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No.86 児戯

「めったにない機会なので、他の四人もよく見ておいた方が良いと思いますよ。闘いの空気は肌で感じるだけでも勉強になります」


 ヨセフ先生はみんなの前に立ち、遠まきに僕とエレオノーラの姿を見つめる。

 普段は後ろ手に組んでいる腕が、今は体の横に垂れている。

 万が一に備え、いつでも魔術を発動出来るように。


 準備は万端って訳か。

 事故が起こらないように配慮するから、全力でやれと。


 ふむ……


「一応言っておくけど、最初から本気でいくから」

「ふぅん。本気ねぇ……」

「……馬鹿にしてるの?」

「別に。ただ口に出すくらいならやってみれば良いじゃん。僕はお前がどれほど強いかなんて知らないんだから」

「……」


 目の前にはエレオノーラ。

 五メートルほど離れた位置から、か細い殺気が僕に飛ぶ。


 いくら天才王女とはいえ、あまりに未熟。

 ガイウス先生の足元にも及ばないな。


 さっき先生が僕以外なら死んでたと言った意味が、少し分かったような気がする。


「両者、準備はよろしいですかな?」

「無論です」

「僕はいつでもかまいませんよ」

「よろしい。それでは……」


 白い空間に静寂が満ちる。

 自分の呼吸音すら消し去るように、ただ、相手を見つめる。


「…………始め」


 合図が出された。

 瞬間、エレオノーラが胸に手をあて、魔力を強く込めて叫ぶ。




『竜人化!!』




 白い魔力が爆発した。

 魔力の光がエレオノーラの元に再び集まり、彼女の姿を『人』から逸脱させていく。


 背に生える二枚の純白の翼。

 両手の指先から伸びる鋭い鉤爪。


 確かに、それは僕らと同じもの。

 だが…………


 尾がなければ、ツノも、頬に浮く鱗も無い。瞳も人間のもののまま。

 血が混じっていようが、所詮は……人間。


「ふぅっ!」


 地を蹴り、翼を広げ、エレオノーラが飛翔する。

 上から襲って有利に事を進めようって魂胆か。

 なるほど。面白いじゃないか…………




 ――――偽物が。




『貫キ、燃ヤセ、炎ノ雨ヨ。一切合切ヲ灰燼ニ帰サスハ朱ノ槍』




 エレオノーラの詠唱に合わせ、赤々と燃える数多の炎が僕の頭上を支配した。

 エレオノーラの姿を隠し、この白い空間を全て赤く塗りつぶさん勢いで輝く、幾万幾億の炎の針。

 その全てが一斉に僕めがけて走る。




 ――氷結牢 自戒――




 スッと指を動かし、空中に陣を描く。

 周囲の温度が急激に低下する。吐く息は白く、僕の体は氷の檻に閉じ込められた。

 炎の針は、僕の体に触れる前に冷気に姿を保てず霧散する。


 とはいえ魔法と魔術。こちらの方が少し分が悪い。

 始めのうちは防げても、徐々に氷が融解する。


(まぁ、このままだとそうなるだろうね)


 氷点下の檻の中で次の一手を考える。

 空間を立体的に使える分、機動力はあちらの方が上。単純な攻撃だとよけられておしまい。

 かといって広範囲攻撃を仕掛けようにも、どうしても魔術では威力が限られてしまう。




 さて、どうするか……




 ジュウゥゥゥ……


 そうこうしてる間にも、氷の檻は容赦無くは溶かされていく。

 赤い炎が眼前に迫る。

 時間はあまり無いか。


 だがまぁ良い。

 ここはひとまず……




 ドォォオン!!




 檻が破られ、雨のように降り注ぐ炎がついに爆ぜた。

 氷で青かった視界が一瞬で赤く染まる。




 ……さて、混じり者の魔法がどれほどのものか……まぁ、こんなもんか。

 確かに熱い。でもそれだけだ。

 この程度では、僕の薄皮一枚剥がす事は出来やしない。


 それに比べて、あのラクレアリスの光の矢。

 とうに首の傷は癒えた。でも、あ〜れは痛かったなぁ。


「なっ」


 煙が晴れ、天井近くでエレオノーラが両目を見開く。


「それでおしまい?」


 ――氷柱――


 足元に敷いた魔術陣から六角柱の氷がせり上がる。

 周囲にもいくつか同じ陣を敷き、同時に発動。

 ただの氷の柱。そのうちの一本が、僕の体を上へと押し上げる。


 攻撃力など無いに等しい。

 だが、エレオノーラの地の利を殺すにはこれで充分。


 氷を蹴り、エレオノーラに淡く光る魔術陣を向ける。


 ――黒曜穿牙――


 陣から放たれるは黒曜石の刃。

 肉などたやすく切り裂く黒刃が、至近距離からエレオノーラの首を狙う。


 常人ならばまず間違い無く致命の一撃。

 しかし相手はエレオノーラ。そう簡単にはやられてくれない。

 エレオノーラはすかさずレイピアを抜くと、横薙ぎに一閃した。


 折れやすい細身の刀身とはいえ、黒曜石はもろい。

 レイピアの軌道をなぞるように黒刃ははじけ、半透明のガラス質の破片が散らばる。


 接戦虚しく奇襲は失敗……




 ……いや、防がれる事自体は想定内だ。

 防がれる上でこの術を選んだんだから。


 いかに細かく砕かれようが、黒曜石の鋭さは健在。

 むしろ破片はより薄く、より鋭利に研ぎ澄まされる。


「……!!」


 速度はそのままに、エレオノーラに漆黒の破片が飛びかかる。

 腕を、脇腹を突き刺し、目の下をかすめて頬から赤く血がにじむ。


 こいつを砕いたのは悪手だったな――


「うぐっ!」


 下腹部に衝撃。身をひるがえしたエレオノーラの足が、僕の腹に突き刺さる。


 くそっ、油断した。

 近くの氷柱につかまって、ここはいったん体勢を立て直して……


(あっ……)


 氷柱をつかもうと伸ばした右手が空を切る。

 尾が無いから、空中で姿勢制御がしづらくて……




 ズドォォン!!




 エレオノーラと僕、ほとんど同時に地に落ちる。


 しくじった。

 頭から落ちたせいで脳が揺れる。


 しかし向こうも無傷じゃない。

 だが、だからって大丈夫だとは言えない。

 よろめきつつも立ち上がるエレオノーラが目に映る。


 流石に驕りすぎたか?




 ……負けたくない。




 さぁ、次は?

 どうする…………

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