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No.99 つかみどころ

 周囲の喧騒がノイズとなって、耳から入っては抜けていく。


 人は入れ替わっても、景色はずっと変わらない。

 ただそれは、周囲にいる人々が、基本的に僕にとって『知らない人』だからだ。


「あれ……え? 置いてかれた?」




 ラーファルが、消えた。




 友達が人ごみの中でこつぜんと消えて、一切動揺しない人は一体どれほどいるだろうか?

 僕の知る限り、ここは“普通の感性”を持っている人間なら、間違い無く混乱するところだ。


 そして僕は竜でありながら“まともな感性”を持っているので、今、非常に動揺している。

 異論は受け付けない。


「何? 一緒にいた君の友達?」


 ゼムルードは腕を組んで首をかしげる。


「さっき、もう一人の君と仲の良い……ほら、あの黄色髪の子が来ててさ。その子が腕引っ張ってどっか連れてっちゃってたよ」

「気づいてたなら言ってくれよ!!」


 メルト、よくこんな人ごみの中で僕達を見つけて……


 って違う!

 なぜ……なぜ僕だけ置いていった?


 僕がゼムルードと話してたからか?

 僕が知らないやつと、わざとじゃないとはいえ、ラーファルをハブって。




 ごめん、ラーファル!!




「あー……たぶん、俺のせいだね。ごめ〜んね☆」


 ゼムルードは僕の顔をのぞき込むようにして身をかがめ、その男だか女だかよく分からない顔で思いきりピースを作ってみせた。


 ほんっとに…………何だ、こいつ。


「お前ぇ……」

「あぁー!! ごめんごめん。冗談だって、マジでさ。だからその顔やめてくれよ!」


 顔? 僕の顔がどうしたって?


 どうせ過ぎちゃった事は仕方がないし、ラクレアリスの話では共感するところもあった。

 だから特別に許してやろうと思っただけじゃないか。


 ほら、目に入らないか? この聖人のような笑顔が。


「やっとお前に会えたのが嬉しくて、ちょっと調子に乗っただけなんだよ! 悪気は無かったんだって! だから本当にその顔やめて、ね。もう、怒り方がアリオト様そっくり……」


 おい、何を勝手に背を向けているんだ?

 さぁ、改めて二人でゆっくり話そうじゃないか。

 どうせこの後の予定も、()()()()()()()()()のだから。


 さっさと退散しようと足を踏み出したゼムルードの、服の襟の部分を手を伸ばして捕まえる。


「グェ」


 一瞬ゼムルードの体がビクリと硬直した。


 そうだ。

 逃してたまるか。

 僕を暇にした罪は重いぞ。


 罰として、僕が飽きるまでつき合ってもらおうか。


「友達がどっか行っちゃって寂しいんだ。だから、代わりに一緒に遊ぼうよ」

「ねぇ~それ絶対怖いやつでしょぉ? 俺“と”遊ぶんじゃなくて、俺“で”遊ぶんでしょぉ? それなら遠慮しようかなぁ……」

「心外だなぁ。ラクレアリスじゃないんだから。僕はただ、()()として一緒にお祭りを楽しもう、って言ってるだけじゃないか」

「いやいやいや……」


 ゼムルードの尻尾がバタバタと足にかする。

 ちゃんと全体がフサフサしてる。

 幻かなにかの類じゃない。ちゃんと実体としてある。


 どうなってるんだ、一体。


「他意は無いんだけどなぁ」


 ぶっちゃけて言うと、正直、そんなに怒ってない。

 寂しいってのもマジだ。


 前世はぼっち、今世もつい最近までは父さん以外との交流は無し。




 ――つまり、ぼっち歴トータル二十年オーバー。




 まぁ、前世は表面上人と話す事はあったが、それだけでは友達とは言わない。


 やっと友達が出来たと思ったらこれだ。

 なんたる仕打ち!

 これを悲劇と言わずに何と言うか!


 悲劇とは怒るものじゃない。悲しむものだ。




 ……泣くぞ?




「あー……やっぱりちょっと許せないかも」

「ちょちょちょちょ、どうして急にそうなるの。油断させておいてそれは無いよ~」


 ぐっと腕に伝わる力が強くなった。

 服が自分の首を絞め上げるのもお構いなしに、ゼムルードは僕から逃れようと前に体をかたむける。


 どれだけ必死なのか、すごい力だ。

 僕だったから良いものを、これ、下手したらラーファルでも引きずられてるんじゃないか?


「分かった分かった! 誠意を見せるから! 君の知りたい事一つ教えてあげるから、離してよぉ」

「……何を?」


 パッと手を離すと、勢いのままにゼムルードはつんのめった。

 地面スレスレで上体を起こし、僕を振り返る。


「ハァ……もう、殺す気かよ」

「死なないだろ? その程度じゃ。人間じゃないんだから」

「言うねぇ。でもま、おっしゃる通りで」


 首を一度ゴキリと鳴らし、ゼムルードは僕から目をそらした。

 水色の瞳に、行き交う人々の姿が反射する。


 本当に、竜というものは何を考えているのか分からない。

 都合が悪くなったから目を合わせられなくなったのかとも思いはしたが、たぶん、そうでもない。

 現に、ゼムルードの両耳はピンと立ってこちらを向いている。


 視線をそらしただけで、表情に変化は無い。


「で? 何を教えてくれるって?」


 ゼムルードの左耳がピクリと動く。

 目の前の獣人に化けた緑竜は、ほんのわずかに唇の端を上げると、まっすぐ前に視線を戻した。


 身長差のせいで目は合わない。

 ゼムルードは僕の目の下あたりを、遠く、どこか遠く見つめている。


「君、と言うより、()()と言った方が正しいかな」


 大勢の人々のざわめきの中でも、その独特な少年のような声は、異様によく通って聞こえた。


 ゼムルードの視線が上がる。

 僕を見上げて、緑竜は牙ののぞく口で言葉を紡ぐ。


「知りたいんだろ? 一切の正体が分からないままで、どうやって『愚者の指輪』を捕らえようものか」

「――お前……」

「ああ、情報については信頼してくれよ。だって――俺は、その為にここに来たんだから」

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