閑話 ファノンが来た夜のお話…のようですよ?
「き、今日からよろしくお願いします!」
緊張した様子で頭を下げる愛らしい見た目の少女は、シンに拾われてシンの身の回りの世話…という名目でシンが面倒を見ることになったファノンという子だ。
元々、裏通りの貧民街で暮らしていたため、まともな服など持っているわけもなく、今はエチカのおさがりの寝間着を身にまとっている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「そうだよ、もう仲間っていうか家族みたいな感じに思っても大丈夫だよ」
リンとエチカは緊張したファノンに距離感を感じたのか、緊張をほぐそうと声をかけている。
リンは家族どころか、ライバルができているのに気づいてないのかしら。
「それで…聞いてもいいのかしら。ファノンちゃんはどうして貧民街で暮らすことになっちゃったのかを」
「…えっと、それは――――――――
ファノンが語った内容の要点をまとめると、ファノンは元々フレスベルグから歩きで二日程度の今ではもう地図から消えている村の村長の一人娘だったらしい。
何故、村がなくなってしまったのか。
それは二年ほど前に起こった突然の火竜襲撃事件が原因らしい。
当時、十歳だったファノンは村の皆に助けられ、命からがら火竜の魔の手から逃げ出し、人里を目指したそうだ。
しかし、近隣の村はすべて火竜によって滅ぼされた後で、一番近く無事なところはこのフレスベルグだったそうだ。
親を失い、身を寄せる当てのない子供は孤児院に行けば保護をしてもらえるはずだが、近隣の村から人が逃げてきたせいで食べ物の価値が上がり、孤児院でも新しい子を面倒見切れる余裕はなく締め出されてしまったらしい。
結果として二年の間、シンにしたようなスリをした報酬として貧民街の大人に食べ物をもらっていたらしい。
ファノンの話は分かってはいても暗く重たいもので、それにつられて場の空気も重たいものに変わる。
「あ、そうだ!やっぱり、シンさんの身の回りのお世話をするってことは、シンさんのことは『ご主人様』と呼んだほうがいいですよね」
そんな空気を読んでか、ファノンが話題をそらしてくれた。
自分より何歳も年下の子に気を使われてしまったのは少々恥ずかしい。
そんな少女の心遣いに乗るべく、明るい話題に転換する。
「そういえば、ファノンちゃん。シンに惚れちゃった?」
「っ!」
「はいっ!私のお母さんはお父さんのことを『あなた』って呼んでたんですけど、シンさんのことをそう呼びたくなっちゃうほどです!」
もちろん、転換した方向はリンを弄る方向だ。
それにしても、即答とは…
リンにもこれくらいの積極性があればいいのだけど。
「で、でも流石に…ほら、年の差とか?ファノンちゃんにはいろいろ…ね?」
リンは動揺した様子で遠回しにファノンに諦めさせようとしているが、先ほどのシンの顔を見る限り、正直ファノンちゃんに落とされかけてたように見えた。
全く、こんなに近くにリンっていうシンを思っている子がいるのになんてことでしょう。
ちなみに昨日の夜、シンの部屋に忍び込んだのもリンの背中を後押しするためだ。
リンはゴブリンロードの攻撃から守られてから、シンに惚れてしまったらしい。
正確に言えば、ゴブリンロードの攻撃を受け止めてから顔を覗きこまれて安否を問われた時かららしいが。
「でも、シンさんもまだ若いですし、その…何らかの間違いが起こらないとも限らないかなぁ…って思いまして」
そんなことを言っているファノンにリンは言葉を失っているが、なんだかんだ言って仲良くやるでしょう。
リンは元々、子供は好きな部類ですし、良くエチカの頭をなでたそうにしていたので、ファノンは恐らく、みんなの妹枠に収まるでしょう。
まだまだ眠くならないのか、みんな楽しげに話しているし、今日の夜のお話はもう少し続きそうね。




