No.81 追憶の因果より
支部長から僕達にギルドカードが返された。
机の上に置かれたカードを、三人それぞれ手に取る。
「一人ずつうかがいます。」
最初に支部長が目線を向けたのは、ラーファル。
「鳥獣人とは珍しいですね」
「そう……ですか?」
「ええ。やっぱり、哺乳類系の獣人が圧倒的に多いものですから。ちなみに原種は?」
「ハヤブサです」
「なるほど……」
サラサラとメモをとる支部長。
速い。その上字が綺麗だ。
それにしてもラーファル、やっぱりすぐにはハヤブサだって分かってもらえないのか。
これがイヌ、ネコ、ウサギといった類の動物よりもマイナーな種である宿命か。
しょうがない……とはいえちょっとかわいそうだ。
超希少存在の僕が言えた事ではないが。
なんせ、今現在竜は五人しかいない。
いや、五匹か?
……どうでも良いか。
さて、今はラーファルの事に集中。
僕の事は後回しだ。
「力、俊敏性が共にS、他の評価も軒並み高いですね。もしかしてあなた、『古代種』ですか? あの、霊獣を祖先にもつと言う……」
「あ、はい。そうですよ」
即答。
はい? ナンダッテ?
「やっぱりですか……」
支部長は特に驚く素振りも無くメモをとり続ける。
いや、『やっぱりですか』じゃねぇよ。
こちとら初耳だよ。
なんだよ、古代種って。
「ラーファル。君……え? 何? 古代種?」
「あぁ、そういや言ってなかったっけ。僕の先祖の事」
ラーファルが僕から少し目をそらして頬を掻く。
あれだけ僕に対して『何者?』とか聞いておいて、なんだ、君もじゃないか。
何者なんだ君は?
「通りで潜在能力評価が高い訳ですね。先祖の名前は伝わっていますか?」
「……すみません。資料が禁書指定を受けてしまったらしくて、もう分からないんです」
申し訳なさそうに目を伏せるラーファル。
何かを隠しているといった様子には見えない。
本当に、それ以上は何も知らないのか。
一方の支部長は少し残念そうな目をしながらも、やはりメモはとり続ける。
「ありがとうございます。では、次にあなたを」
一呼吸ついて次に支部長が目を向けたのは、メルトだ。
支部長は胸に手を置き、メルトに対して恭しく頭を下げる。
メルトはそんな彼女を、ただ黙って見つめている。
「トルグイネ王国、キングスランド公爵家嫡男メルト様。あなたの事は、一ギルド支部長としてよく存じ上げています。直接お会いしたのはこれが初めてですが」
「あぁ…………どうも」
自分の肩書きに複雑そうな表情を浮かべつつも、メルトは支部長の礼に礼で返した。
サイラスの次くらいに忘れそうになるが、やっぱりこいつは貴族なんだ。
「キングスランド家が祖、“竜殺しの英雄”カリオストロ・アルブラム。彼の偉大なる錬金術師は、頭脳、魔力、身体能力、その全てが人間離れした人物であったと音に聞きます。その直接の血脈ともなれば、やはりこの評価も当然なのでしょう」
支部長のその言葉に、メルトの口元がピクリと動く。
「俺は……特別なんかじゃ……」
そう言いかけてメルトは口をつぐんだ。
『特別じゃない』と、そう言おうとしたのだろうが、公爵家嫡子としての立場、世界的な名門校でAクラスに所属しているという事実。
それをさしおいて自分は特別ではないと言い張る事は出来ない、と、気づいたのだろう。
やっぱりメルトはすごいよ。
僕達は知っている。
なぜこうも、メルトが自分を卑下するのか。
メルトは自分の存在が、異母兄アクトを苦しめているのだという事について、ずっと自責の念を抱えている。
でもそれはメルトのせいじゃない。
メルトとアクト、双方を知っている僕には、この二人がお互いに首を絞め合っているような現状が、不自然に見えて仕方がない。
「私とて、必要以上の事は詮索いたしません」
支部長の声がぽつりと落ちる。
見ず知らずの他人の、心の内側に踏み入る事。いくら仕事であったとしても、決してしていて気分の良いものではない。
嫌な役回りだ。
それでも彼女は僕達に聞く。
それが『必要な事』であるが為。
「ですが、今しばらくはお許しください。仮にあなた一人であったとすれば、わたしもここで呼び止めるという事はしなかったでしょう。今回ばかりは……おかしいのです。妙な因果が働いているとしか思えない」
支部長は困惑の宿った山吹色の瞳を僕に向けた。
彼女の言葉がいまいちつかめない。
「今ではもう、あまり知られていないかもしれません。カリオストロ・アルブラムには、かつて冒険者としてバディを組んでいた無二の友がいたそうです」
「……え?」
メルトが目を見開く。
こいつでさえも知らない情報を、彼女は知っている。
いや、おそらく彼女ではなく冒険者ギルドがだ。
ギルドの記録にたまたま残っていただけなのかもしれない。
そうだとしても、子孫の公爵家がその存在を知らないだなんて、そんな不自然な事があるだろうか?
それは果たして、時の流れにかき消えたのか、はたまたラーファルの祖先の時ように、誰かが“消した”のか。
うなずき、支部長は小さく息をつく。
「実は……あなたで二人目なのです。冒険者ギルドの歴史において、あの装置が『測定不能』と判断を下したのは、あなたが現れるまでただ一人だけだった」
「その一人とは……?」
ほとんど反射的に僕は尋ねた。
なぜだか異様に思考が定まらなくて、強迫観念にも似たある種の興味が、頭の中で反響している。
誰だ?
その『一人』とは誰だ?
誰の事を言っているんだ?
……いや、僕は知っている。
でもまさか。
そうだとしたら、なぜ……?
カリオストロ・アルブラムが生きた時代は、今からおよそ九百年前。
辻褄はあっている。
……本当にそうだったとしたら?
「その彼こそが、かつてカリオストロの親友であったもう一人の“孤高の天才”……」
支部長の声が頭に入ってこない。
何があったら、そんな事になるんだ。
九百年もの途方も無い年月の間、あなたは一体、一人で何を抱えていたんだ。
時折見せるあの哀しそうな表情は、何を思い出してのものなのか……
…………ねぇ、教えてよ。
「彼の名は、“幽玄の魔術師”アリオト」
――――父さん……




