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断片・未解決事件

 あれはね、未解決のままですよ。


 テレビ番組やらでは火事で死んだ女性が犯人みたいに言われちょりますが、根拠はほとんどないんです。燃えた建物にね、お宮っちゅうかなんちゅうか、あれもよくわからんもんでしたけど、そこに不法侵入しちょったことは確かでしょうけど、凶器が出たわけでもなし、証拠は何もないんですわ。


 そもそも身元すら不明ですから。

 正直言いますとね、よその県警に文句つけることになりますけど、處田(ところだ)家の火事で出た女性の遺体の DNA 鑑定をしちょってくれたらと思わずにいられません。他殺死体やってことはわかっちょったんですから。


 そのときはあの家に杏寿(あんじゅ)ちゃんが監禁されちょったってわからんかったけん、仕方ないかもしれませんけれども、サンプルも取らんと火葬されてしまったのはげにもったいなかったと何度も思いましたわ。


 まあ、あのころのことですけんね。仮に鑑定しちょっても、火事で焼けちょりますけん、ダメだったかもしれませんでしたけれども。うちもお宮の遺体から取った毛髪だのを DNA 鑑定に出しましたけども、焼けて変質してしまっちょるけん無理やと言われてしまいましたから。


 ほいでもサンプルは保管されちょりますけれども。いつか、科学技術が進めば、あれが誰やったのかわかるかもしれんと望みをかけちょりますが。


 杏寿ちゃんの母親なあ。自分のDNA サンプルの提出を拒否しよりましたわ、最初。もう忘れたいから放っておいてほしい、やと。どの口が言いよるかと思いましたよ。被害女児の私物も、とっくの昔に全部処分して、何も残っちょらんていう話やないですか。写真もないのやと。親子の情やら一片も感じられんかったですね。思えば気の毒な子です。


 處田家で殺されたんか、そうでないんか、せめて生死だけでもはっきりさせてやりたかったと思いますよ。家族のためではなく、本人のためにね。


 母親はなあ、強引なことも言って何とか説得しましたけど、遺体のほうの鑑定不可能だったと結果を伝えたら『良かった』と言いましたけん。『あの子が連続殺人犯だったりしたら、私たちの人生がめちゃくちゃにされるところだった』って、電話口でもわかるほどのホッとした声で言いましたけん。


 仮にも自分の子が、行方不明になって何年も経つ子が、死んだかもしれんちゅうのにその言い草ですわ。私もいろいろな犯罪者に相対してきましたけども、あんなに嫌な気持ちになったことはそうありません。


 私たちも全力を尽くしましたよ。

 あのお宮の中で死んだ女が犯人だと証明されれば、私らにとっても一番でしたけん。マスコミの報道で注目も高くて、プレッシャーも大きい事件でしたけん、家に帰る間も惜しんで証拠を集めようとしました。


 十分な証拠があれば被疑者死亡でも公訴できるんです。でもそれに足りるほどの証拠が集められなかった。在職中にそれができんかったことには悔いが残りますね。あの犯人は挙げたかったですよ。


 二番目の事件、長男一家皆殺しのですな、あれは本当にむごくて。小学生の子まで無惨な遺体にされちょりました。何度も何度も執拗に攻撃されたことがよくわかる状態でした。許したらいけんやつですよ、あれは。


 真相ですか。そりゃ、わかりませんとしか申し上げられませんよ。


 ありとあらゆる可能性は当時、検討したと思うちょります。マスコミさんがときどきテレビで、なんやら特集しちょられますけども、タレントさんがおっしゃることは我々も考えなかったわけではないですけんね。


 處田(ところだ)徳子(とくこ)鮫谷(さめたに)揚羽(あげは)については徹底的に調べちょりますよ。烏帽子(えぼし)杏寿(あんじゅ)ちゃんが犯行に加担している可能性だって考えて捜査しました。でも、誰についても容疑者と言えるだけの証拠が出なかった。


 もうね、本当は、灰色の服を着た女なんぞおらんかったんじゃないかなあって。

 私らの見落とした、殺人鬼みたいなんが別にいたんじゃなかろうかと思ってしまいます。これは元警官の言葉やなくて、ただのもうろくジジイの愚痴ですが。


 お宮にいた女性の遺体が火事で燃えなければ、結果は違ったかもしれません。

 誰かが事件をうやむやにしたくて、わざと火を放ったんやないかとまで思ってしまいますな。落雷は確かにあったんやし、これもジジイのたわごとですけれども。

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