断片・現場検証
私の子供のころは、消防団って遅くとも四十になったら抜けるイメージでした。
今はね、若いもんが地域におらんから。六十近くなっても残っちょるひとがおりますわ。新しいもんが入ってこんけんね。確か、この地区で一番若いのが、三十八ですね。
ですけん、あのときは私も若手とは言わんですけど、中堅くらいの団員でしたよ。出動がかかったら、店は女房にまかせて消防車に乗るですよ。ひとの命や財産がかかっちょりますからね。責任は重いです。
あの日は、店を閉めた後に出動がかかりまして。ええ、五時には店は閉めますけん。みんな、そうですよ。
周りは農家ばかりですけん、日が暮れてから店を開けちょっても誰も来ませんけんね。国道沿いにはコンビニもありますが、そげん使わんです。
孫が遊びに来たとき、
『じいちゃんちの周りはコンビニも自販機もないし、お店が五時に閉まって夜は真っ暗』
とびっくりしちょりましたが、そんなもんじゃないのですかねえ。農村ちゅうのは。都会みたいに宵っ張りじゃあないですけんね。
代わりにみんな朝が早い、夜が明けたら田んぼに出て、道の駅の朝市はひとがたんと出ると言うたら、また、びっくりしちょりましたよ。
ああ、すみません。あの日の話でしたな。
垂郷には普段は行きやせんですが、火事となったら別です。消防署は離れちょりますけん、そっちから登ってくるのを待っちょったら三十分はかかってみんな燃えてしまいます。消防団員がきばらんといけんのですわ。
あそこは山の中で、まっすぐ行ける道がないですけん、到着まで時間がかかります。火元は私有地内のお宮でしたが、もうごうごうと燃えちょりましたね。
こりゃもういけん、というのは見たらわかりました。全焼、いいところ半焼で、鎮火しても使い物にはならんです。
もちろん消火はしましたが。まわりには建物はありませんでしたが、木ぃはありましたけん。山火事にでもなったらおおごとですけんね。
火勢は強かったです。私らが着いたときには、お宮全体が薪みたいに燃え上がっちょりましたもんねえ。途中で、屋根が音を立てて崩れました。鎮火したら黒焦げで、根太と柱しか残っちょらんような有様でした。
その日はもう真っ暗でしたけん、私らは引き上げて、消防署の現場検証は翌日ということになったです。
けど、その結果をニュースで知って驚きました。中にひとがおったそうやないですか。
消火のときに、集まっちょった地区のひとに確認したんですよ。逃げ遅れたひとはおらんですか、と。おらんちゅう返事でした。使っちょらん建物のはずやから、と。
まあ、ねえ。中におるのを知っちょっても、あの火の勢いでは助けに行けんかったでしょうが。逃げられんかったものですかねえ。お宮なんぞ、扉に鍵だのないでしょう。飛び出せば逃げられそうなものだけんどねえ。
幼なじみが役所で偉くなっちょって、消防のひとから聞いたという話をしてくれたことがあったですよ。また聞きですし、かなり酔っちょったときにした話ですし、もともと大げさなことを言うやつですけん、どこまで本当のことかはわからんですが。
ご遺体は、お宮の中に足を投げ出して座っていたそうです。新聞には死因が焼死と書いてありましたが、現場検証に行ったひとははじめはそう思わんかったそうです。崩れた梁が落ちて、ね。頭を。潰しちょったそうなので。
もし、そのせいで死んだなら、私らが到着したときにはまだあの火の中で生きちょったことになりますけん。そうやったら嫌やなと思うたのですが、それは違うらしくてホッとしましたが。
煙吸ったか何かで、意識を失って、死んだ後に屋根が落ちてきて頭が潰れた。そういうことやないかということで。お気の毒ではありますが、そげやったらどちらにせよ、間に合わんかったいうことですし。連続殺人犯やったなら、因果応報なのかなあとも思いますしなあ。
それで、ご遺体を運び出すために署員の人が落ちた梁をどかそうとしたそうなんですよ。そげしたらですね、砕けた頭の一部が焼けた梁に張り付いとって、動かした拍子に飛んだそうなんですわ。ぴょーん、て。
それでですな。ちょうど目のところが、木の枝に引っかかったのだそうです。
お宮のすぐそばにあった、倒れた木ぃの焼け焦げた枝に。
起きちょった事件が、事件だったでしょう。だけん、居合わせたもんはみんな気味悪く感じたそうです。
見事に、くし刺しやったそうなので。焼けた目玉が。




