと猛練習しているはず。それを思うと怒りと焦りで叫び出しそうになる。
ずっとコソコソとスマホをいじっている先生が視界の端に映り、これは今日中にでもどうにかしないとダメだと悟った。さっきから「やる気が無いならさっさと帰れ!」と叫びそうになる衝動をずっと堪えている。
たかだかJKの私が自分の親ほどもある先生にそんなことを言ったら大変なことになる。だけど覇気の無いメンバーは部員だろうが顧問だろうがいらない。それも事実だ。
しかし、どういうことよ。つい最近に八村先生と相談したばっかりなのに、状況はその時よりも悪化している。このままでは部員すべての志気に関わりかねない。
そういうわけで、私はまた先生と話し合うことにした。
「先生、この後にあの件で話があります」
決して「お時間よろしいでしょうか」なんていう優しい言い方にはしない。有無を言わせず、喝を入れる。なんならヤキだって入れてやる。
「お、おう……。分かった」
八村先生も鬼モードはどこへやら、私の迫力に少し気圧された感があった。きっと先生も自分の状態を心のどこかでは分かってはいるんだろう。
とにかくここが踏ん張りどころだ。
ここで手を打てないなら、最悪ウチのボクシング部は瓦解しかねない。




