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No.59 赤の試練

「ここまで来たならば、当然、今やらなければならない事はお分かりよね?」


 女はパチンと指を鳴らす。

 すると彼女の両隣に『穴』が現れ、中からそれぞれ一体ずつ。合計二体の人形が引きずり出された。


 女の目が大きく見開かれる。

 ピリピリとした殺気が、ゆっくりと周囲に満ちていく。


 『やるべき事』だって?

 ああ。当然分かっているさ。


 もう言葉はいらない。


 お前が、僕に何を求めているか。

 そんなのどうだって良い。

 どのみち、今からやる事に変わりはない。


 お前は、僕に……




 ——『戦え』と、言うのだろう?




「本気で来なけりゃ殺すわよ」


 女の指がピクリと動いた。

 それを合図に、人形達がこちらに向かって駆け出す。


「ハッ。はなからそのつもりだよ!!」


 先輩とサイラスはいなくなった。

 先生は僕の正体を知っている。


 そして……“あれ”が夢だろうが現実だろうが、もう確信した。


 竜言語魔法。

 どことなく、父さんに似たこの気配……




 この女は、間違いなく同族だ。




 もう、出し惜しみをする必要なんて無い。


 全力で叩き潰すのみ!!




 鉤爪をむき出しにし、人形の一体に飛びかかる。

 

 小手調べだ。

 とりあえず、まずは一発、ぶん殴る。

 渾身の力を込めて……




 ゴンッ!!




 人形の額を打つ。

 鈍い音。衝撃波と共に、人形は真っすぐ後ろへと吹き飛んだ。


 軽い。発泡スチロールで出来た箱みたいだ。

 でも……


「あ゛あ゛! かったいなぁ!!」


 クレーターを作り、壁にめり込む人形。しかしその体には、傷一つついていない。

 すぐさま体勢を立て直し、再びこちらへ突撃して来る。


(チッ、ダメージゼロか。戻って来たところにもう一発……)


 人形に向かい、再び拳を振り上げる。

 アイツが戻って来る時のスピードとの相乗効果で、今度こそ、ヒビくらいは入れてやる。


 近づく人形。拳が届く間合いまであと少し……


「ぐぁっ!?」


 左頬に、鈍い痛みを感じた。


 よろめきつつ見ると、視界の隅で、二体目の人形が回転しながら地面に着地する。


「くっそ、一体じゃないんだったな……」


 休む暇なく襲い来る、人形達からの挟撃。

 一体を弾き飛ばそうとしても、その隙にもう一体からの攻撃が飛ぶ。


 何度迎え撃とうと、攻撃の勢いは止まらない。

 なにせこいつらは人形。魂無き『物』だ。


 僕と違って疲れを感じなければ、痛みを感じる事も無い。

 なおも攻防は続く。


 殴って、蹴り飛ばして、殴られては爪を振り下ろす。


 距離が近すぎて、魔術を使う暇もない。

 魔法を使おうと何度か試してみたが、その度に顔を殴られ邪魔される。


(これじゃあキリが無い。いったん下がって距離を……)


 タンと地面を踏み、跳んで人形から距離をとる。


 僕を追いはせず、動きを止める人形。

 その奥で、女は楽しそうに笑っている。


「お気楽そうに……高みの見物か? あのピンク髪は何だったんだよ? こいつら、あれと全然スペックが違うじゃないか」

「ふふん。最初に見せた子と違って、この子達はそう簡単には壊れないわよ。なんせ、戦闘用の特別製だから……ねっ!」


 すると女は、グンと強く手を引いた。

 見えなくても分かる。あの手には、魔力の糸が繋がっている。


「私のかわいい人形ども。さぁ、化物退治よ。壊れてでもやれ!!」

「「了解、主様。魔力暴走命令を確認。魔術陣、『氷柱姫(ひょうちゅうき)雷鳴姫(らいめいき)』を展開します」」


 酷く冷たく、機械的な声。

 瞬間、人形達の内から、魔力が膨れ上がるのを感じた。


「ふはっ、これはヤバそうだ」


 ——紺青(こんじょう)の業火!!——


 空に魔術陣を描き、バチバチと音をたてる人形に、青い炎を放つ。


 嫌な気配がビリビリする。

 あの女、今度は一体何をした?


 どうせ、ろくでもない事だと言うのは、疑いようもない。

 何とか発動前に焼き尽く……


「んなっ、」


 青色の炎が、二体の人形を包み込む。

 決して手を抜いてなどいない。

 僕は、本気で消し炭にするつもりで魔術を放った。


 なのに……


 炎の中で、ゆらりと人形の腕が動く。


 空気が切り裂かれるような音。

 同時に炎は、僅かな光を残して掻き消えた。


「さっきまでとは訳が違うわよ。たかが魔術でどうにかなるかしら? 人の真似事で、この場を切り抜けられるとでも? 甘ったれるなよ、ガキ。本気で来いって言ってるでしょ?」

「……ずっとこっちは本気だっての」

「へぇ。その姿のままで、よくもそんな事が言えるわね。アイツの息子ともあろう者が!」


 くいと女の指が動く。

 それを合図に、ドレスを揺らして人形達は走る。


「ああーもう!!」




 ——イライラするなぁ!!




 心の中で僕は叫ぶ。 

 ずっと、女の手のひらの上で転がされているようで、無性に腹が立つ。


 けれどもここで何を言ったとて、状況が変わる訳でもない。

 いや、むしろ酷くなった。


 あの女は、人形に『壊れてでも』と言った。

 つまりあれは捨て駒。

 もし懐に潜り込まれて、自爆でもされたらどうなる?


 あの魔力の密度。たとえ僕であろうと、無事でいられる保証は無い。


「しょうがないから乗ってやるよ! その代わり、そいつらは絶対にぶっ壊す」


 人形の一体が、氷の槍を手に襲い掛かった。


 確実に目を狙った攻撃。

 それが届く直前に、翼を広げて飛翔する。


「なに、やれば出来るじゃないの」

「うるせー。どうせこの程度、想定済みだろ」


 これで地の利を得たとは、少しも思っていない。

 広いとは言え室内。上に行くにも上限がある。


 どうせすぐに対策される。ならば……


『星ヨ、汝二縫イ留メヨ』


 こちらが先に仕掛けるのみ!




 僕を見上げ、人形達は、地を蹴り跳び上がろうとする。

 だがそこに、重く重力がのしかかる。


 このまま潰れてくれれば最善なんだが……


「……ふむ。子供にしては、なかなかの威力。」




『星ヨ、拒絶セヨ』




 ……まぁ、そう上手くはいかないよな。

 同じもの(魔法)が使える、同族相手には。


 魔法は打ち消された。

 軽さを取り戻した人形が、変わらぬ顔で起き上がる。


 だけれどその時。

 彼女達の球体関節がギシリときしむ音を、僕の耳ははっきりとらえた。

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