断片・呪い
あの調査ね、うちの大学の研究室で行ったんですけど。
僕はゼミに入ったばかりの三年で。調査は教授と院生の先輩がメインでやりました。僕たち学部生は、荷物運びとか、写真の整理とか、雑用ばかりで。
墳墓には行きましたよ。住宅の裏をちょっと上ったところに、赤土がむき出しの場所があって、大きな石組が露わになっていました。
ただの古代の墓跡だと、穴を掘って棺を納めて、盛り土をしただけみたいなものも多いですから。それに比べるとずいぶんと立派でしたね。
ただ、上に載せられていた石こそ大きくて、いかにも古墳って感じだったんですけれども。よく見ていくと底面や側面はきっちりと切られた石が敷き詰められていて、どうやら古いものじゃないってことがすぐにわかったそうなんです。ええ、古くても江戸時代中期以降のものというのは最初の調査の時点で言われていました。
ただ、中に安置されていた骨、これは古くて。
東京に鑑定に出したんですけど、少なくとも平安初期、もっと古いかもしれないということでした。
どこの誰とかは、手掛かりはないですね。副葬品が一切なかったんです。というか、骨は丸裸で、そのまんま石の上に並べてあったそうです。
人間の形に、きっちりと。大学に写真は残ってます。
頭蓋骨はなかったんですけど。落雷で砕けた可能性もなくはないけど、おそらく最初からなかったんだろうって教授は言っていました。
僕は現場を見ていなくて、先輩たちが話しているのをもれ聞いただけなんですけど。丁重に葬ったというより、なんだか閉じ込めたみたいな感じだったって……。
墳墓の周りにはいっぱい小枝がありました。いや、落ちているというか、積んであったというべきかなあ。石組みの周りぐるりに、たくさん。
ヒノキの枝だったそうです。墳墓の下の、ええ焼けたお宮、そこにあったヒノキの木、そこから取ってきたみたいでした。
ええ、だから地主さんがお祈りだかなんだかするのに、それを使っていたみたいなんです。証言もいくつか取れてます。何をどういう風にしていたのかちょっと知りたいねって言ってたんですけど、地主さんも、ご親戚もみんな亡くなっちゃったから、それについて知っているひとがいなくって。
まあ、僕たちのいたのは考古学教室で、民俗学ではないので。枝の数からして、長いことやっていたんだろうねって思っただけなんですけど。
……ああ。
ええ、その話ですか?
調査の少しあとから、教授がどうも目の調子がおかしいって言い始めて、病院に行ったら手術をしたほうがいいって言われたそうで。そのとき手術は成功したって聞いたんですけど、結局十年後くらいに失明して、大学も退職したって聞きました。今はどうなさっているんですかねえ。
なんだか、そのときの先輩たちにも目を悪くしたひとが多いんですよね。
交通事故で目にケガをして見えなくなったとか、病気でとか、なんだかそういう話をよく聞くんですよ。いえ、卒業したあとは研究室のひとと連絡を密にとっているわけじゃないんですけど、それでもそういう話が聞こえてくるんです。
盛ってるんだろうって、ゼミに関係ない友達に話すと言われるんですけど。
むしろ逆ですよ。ちゃんと調べたらもっと出てきちゃうんじゃないかと思って怖いんです。
そもそもあの墳墓が見つかって、調査することになった経緯があれでしょう。だから、なんか嫌だな、って。あのときのゼミ生、みんなそう言ってますよ。次は自分じゃないかってビクビクしています。
ファラオの呪いって知ってます?
子供のころ、ピラミッドのことを書いた本で読みました。ツタンカーメン王の墓を調査した人間が、次々に謎の死を遂げたってやつ。
今は眉唾って言われてるみたいですけど、子供のときはドキドキして読みましたよ。でもね、そういうことが身近で起こってしまうと……。
そうです、骨はもうないです。焼けてしまいました。
しばらく大学で保管していたんです。返却しようにも地主さんが亡くなって、相続人も次々に亡くなってしまうので話が滞って。
ええ。漏電で。大学の避雷針に落雷したとき、倉庫の電線がスパークして。煙が出ているのにはすぐ気がついて、消火したんですけど。骨だけ焼けてしまいましたね。
文書とか、他のものは無事だったので被害が少なかったのは良かったんですけど。その骨だけ焼けたのが、なんだかおかしな感じでしたよ。
ええ、本当に。とっても。




