反撃の時間のようですよ?
「シン!ボロボロじゃないですか!どうしてこんなに?」
「はっ!だから言っただろ?シンは実力不足だって」
俺は今、アリアの膝の柔らかい感触を後頭部に感じながら、治癒魔法で傷の治療を受けている。
パズ・サヴォ-ディの方はウィズとギリーのパーティーに俺の代わりに入ったタンクのルミナスが相手をしている。
ウィズが魔法で風を相殺し、相殺しきれなかった不可視の刃をルミナスが防いでいるが、ルミナスの体にはすでに無数の切り傷ができているし、ウィズが魔力を切らしたら倒すのがさらに難しくなる。
ゆっくりと休んでいる暇はなさそうだな。
「アリア、もう大丈夫だ。さて、反撃と行くか」
「え?いや、シンはもう気も魔力も少ないでしょう?後ろで休んでてください」
立ち上がり盾を構えている俺を見て、アリアはどこか心配そうな声音だ。
「大丈夫だ。どっちも六割ぐらいは残ってる。というか、お前らが来るのを信じて温存してたんだし」
アリアとギリーは驚き、うまく言葉が出てきていない。
シンは魔人を一人で足止めしただけでなく、気と魔力を温存して戦っていたというのだから。
本来、魔人とは、Sランクの冒険者パーティーでも全力を尽くして、ようやく討伐できるかどうかという存在だ。
それもそうだろう、どんな戦士よりも高い身体能力にどんな魔法使いより高い魔力、それに人並みに知恵もあるのだから搦め手も効きずらい。
「俺が突っ込んで本体を抑え込む。たぶん、あの暴風はウィズが何とかしてくれるはずだから。ギリーは魔人を仕留めてくれ」
俺はギリーに作戦を伝えると肯定の言葉を聞く前に走り出す。
ものすごい勢いで走り寄る俺に気づいたのか、パズ・サヴォーディは目を見開くが次の瞬間にはにやけた笑みを浮かべた。
「いいねぇ!最高ぉ!シン、さっきは本気じゃなかったんだね!?」
今の俺は体が耐えられるギリギリまで気で身体強化をしている。
さっきまではほとんど気を使わずに急所だけを守るように徹していたため違いは歴然だろう。
パズ・サヴォーディは俺の動きを止めるために風を操ろうとしたが、その風はたちどころにそよ風となって霧散していく。
ウィズが俺たちの狙いに気づき、邪魔をさせないように魔法で打ち消しているのだ。
俺はパズ・サヴォーディと目と鼻の先の距離になった時、魔力と気を混ぜて作った壁をパズ・サヴォーディの背後に作り出す。
俺は走る勢いをそのままに力任せに盾で殴りつけ、透明な壁と盾との間に挟まれたパズ・サヴォーディを押さえつける。
どうやら、限界寸前まで強化した筋力なら魔人の筋力とも拮抗できるらしい。
それにパズ・サヴォーディの方は体勢が悪いので、暴れるのを無理やり押さえつけることに成功する。
「おいっ!放せっ!この後ろにあるのは何なんだよ!」
「ちっ、シン!タイミングを合わせろよ!」
「わかってる!」
ギリーがいるのは透明な壁の向こう側だ。
つまり、ギリーが切りかかった瞬間に壁を消せばいいってことだ。
「いくぞ!剣技『炎威閃乱』!」
「ぐはぁぁっっっ!!!」
背中を大きく切り開かれ、焼け焦がされたパズ・サヴォーディは大きく悲鳴を上げながら倒れる。
ギリーが使ったのは、気の身体強化以外の使い方、闘技だ。
今回は剣の技のため、剣技だが他にもいろいろ種類が存在する。
闘技は一見すると武器に魔法を付与したように見えるが、使われているのは純粋な気だけだ。
気は扱いやすいが単純なことしかできない。
しかし、今回のギリーの剣技『炎威閃乱』は剣に炎を纏わせ、その上、剣の威力も上がっている。
こう考えると複雑でできないように思えるが少し違う。
闘技において、武器は体の一部だ。
体の一部なら強化することも一部に炎を纏わせるのも気だけでできる。
まぁ、使うには気の扱いを熟知し、使う武器の理解を高めなければならないし、そこまでして特定の動きでしかできなかったりするため、単純なことしかできないという言葉に間違いはないが…
俺たちは完全に剣技が決まり、魔人が倒れたことにより張り詰めていた空気が緩む。
カイル達のほうも魔物をまだ倒し切れてはいないようだが、俺たちが合流すればすぐに倒しきるだろう。
「…やるな、下等種族。今日のところは引いてやる」
――――パズ・サヴォーディがいつの間にか空に浮かびあがり、逃げ出そうとしている。
完全に緩み切っていた。
ここまで追いつめて逃がすのはアホと言われても何も言えないだろう。
「ところでシン、お前は勇者じゃないな?紋章がなかったからな。次は本物の勇者ともども殺してやるから覚悟しておけ!」
そう言い残して、パズ・サヴォーディは空高くに逃げて行った。
ウィズが魔法で追撃をかけていたがどれもひらりひらりと躱されて当たず逃がしてしまった。
…最後の最後でやらかしたが、町が守れたのだから良しとしよう。
そう思うことにした俺たちは残こされた魔物を倒しに向かった。




