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No.90 ド下手くそ

「ギギギッ、ヂュアァ〜……」


 油ネズミがヒゲを前に向け、抗議するように鳴き声を上げる。


(あー、なんだっけ? こういう『自分が最強だ!』って思ってそうな小動物……)


 素振りの要領で剣を上げ、思い切りネズミに向かって振り下ろす。


 もちろん、小さな体躯のネズミには簡単によけられた。

 ネズミは長い前歯をキラつかせ、ジャンプして後ろから突進。

 僕はテンポ良くそれをよけ、氷剣を横薙ぎにフルスイング。


 かすりもしない。


「あんだけ余裕そうに言ってたくせに、全然駄目じゃん!!」

「僕、剣使うの下手くそなんですよねぇ。先生にも『腕っぷしは強いくせに、剣はからっきしだ』って言われたし」

「じゃあどうしてわざわざ剣を!」


 うん。それは僕も思った。

 でもよくよく考えてみたら、他の武器の使い方なんて知らないし……


「ヂギュウゥゥゥ」


 僕がいかにもやる気のなさそうな突きをくり出すと、飛び退った油ネズミはカチカチと歯を噛み合わせた。

 ネズミの口から火花が飛び、その小さな体を赤い炎が一瞬にして包み込む。


「わぁ、ネズミ花火」


 僕の足元を狙って、油ネズミは執拗に突進を繰り返す。

 対して僕は腰をかがめてネズミを追い、ガンガンと地面に氷剣を叩きつける。


 これじゃあもはやモグラ叩きだ。


(う〜ん……やっぱり知ってるんだよなぁ、こういう小動物……)


 一向に諦めるそぶりを見せず、ネズミはしつこく僕を追い回す。

 走り回るその赤い炎に向かって、僕は氷剣をガンガンガンガンガンガンガンガン…………


 ……駄目だ、やっぱりかすりもしねぇ。


 こうなるといいかげん……


「うざいっ!!」


 ――氷柱――




 プチッ




 ……




 ……あ。


 やっちゃった。




 地面から伸びた一本の氷の柱。

 天井付近を見上げると、氷柱は今や見事に天井の支えとなって突き刺さっている。


 どうしたもんか。

 この柱、解除したくないなぁ……


 ちらりと隣に目を向ける。

 女剣士さんはポカンと口を開け、天井を見上げている。


 カラァァァン……


 その手から鉄製の剣が滑り落ちた。


 まずいな、変な汗が出てきた。


「……」

「……な」

「……?」

「なんだい、これ……」

「……さぁ? 僕にもよく分からないです」


 彼女から目をそらしたまま、魔術陣への魔力供給を止める。

 氷柱は白い結晶をきらめかせながら、空気に溶けるようにほどけて消え去った。


 改めて上を見上げると、汚い赤いスタンプが、ポンと天井に押されている。


(あー……思い出した。ラーテルだ)


 確か地球にはそんな動物がいたなぁ……


 ……ってか、なんでよりによって今思い出すんだよ。


「……反射的に、やっちゃいましたねぇ……」


 女剣士さんの顔がゆっくりとこちらを向く。

 眉根が寄り、口はくの字に結ばれて、その表情は……


 …………おい、なんだその表情は。


「最初から……それで、良かったんじゃないの?」

「討伐するだけなら、まぁ……」


 ……気まずい。


 あれだけ心配されておいて、結果は一撃だ。

 しかも、直前にカスみたいな剣技を見せておいて。


 女剣士さんは落とした剣を拾い上げて鞘にしまう。


「待って、なんとなく見えてきたよ」


 薄暗い道を歩きだして、女剣士さんは考えを捻り出すように言った。


「君、ダンジョンに剣の練習しに来たの?」

「……はい。小遣い稼ぎのついでに……とか、剣のついでに日銭を……とか。……そんな感じです」

「……」


 前を歩いていた女剣士さんが振り返る。

 遠くを見るように少し僕から目線を外して、彼女はつぶやく。


「……剣で戦う方法、基本くらいなら教えてあげようか?」

「え? 良いんですか?」

「本当に基礎だけだよ。それで良ければだけど……」


 女剣士さんが頬を掻く。

 いかにも『期待しないでくれ』と言いたげな目が、今は純粋に嬉しい。

 一人で練習していてもこれは流石にどうにもならないと、うっすら感じてたところだったから。


「ぜひ、お願いします」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 第三階層。

 迷宮チックな第二階層とは打って変わり、そこには木漏れ日さし込む穏やかな森が広がっていた。

 ただし、正確には陽の光ではなく、白く発光する天井からの光だ。

 どこか修練棟の壁に似ているような気もする。


「ここならそこそこ広いし、良っか」


 木の少ない少しひらけたところで女剣士さんは立ち止まる。

 そして僕にまた氷剣を作るよう促した。

 とりあえず僕は指示に従い、さっきと同じサイズで氷剣を作り直す。


「じゃあまず、素振り見せて」

「はい」


 僕は女剣士さんの見るまえで、何度かブンブンと素振りを繰り返す。

 授業でガイウス先生に教えられた通り、脇を絞めてまっすぐ剣を振り下ろす。


 ブレが出ないように、剣先をしっかり意識したまま……


「う〜ん……」


 女剣士さんは腕組みをしてうなる。


 何か悪いところがあったのだろうか?


「型はちゃんと出来てるように見えるんだけど……」


 女剣士さんはいろんな方向から、じっくりと僕の素振りを観察する。

 そしてまた、首をかしげてうなった。


「素振りは普通に上手いんだけどなぁ……」

「そうですか?」

「うん。体の軸にブレも無いし」

「それは、たぶん……先生が良いんです」


 女剣士さんがふと顔を上げる。


「へぇ。誰なの?」

「ガイウス・ゼクスターっていう魔人族の先生で……」

「――――ガ!?」


 突然、女剣士さんが目を見開いて固まった。


 ……え? 何?

 あの人、有名なの?


「知ってるんですか?」

「……知ってるも何も……」


 女剣士さんはいかにも興奮した様子で腕を激しく上下に振る。

 そしてその勢いのままに、ダンと強く僕の両肩に手を下ろした。

 痛い。


「『剣鬼』ガイウスと言ったら、冒険者で知らない人はいないよ!!」

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