全部、今更なのに
「ヴィオレット、少し良いか」
「申し訳ありません。先生に呼ばれていますので」
「ヴィオレット、時間は───」
「リーリアと約束が…」
「ヴィオ───」
「今、急いでいますので!」
(どうして私に話しかけようとするの…!?)
もう、婚約者でもなくなったというのに、何故前にも増して声を掛けてくるのだろうか。殿下の考えていることが、全くわからない。
…私のことなんて、忘れてくれればそれで良いのに。
ここ数日は、ずっと殿下から逃げ回る日々だ。流石にもう疲れてきていた。でも、心の何処かで話し掛けられることを嬉しく思っている私がいて。それが、私を余計苦しめる。
「ヴィオレット様…本当に大丈夫、ですか…?」
「ええ、大丈夫よ。何も問題ないわ」
リーリアの心配する声に答えたというよりは、自分に言い聞かせるように呟く。彼女に笑顔を向けたつもりだったが、心配そうな表情は変わらなかった。私の顔には、作り笑いと呼ぶのも憚れるような表情が張り付いているのだろう。
───おそらくあの日からずっと、私は笑えていない。
原因などわかりきっている。自分から婚約解消を願い出たというのに、私は相当諦めきれないようだ。
…この感情も、いつかは忘れることが出来るのだろうか。
「ヴィオレット様───」
「ごめんなさい、少し体調が悪いから先に戻るわ」
リーリアの返事を待たずに歩き出した。
(……リーリアが、羨ましい)
あの場にあれ以上留まっていると、そう零してしまいそうだった。だから、逃げ出した。殿下だけでなく、リーリアからも。
「…本当、嫌になるわ」
自嘲気味にそう呟く。全て認めてしまえば、少しは楽になるだろうか。
私は苦しいから逃げ出したくせに、リーリアに嫉妬していた。そんな私は、弱くて───醜い。
こんな私を殿下が見てくれる筈がない。そんなことはもともと、気付いていた。それでも、改めて考えると胸が痛んだ。
そこまで考えて、ふと足を止めた。ある疑問が頭に浮かんだからだ。
「私、どうして殿下とリーリアが笑い合っているのにショックを受けたのかしら…」
純粋に不思議に思った。ずっと見たがっていたのは、私ではないか。それなのに、涙が零れた。それは、どうしてなのか。
その答えは、容易に理解できた。
「…そっか、私、アレス様が好きだったのね」
前世からずっと好きだった。それでも、その感情は推しに向けるものだったのだ。でも今は、違う。そんな感情、何処にもなくなっていた。
いつの間にか、一人の男性として、アレス様が好きになっていた。恋を、していた。
その言葉は、私の心にぴったりと収まった。もともとそうあるべきだったかのように。
───でも。
「……気付かなければ、良かった」
もう、今更だ。今気付いて、何になる?
ただ、胸の苦しさが増しただけだ。
「……知りたくなかったな」
自然に口を衝いて出た言葉と共に、涙が一筋、頬を伝った。
早く幸せになって欲しいので、頑張って書きます、投稿します。
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