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No.83 ややこしいわ

 顔を撫でる風のこそばゆさで目が覚めた。

 緑のハトが、首を曲げて僕の顔をのぞき込む。


「クルゥ」

「……お前、また来たのか。なんだかずいぶんと久しぶりだな……」


 ベッドの上で上体を起こすと、ハトは迷いなく僕の頭に飛び乗った。

 ズシリと首にのしかかる重みが懐かしい。


「そうだ……夢を…………」


 断片的に、声と映像が脳内に再生される。

 今度は覚えている。

 内容も、血の臭いも、最後に聞いたあの声も……


 これから何をするべきかは、もう分かっている。

 “僕”の忠告通り、『愚者の指輪』に宿るものには用心する。


 だが、一つ分からないのは、全ての因果の終着点。


 深い。

 真っ暗で底が見えない。

 分からないのに惹かれてしまう。




 ……これは、本当に僕自身の意思なのか?


 それとも……




「ポー……」

「……何?」

「グルゥゥ……」


 ハトが翼を広げて僕の頭をバシバシ叩く。


(……?)


 ふと、窓に映った自分の顔に目を向ける。


 右目から頬を伝い、したたり落ちる涙。

 僕は、いつの間に……


 ……全然気がつかなかった。


「あぁ、ありがとう。こんな顔、誰にも見せられないから。助かったよ」

「プフゥ〜」


 ハトは僕の頭の上で誇らしげに胸を張る。


 ……柔らかい。

 自由だ。

 こいつのこの態度には、憂鬱な気分もどこかへ飛んで逃げてしまった。


 服の袖で涙を拭う。

 同時に、腹の奥から笑いが込み上げる。


「はは…………あはははは、くふ……はははははは!!」


 足をバタつかせてベッドから転げ落ちる。

 急に足場がなくなった事に驚いたハトが宙を舞う。


 抜けた風切り羽がゆっくりと弧を描いて木の床に落ちた。

 たったそれしきの事でさえ、今は異様に面白く感じた。


「ゲホッ、うぐぅ〜……ははっ、あっははは!!」




 ――バンッ!!




「朝っぱらからうるっせぇぞ!!」


 突然、部屋が揺れるほどの衝撃音と共にドアが開かれた。

 寝巻き姿のメルトが怒号を上げる。


 たった今僕の笑い声で叩き起こされたのか、寝グセも直さず、後ろ髪がピンと立ったままだ。

 公爵令息はたいそうご立腹の様子。

 ってか、黄色髪が朝日でテカって……


 ……ッう、もう無理――


「ぶっ、はっw、ヒィwwwwww」

「何をそんなに笑ってんだ! 気でもふれたか!?」

「ポー!!」

「うわっ、ちょ、ハットッ……」


 部屋の中を飛び回っていた緑のハトのクチバシが、メルトの頬に突き刺さる。

 びっくりしたハトは今度は逆回転で部屋をぐるぐる。

 そして恐ろしい事に、こんな状況でもまだラーファルは隣のベッドで夢の中。




 ――まさに、カオス。




「wwww、助けてw、メルトww、止まんないwww」


 メルトは頭を掻きむしり、よろよろと床にしゃがみ込む。


「…………あぁ〜……あぁあ゛ああ!!」


 あぁ、くそ、こりゃもう駄目だ。

 メルトまで壊れっちった。


「何? 何? なんの騒ぎ……メルト様!? どうされましたか!!??」


 最悪だ。もっとややこしいのが来てしまった。


 サイラスよ、首輪が取れなくなった理由は知ってるし、僕にも責任がある以上、それをとがめる資格は僕には無いよ。


 だがね……


 それとは別にだね……




 ――お前はなぁ! 服を着ろよ!!




 この馬鹿のおかげで、もともとカオスだった構図が最悪だ。


 どうしてくれんだこの地獄!!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あの狂った部屋からどうやって僕が脱出したか。

 ……ラーファルが起きてから自然に収束していったような気がするが、ぶっちゃけあんまり覚えていない。


 ただ寮を出る前に、上裸のまま外に行こうとしたサイラスをメルトがぶん殴った事は覚えている。

 サイラスは鼻血を出して気絶した。

 その顔が若干笑ってたような気がする。

 気持ち悪い。


 結果、僕達はギリギリ始業に間に合ったが、サイラスは見事に遅刻した。

 ルルス先生のあのドブネズミの死骸を見るような目は、流石のあいつでも一生忘れないだろう。




 だがまぁ、それは余談だ。




 時は進んで放課後。


「第一修練棟……ってここか」


 学園の白い、巨大な豆腐のような見た目の建物が整然と並んだエリア。

 そのうちの一つの前で、僕は足を止めた。


 終業時にルルス先生から、『闘技大会の代表は、放課後第一修練棟へ向かうように』と連絡があった。

 先生は『昼食は済ませてからで良い』とも言っていたが、修練棟が何か気になった僕は、メルトとラーファルとは別に早めにここへ来た。


 今日の昼食は出店で買った肉串一本。

 必要無いとはいえ、食事は至高の娯楽。

 もちろん忘れる事は無い。


「それにしても、どうやって入るんだ?」


 そう、それでここまで来たは良かったんだ。

 だが困った事に出入り口が見当たらない。


 いや、入り口はおろか窓の一つすら無い。

 それも第一修練棟だけでなく、第二、第三、第四……見渡す限り全て。




 ……は?




「おぅ、お前、早ぇなぁ。まだ終業から三十分しか経ってねぇじゃねぇかぁ。」


 後ろからの気だるげな声に振り返る。

 目の前に立っていたのは、白髪を風になびかせた赤い魔眼の魔人族。


「ガイウス先生」

「ヨセフ先生もいますよ」

「――ひぎゃあ!!」


 まばたきをして目を開けた瞬間、ガイウス先生の後ろから老爺が飛び出した。

 反射的に体がすくみ、思わず変な声が出る。


 今ので、前世の僕の死因のタイヤを思い出した。

 心臓が激しく胸を叩き、無意識に左手がちゃんと頭がついているかを確認する。


 あれ、結構しっかりトラウマになってるから。

 本気で、やめてほしい。


「遊ぶなジジイ」

「はは、何、ちょっとからかってみただけですよ」

「やめろ」


 ガイウス先生はヨセフ先生をジトとにらみつける。


 しかしヨセフ先生はにこにこと動じない。

 なんと言うか、絶妙な距離感だ。


 この二人、かなり年は離れているように見えるが意外と仲は良いのか?

 魔人族の血を引いている者同士、という事なのか……




 ――うん?


 片や半魔、片や純血魔人。

 人間は、種族によって結構寿命が違っていたりする。




 …………この二人、一体実年齢はいくつなんだ?




「ところでお前、たかがこれしきで驚きすぎじゃぁないかぁ? 老いぼれジジイの遊びだぞ」

「え?」


 ガイウス先生から、予想だにしていなかった方向からの疑問が飛んだ。


 まさか、なまじ僕が竜だと知ってるだけに、これの程度で驚くはずも無いだろうとか思っているのか?

 


 いやまぁ、そう思われる理由は分かる。

 サイラス誘拐事件の時は、あれでかなりシリアスな状況だったから、ずっと気を張っていた。

 あの時の僕だけを見ていたら、うん。まぁ……


 でも別に僕だって何に対しても動じないって訳じゃ……


 それに、今のに関してはまた別の問題で……


「……これには、深い事情がありまして」

「……そうか」


 とりあえず、キリッとした表情でなんかそれっぽく返してみた。


 だって、竜だって事はともかく、前世うんぬんの話は誰にも、それこそ父さんにだって話せないもん。


 これは僕だけの秘密だ。

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