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No.98 ラクレアリスを許さない!!

 一体何を言っているんだ?


 僕は誰かの弟になった覚えは無い。

 そもそも見た目が違いすぎる。


 孤児院だのの出身でもない限りは、『獣人と人で兄弟です』は流石に無理がある。

 僕はそういうのじゃないし、人間に兄弟だのなんだのがいるはずが無いんから…………




 ――ん?




 ちょっと待てよ……


「んん? どうしたの?」

「良いから……」


 僕はそいつ――ゼムルードの腕をとり、ラーファルから少し距離をとる。

 そして、ゼムルードの耳元でささやく。


 耳……いや、耳、ここで良いのか?


「もしかしなくても同族?」

「ああ。そうだね」


 ゼムルードは躊躇いもせず即答した。


 ちらりと横目でラーファルに視線を送る。

 ラーファルは不思議そうな顔をしながら、尾羽を上下にゆっくりと揺らしている。


 大丈夫だ。

 こちらの会話は、祭りの喧騒にかき消されて届いていない。


「俺は『緑竜(エアロバルテ)』だよ」


 ゼムルードは手の上のハトを僕の上に移動させると、すっと片手で目元を隠した。

 流れるように自然な動作でその手をどけると、下から現れたのは……




 ――エメラルド色の虹彩に、細く縦に割れた瞳孔。




 それは、同族しか持ち得ない目。

 ゼムルードが僕に己の正体を証明するには、たったそれだけで充分だった。


 ゼムルードの目は、もうすでに元の水色の丸い瞳に戻っている。


「ね」


 『ね』って何だ。


 別に疑っちゃいなかったよ。


「どうしたその顔。警戒しなくても良いのに。あ、もしかして何かされるとでも思ってる? それなら心配しなくて大丈夫だよ。どうせ何も出来やしない。今の君でも、本気出せばギリギリ俺より強いよ」

「……何もしないだなんて…………信じられないな」


 前に他の竜……ラクレアリスに会った時は、本当、ろくな事にならなかった。

 あれとゼムルードが同じだとは限らないが、違うという根拠も無い。

 おまけに、現状僕にとってゼムルードは『初対面でいきなりなれなれしいやつ』だ。


 こっちは相手について何も知らないのに、向こうは僕の事を知っているときた。

 逆に、これで『信用する』なんていうやつがいたら、そいつは一体どれだけお気楽な思考をしているのだろうか?


「え~? やっぱり駄目?」

「いや、むしろどうして信じてもらえると思ってるのか」

「うっわまともな意見。そんな事言われたら言い返せないじゃん。まぁ、俺もそうは思ってないんだけど」


 なんだそれは。めちゃくちゃじゃないか。

 確実に失敗するって分かりきってたんなら、結局何がしたかったんだか。


「ただ安心はしたよ。これで『信じる』なんて言われてたら、一体どうしようかと…………うん、それも無いな。だって前にアリスに会ってるんだもんな。じゃあ心配も何も無かったか」

「……アリス?」


 ゼムルードの顔からすんと笑みが消えた。


 完全に“無”の表情。

 目も死んでいる。


「そう、ラクレアリス。あの性悪、いびり魔、ゴミカス悪辣クソ女」

「ッポー!!」


 ゼムルードの言葉に賛同するように、僕の頭の上で緑のハトが元気良く鳴き声を上げた。


 いや、僕もあいつにはイラッときてるけど、流石にボロクソ言うなぁ。

 そういえば、あの時僕と先生が地下から出られたのは、こいつがラクレアリスの顔に激突したからだったっけ。

 どうやってあんなまともな入り口の無いところに入ってきたのかと思ったら、ゼムルードが送ってきてたのか。


 具体例にどうやったかは知らないが、それなら納得だ。

 ハトを見た時の、ラクレアリスのあの反応も。


 って事はあいつの言ってた『本当に性格の悪い』とはゼムルードの事か。

 二人して似通ったけなし方して……どんだけ仲が悪いんだ。

 喧嘩するほど仲が良いとも言うが、これは絶対に違う。


 あぁ……これはいかんな。

 殺気が。アクト先輩やガイウス先生とは、また違ったタイプのやつだ。


 でも、あれをこれだけ嫌悪しているようならまぁ、大丈夫だろう。

 ラクレアリスとは違う。

 信用に値する……


 …………の、かもしれない。


「ところで」

「何?」


 む、切り替えが早いな。

 なんで一瞬で笑顔に戻ってるんだよ。


「僕の事、弟呼ばわりするのは何なの?」


 ゼムルードは笑顔のまま首をかしげる。


「ああ!」


 と思ったら、今度は顔を上げる。

 そして一歩こちらに近づくと、どこか慈しむような目をして、ゼムルードは僕の頬を軽くつつき始めた。


 もう分からん。

 態度が飛んでるチョウの動きみたいにギュルギュル方向転換して、全く予測がつかない。


「俺達って、もう残ってるやつが片手に収まる数しかいないじゃん? だからみんな兄弟みたいなもんなの。あ、アリスは別だよ。俺、あいつの事虫唾が走るくらい嫌いだから。死んでも兄弟だなんて認めたくないね」

「ふーん、そうなんだ」




 何それ、知らねぇ。




 みんな兄弟なら、どうして今まで誰も会いに来なかったのか。

 十二年もあったのに。


 ってか、黄竜に至ってはいまだに名前すら知らないし。


「雑すぎじゃない?」

「そうかな?」


 あ〜くそ、疑問を感じてねぇ。


 ここにきてこいつの人外の価値観が……


 …………ぐ、頭が痛くなってくる。

 共感が欲しい。


「ねぇ、ラーファル」




 ……




 …………




 …………あれ。

 おかしいな。返事が無い。


 いやだって、ラーファルは僕の後ろにい……




 ……い…………




 い…………




 ――いないっ!!




 あれ……?

 …………ラーファル、どこ行った?

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