攫われたようですよ?
「シン!起きて!シンっ!!」
その夜、俺は耳元で必死に騒ぐリンの声で目が覚めた。
なんだよ、まだ夜じゃないか。
「アリアさんとウィズさんがどこにもいないの!」
その言葉に俺は飛び上がるようにして起き上がる。
「……外に出ているだけっていう可能性は?」
「こんな時間に外出する理由がある?」
俺が考えた仮定の話をエリンが即答で棄却する。
「それに、二人の部屋に二人以外の男の匂いが残ってました。その上、争った痕跡まで残っています」
エチカの並外れた嗅覚やスカウトとしての技能により、二人がいない理由が浮き彫りにされる。
「……なら、攫われたってことか?」
三人は何も言わずに、しかしその首は縦に振られていた。
……そうか、二人は攫われた…のか。
一体どこのどいつが……って考える必要も無いか。
争った痕跡があり、それでもなお二人がいないということは二人より高等な戦闘技術を持っているものだ。
そして、二人を攫う理由がある人物。
そんな人物は今この町にいる人物で思い当たるのは一人だ。
「ふざけんなよ、勇者」
自分でも驚くほど低く、恐ろしい声がでる。
しかし、そんなことが気にもならないほど頭の中が怒りで支配されていた。
「待ってくださ――――」
何やら俺を止める声が聞こえた気がしたが、今の俺には何も聞こえない、気にしない。
気付けば俺は既に宿を飛び出し、アリアとウィズを取り戻しに辺りを探しに向かっていた。
――――空を飛んで。
____________
sideエチカ
私は焦っていた。
それはそうだ。
みんなの中で一番感覚器の長けた私が寝ていたとはいえ、敵の侵入に気づかず、仲間の二人を連れ去られてしまったのだ。
私が起きたのも偶然だ。
夜遅くにちょっと御手洗に行こうとした時、なにか嫌な予感がして、アリアさんとウィズさんの部屋を覗いてみると、中には誰もおらず、荒らされた形跡だけ残されていたのだ。
私はいつもの癖でエリンとリンを起こし、三人で探しに行こうとした時、エリンに止められ、シンも起こしに行くことになった。
確かに、二人を連れて行けるほどの実力者ならシンがいなければ返り討ちにあって終わりだろう。
私はダメだ。
みんなの中で唯一長けた索敵もダメ。
冷静に考えられる頭もダメ。
敵を倒せる戦闘能力もダメ。
そんな自己嫌悪の中、シンを起こして状況の説明をする。
シンが状況を理解した瞬間、シンの口から信じられないほど恐ろしく低い声が発せられる。
そして、唐突に背中から漆黒の翼が生え、飛び立とうとしていた。
私は慌てて、止めようとしたがその静止の声はシンには届かず、シンは空を飛んでいってしまった。
……シンは一体何者なんですか。
私はアリアさんとウィズさんが攫われたこととシンの変異に驚き、激しいの混乱の渦に包まれた。




